君よ進め

***

襧豆子ちゃんが部屋に戻っていくのを見送って、しばらく時間が経った。夜が深くなり気温がぐっと下がりだして、体が震えた。けど部屋に戻る気になれず、床に就こうという気にもなれなかった。

「………いつまでそこにいるんだよ」

廊下の奥の曲がり角に向かって声をかけると、炭治郎と伊之助がゆっくりと姿を現してきた。

「…善逸」
「あ、励まそうとかしなくていいからな」

今コイツらから優しい言葉をかけられたら、よけいに惨めになりそうだ。言われる前に釘をさす。炭治郎はまるで自分が振られたみたいに俯いてるし、いつも奇想天外な行動をする伊之助まで黙りこくっている。伊之助でも空気を読むらしいと思っていたら、それはすぐに思い違いとわかった。口を尖らせ、思い悩むような素振りを見せた後に言った。

「………おッ…!」

「………お?」

「お前!!!ネズ公に振られたのか!!!番になれなかったのか!?」

「ア゛ーーー!!!はっきり言ってんじゃねぇよ!テメェ空気読めや阿呆猪ーーー!!!」

「二人とも!静かに!夜だから!夜中だから!」俺と伊之助を交互に見比べ、なだめる炭治郎の声も負けじとうるさかった。

ピタりと三人が声をとめ、それぞれで気配を探る。襧豆子ちゃんが起きてくる気配はない。ただ遠くの山の方から、鳥が木々から飛び立つ音が聞こえた。
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