君よ進め

羞恥心からか、行きとは違う意味で早足になっていた。警戒心が散漫になっていたのかもしれない。ひとりで町へ行くときは、くれぐれも注意すること。お兄ちゃんに善逸さん、伊之助親分からもよく言い聞かされていたのに。

帰路につくため通りを歩いていると、突然後ろから衝撃を受けて倒れこんだ。

痛みに耐えながらすぐに顔を上げると、目の前で走り去っていく男の後ろ姿が見えた。男の手には、今しがた佳代さんからもらった茶封筒が握られている。

…お給金!
「だめ!返して!!!」

大声で叫んだところで、足をとめてくれるひったくりなどいない。急いで上半身を起こし立ち上がろうとすると、数メートル先の男が、突然立ち止まった。

「いてっ!!!」
頭を押さえてよろける男の足元に、小石が一粒転がっていた。小石に気を取られてる間に、また別の小石がどこかから飛んできて、今度は男の片足に命中する。

「いっ!!!」
男が今度こそ膝から崩れ落ちたところに、急いで駆け寄った。けど、私がそれをするより先に、男から茶封筒を取り返した人がいた。


「…善逸さん!」

「襧豆子ちゃん!大丈夫!?」
善逸さんは男の両腕を背中に回し、逃げないようにと拘束してくれていた。

町民たちが騒ぎはじめた中、急いで周りを見渡した。不安げな表情の人々に、野次馬根性が丸出しの人々。その中に、石を投げて助けてくれたそれらしい人は見当たらなかった。
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