溢れる想いの先に

*襧豆子side*

山菜を採りに出てきたはいいものの、季節の変わり目なのか、今日はそういう日なのか、さほどの量を採ることはできなかった。普段の量の三分の一程度だ。誰かと来ていればもう少し粘るところだけど、自分ひとりでこれ以上は難しいだろう。そう判断して、早めに家に帰ることに決めた。

ふぅっとため息を吐きながら、今日の収穫が入った籠をのぞきこんだ。山菜の中に、一枚の葉っぱが紛れていたので手を伸ばす。葉柄を持って、手持ち無沙汰にくるくると回してみると、ボロボロの葉がまた更に崩れてしまった。

のどかな日差しを浴び、荒れる天候を耐えしのぎ、まるで全ての役割を終えたように見える。少し葉をつまむだけで、ぱりぱりと音を立てて散っていった。冬支度を終えた木々を見上げ、籠を背負って歩きだした。

今日お兄ちゃんたち三人は、少し遠くの町まで炭を売りに出かけている。きっと疲れて帰ってくるだろうから、三人が帰ってくるまでに夕餉の支度は終えておきたい。

しばらく仕立て屋の仕事もないし、今日お兄ちゃんたちが炭を全部売って帰ってきたら、数日は仕事もゆるやかになるはずだ。

明日、無一郎くんに会いに行こう。会えるまで、何度も訪れよう。もし拒絶されたって、そうなればただ受け入れるだけだ。

『会いに行きなよ』
昨夜そう言ってくれた今朝の彼は、腫れぼった目で普段どおりの挨拶をしてくれた。怖くても会いに行かなければ、背中を押してくれた善逸さんの想いまで踏みにじってしまう。

奮い立たすように、両手で握りこぶしを作っていた。
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