君よ進め

───襧豆子ちゃん、お花畑に行かない?

冬が近づいてきた今の季節、咲いている花は少ない。花が散る前に見に行こうと、あの日も善逸さんに声をかけられた。彼からのお花畑の誘いは、私が鬼だった頃から変わらずにある。にこにこと笑顔を絶やさない善逸さんが、少しだけ緊張した面持ちをしていたから、肩に力が入る。

覆われた灰色の雲の下でも、咲いている花は残っていた。少しさびしくなった花畑の中に、彩やかな黄色のたんぽぽが一輪咲いているようだった。『襧豆子ちゃんはお花みたいだね』とよく嬉しそうに言ってくれるけど、お花のように明るくてきれいなのは、善逸さんの方なのだ。

花かんむりを作る善逸さんの手がわずかに震えていて、決して暑くなどないのに、顔が赤く染まっていた。

頭に花かんむりを乗せてくれる手が、私の手を包む。絞りだすような声で紡いでくれた言葉は、私の心を掻き乱した。

生まれて初めて、誰かに好きだと言われた。父や母、きょうだいたちと言い合っていたそれとは全く異なっていて、結婚という単語でさらに心臓が波打つ。


『襧豆子ちゃんの気持ちはわかってる。だから、一年後にまた返事を聞かせてほしい』

震える声で、それでもまっすぐ瞳を見つめて、善逸さんはそう言ってくれた。手が震えているのは、きっと二人のものだったと思う。

私の気持ちを汲んでくれた。そのうえで想いを告げてくれた。善逸さんの胸の内を考えるだけで、心苦しくて息ができなくなる。その優しさに甘えてしまったら、楽になるのだろうか。

焼き焦げるような恋慕の情。
それを知ってしまった今、私は頷くことしかできなかった───。
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