溢れる想いの先に

庭には大きな木があった。敷地内を囲った竹垣に沿うように、数本植えられた木々は、季節の移り変わりを教えてくれた。そのうちの一番大きな木に、自分の相棒はよく止まり木として使っている。

体が重く、締めつけられるような頭痛に耐えていた。頭に紐でも巻かれ、強い力で引っ張られてるような感覚がする。気だるい体を引きずりながら家に着くと、すぐに庭へ向かった。

「…銀子。いる?」

「アラ、オカエリナサイ」
いつものように声をかけると、黒い翼を羽ばたかせ、銀子が降りてきた。縁側の床板へ降り立つと、長いまつ毛をぱちぱちと瞬かせる。

「チョット。ドウシタノ?顔ガ赤イワヨ。呼吸モ苦シソウ」

「走って帰ってきたから…銀子、お願いがあるんだけど」

「オ願イ?何デモ言イナサイ!」
銀子が胸を張るように大きく翼を広げた。この子は本当に頼もしい相棒だ。初めて単独任務を任されたときも、柱に就任したときも、鼓舞してくれたのはいつも銀子だった。

「………………がんばれって言ってくれない?」

「…エ?ソレダケ?」

「うん。あの頃みたいに………僕ならできるって。がんばれって」

情けなく声が震えて、体まで震えだした。

僕の意思を汲み取ろうとするものが、銀子の黒目の奥に見えて、一瞬沈黙する。すぐに喝を入れるように、嘴を開いて叫んだ。

「アナタナラ大丈夫!アナタナラデキルワ!ガンバッテ!!!」

銀子が床板を蹴って飛び立つ。葉がほとんど散ってしまった木の周りを、泳ぐように飛びはじめた。
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