君よ進め

「襧豆子ちゃん。泣かないで」

「………っ…はい…」

「最後に俺から助言があります」

「…助言?」
もう一度小さく深呼吸をした。

がんばれ俺。今まで情けない姿ばかり見せてきたんだ。こんな時ぐらい、かっこいい男になれ。襧豆子ちゃんが後から後悔するぐらいの男に。そう奮起させても、これはすでに時間の問題だった。

「会いに行きなよ」
襧豆子ちゃんの大きな目が更に大きくなり、涙がまた一筋流れ落ちた。それは宝石のような美しい涙だった。

「大丈夫だから。襧豆子ちゃんなら絶対。それにきっと…アイツだって会いたがってると思う。アイツが襧豆子ちゃんを泣かすようなことしたらさ、炭治郎より先に俺が殴りにいくからねぇ。アイツ元柱だから返り討ちにあうかもだけど」

いつものようにふざけた調子で言ってみる。泣くな。泣くな。まだ泣くなよ、俺。彼女が座ってる側の反対の手で、足の肉を強くつねった。

襧豆子ちゃんは少し考える様子を見せた後、やがて決心したように力強く頷いた。


………あー、くそ。
こんな可愛い子に泣かれて、こんなに健気に想われてるアイツが心底羨ましい。絶対一発殴らせろよ、昆布頭。自分より年下の天才剣士に毒づく。

最初の最初から気づいていた。アイツと会ってるときの襧豆子ちゃんの音に。そして襧豆子ちゃんと話してるときのアイツの音に。二人仲良く同じ音をさせていたこと、とっくに知っていたんだ。

それでも。
君の大好きな金平糖の色に、俺がなりたかった──。

「善逸さん。ありがとう」
背筋を伸ばし前を向いた彼女は、もう涙をとめていた。炭治郎によく似た、強さと優しさを秘めた瞳。そんな彼女は、やはり他の誰よりも美しいと思えた──。
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