溢れる想いの先に

しるこによって温まっていた体は、歩いているうちにその効果が薄れていった。太陽が隠れているせいか町全体は薄暗く、防寒着を身に纏う人々が増えていた。

特別寒いのがだめというわけではないが、自分もそろそろ冬支度をした方がいいだろうかと、町ゆく人々を眺めながら思った。数月経てば、また白銀の世界がやってくるだろう。

あてもなく通りを歩いていると、目の前を麻の葉模様が横切る。一瞬息を呑んだが、彼女と同じ着物の柄というだけで、すぐに人違いだと気づいた。上機嫌にその人が持っていた紙袋は、店の名前が印字されてある。その名前に見覚えがあった。

立ち並ぶ店のひとつへ視線を向ける。

べつに用事があるわけでもない。
それでも、無性にあの指輪の行方が気になった。梅の花の指輪は、まだ店頭に置いてあるのだろうか。

売り切れていたところで、自分には関係ない。それなのに懲りもせず、再び自分は宝飾店まで歩みを進めていた。
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