君よ進め

*善逸side*

俺は昔から耳が良かった。聞いていて心地のいい音や、聞きたくない音まで、いろんな音が鼓膜を通して脳内に響いてきた。

人にはいろんな音がある。

喜びの音、怒りの音、悲しい音。その音はいつも勝手に耳に入ってきたから、いつしか音でその人の感情が読めるようにもなった。

俺の初めてできた友達。炭治郎は、泣きたくなるような優しい音をしていた。妹の襧豆子ちゃんもそうだった。純真無垢。そんな言葉がまさにぴったりの女の子。最初は一目惚れだったけど、次第に襧豆子ちゃんの優しさや強さに惹かれていった。

鬼だろうと人間だろうとかまわなかった。
この子と添い遂げたい。
そう思って結婚を申し込んだ。

けど、本当はわかっていたんだ。
───俺は耳がいいから。


とんとん。
静かに障子を叩いて、中にいる人物に声をかけた。

「襧豆子ちゃん。起きてる?」
寝ていたらかまわないと思っていた。だが、決心が鈍る前に伝えておきたかった。矛盾な気持ちを抱えたまま、ここまで来てしまっている。すぐに中から返事が返ってきた。

「起きてます」

「…少しだけ話さない?」
そう言うとすぐに襧豆子ちゃんが出てきた。手にはあの小瓶を持っていて、中の金平糖がからんと音を鳴らす。

今日の一件で知った、襧豆子ちゃんの宝物。
ただの金平糖なのに、なぜだろう。

まるで牽制されているような気がするのは。それは、決して襧豆子ちゃんからではない。
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