溢れる想いの先に

目をまん丸くさせて驚く冨岡さんは、なぜ僕がこんなに取り乱しているのか、理解が追いついてないように見えた。

善逸に続いて、まさか冨岡さんまで襧豆子に求婚する気でいるのか。

ひどく心がざわつく裏では、諦めたはずじゃないのかと自分に呆れ返っていた。冨岡さんも同じ痣者の身だ。その上で襧豆子との将来を想うのならば、だったらなぜ自分は彼女を諦めようとしているのかわからなくなってきた。

僕だって本当は──。
あまりにも幼稚で理不尽すぎる怒りが沸き起こって、自身に反吐が出る。

「どういう意味で、それを襧豆子に渡すんですか?」

「?羽織を繕ってくれたお礼だが…?」

「………………お礼?」

「指輪なら小さいからな。以前よりかは快く受け取ってくれるはずだと考えたんだが…」

『冨岡の話は深く考えなくていい。言葉が足りてねーだけだ』唐突に、温泉で宇髄さんが言っていたことを思い出した。

冨岡さんが襧豆子に贈り物をするのは、どうやら初めてではないらしい。指輪に関しては、求婚の意味を込めて渡そうとしているわけではない。なんとなく冨岡さんの意思を理解してくると、膨れ上がっていた怒りの感情に小さな穴があいた気分になる。

それにしたって…。

「それ、指輪じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「だが、髪飾りや懐中時計、手鏡等は贈りつくした。あとは指輪だ」

店員の態度はそういうことかと合点が合った。同時に元水柱の財布事情を、失礼ながら心配に思ってしまった。
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