溢れる想いの先に

家に帰り着くと、すぐに山菜を厨に運んだ。籠を片づけようと今一度外に出てみると、視界の隅に何か黒い塊があるのに気づいた。

「………鳥?」
遠くの山を背景に、その小さな塊はだんだんと大きくなっている。目を凝らしてよく見ていると、それはこちらに近づいてきているようだった。

「あれって…」
もしや、と思った。塊と一緒に、誰かの叫び声のようなものまで聞こえてくる。

「……………ォ……ォ…!」

「………え?」

「………ズ……コォ………!」
数メートルきたところで、期待が確信に変わる。鋭い嘴と真っ黒な羽根。

───鎹鴉!


「ネズコォォオオオオオ!!!」

「きゃああああああああ!!!」
びゅんっと強い風が吹いて、下から上へ突風が舞い上がる。土埃も一緒に舞って、ぱらぱらと上からこぼれ落ちてきた。ゆるくなっていたりぼんが、風圧で外れて飛ばされていく。

「銀子ちゃん!?」
上空で飛んでいるのは、無一郎くんの鎹鴉の銀子ちゃんだった。彼からの手紙を真っ先に浮かんだが、ただ事でない銀子ちゃんの様子に胸がざわつく。

「襧豆子!今スグ出ル準備ヲシテ!アノコノ所二行クワヨ!」

「…あの子って無一郎くん?何かあったの!?」

「説明ハアト!ハヤク来テ!襧豆子デナイトダメナノ!」

彼に何があったというのだろう。早く、という銀子ちゃんの言葉に懸念が湧き上がる。

「───わかった!待ってて!」
足がひとりでに意志をもったように動いた。
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