この街の奴らはput ya hands up!
。*゚+──一二三と独歩が授業中に手紙を回す話
五時間目の古文の授業は、どうしても眠くなる。昼食が済んで満腹な所に、おじいちゃん先生のゆったりとした話し方、馴染みが無さ過ぎる昔の言葉遣いに、段々と瞼が重力に逆らえなくなって来た。
既に机に突っ伏して寝ている生徒が二人程居る。それを指摘するタイプの先生ではない為、小声で雑談をしている女子や次の授業の宿題を慌てて進めている男子も居た。
半目になりながらも授業を聞いていると、背中をシャーペンでつつかれる。振り向くと、後ろの席の一二三が小さく折り畳まれた紙を寄越して来た。
授業中によくある、女子の手紙交換だ。誰に回せば良いんだ? 俺がキョロキョロと近くの席を見回して居ると、一二三が笑いながら言った。
「独歩ちん宛!」
「はぁ?」
俺に手紙を回す変わり者がクラスに居るとは。不思議に思いながら、貰った手紙を開いて読んでみる。
『古文まぢねむすぎて、いとおかし』
間違いない。これは一二三が書いた文字だ。俺は手紙を元通り畳んで、後ろの席の机に置く。そして前を向いた瞬間に、再び背中をつつかれた。一二三はまた新たな手紙を寄越して来る。
『次の授業なんだっけ??』
「次は数学だ」
後ろを向いて、小声で返事をする。一二三は唇を尖らせた。
「独歩〜、手紙には手紙で返してくれよな〜」
「はいはい」
適当にそう流して前を向く。その後も背中をつつかれたが無視をしていると、一二三は俺の机に向かって手紙を投げ込んで来た。
『春はあげぽよ』
真面目に授業を聞け。
『せんせー今日は〈要するにねぇ〉って十一回言った』
確かによく言ってるなとは思ってたが、お前もよく数えてたな。真面目に授業を聞け。
『どっぽ〜〜帰りカラオケ行かね〜?』
真面目に授業を……まぁ、カラオケは久々に行きたいかもな……。
そんな「別に今寄越さなくても良いだろ」という内容のノートの切れ端が、一方的に届いて来る。そのお陰とは言いたくないが、なんとか居眠りせずに五時間目の授業を乗り越えた。
六時間目の準備をしていると、一二三が肩を強く叩いて来る。
「一通くらい返事くれても良いだろ〜」
「カラオケなら行く」
まだ不満気な顔をしている一二三に、自販機のジュースを奢ってやると伝えると笑顔になった。
数学の担当教師は、居眠りしている生徒が居たら名指しして起こす。そして前に出て問題を解けと言われるので、古文の授業と違い少しだけ緊張感がある。
そんな授業中でも、一二三は相変わらず手紙を回して来た。
『あと三十分。なげーな』
確かに長い。六時間目の授業は、他と比べてより長く感じる。そんな事より真面目に授業を聞け。
そして一二三の席に戻してやろうと手紙を折り畳んでいた時、先生に名前を呼ばれた。
「授業中に関係無い手紙書いてるんじゃないぞ〜」
「す、すみません……」
俺が手紙を書いていた訳ではないが、運が悪く先生に指摘されてしまった。その後は案の定前に出て問題を解く事になる。振り返って一二三を睨んでやると、奴は笑顔でピースサインをしていた。
授業を真面目に受けていたはずなのに、全く答えが分からない。先程のピースサインが頭に浮かび、当てずっぽうで二と書いた。
「正解。ちゃんと授業聞いてたみたいだな。では次──」
席に戻ると、一二三が両手でピースをしながら出迎えて来た。
「俺っちのお陰じゃね?」
「そうだな、命拾いした。そもそも、お前の所為なんだからな」
「はは、落ち着けって〜」
そんなやりとりをしていると、再び先生がこちらに来る。
「伊弉冉、観音坂にちょっかい掛けてるんじゃないぞ〜」
「へーい。俺っちも前出て問題解く系すかー?」
椅子から立ち上がり、嬉しそうに一二三がそう言うと、先生は面倒そうに頭を搔いた。
「伊弉冉は目立ちたがりだから、あえて出さない。この間も、答えの隣に勝手にサインなんか書いてただろ」
ぴしゃりとそう言われ、教室が笑いに包まれる。
「俺っち将来は有名人になっちゃうんで! サイン貴重っすよ!」
そして椅子に座り大人しくなったかと思った矢先、また俺の机に折り畳まれたノートの切れ端が投げ込まれた。
開くと、一二三のサインが書かれている。
シンプルだが唯一無二を感じさせるサイン。
これはまぁ、手元に残しておいてやっても良いかも知れない。俺は手紙を元通り折り畳んで、自分の筆箱に突っ込んだ。
残業を終え、今日も終電で帰る。溜息をついて、疲労で重く感じる玄関の扉を開いた。
一二三は仕事で居ない。暗い部屋に明かりをつけると、テーブルに夕飯が用意されている事に気付いた。
一二三の手料理のお陰で、仕事を乗り越えられていると言っても過言では無い。
『夕飯はリクエストのオムライスとポテサラ! 今日もおつかれ〜』
そんな小さなメモ書きには、あの頃と変わらないサインが添えられていた。
─ END ─
【あとがき】
一二三はハートとか苺とかの折り方も出来そうだし、独歩はその開け方が分からず手紙ぐしゃぐしゃにしてそうで面白い。
2026/03/21
五時間目の古文の授業は、どうしても眠くなる。昼食が済んで満腹な所に、おじいちゃん先生のゆったりとした話し方、馴染みが無さ過ぎる昔の言葉遣いに、段々と瞼が重力に逆らえなくなって来た。
既に机に突っ伏して寝ている生徒が二人程居る。それを指摘するタイプの先生ではない為、小声で雑談をしている女子や次の授業の宿題を慌てて進めている男子も居た。
半目になりながらも授業を聞いていると、背中をシャーペンでつつかれる。振り向くと、後ろの席の一二三が小さく折り畳まれた紙を寄越して来た。
授業中によくある、女子の手紙交換だ。誰に回せば良いんだ? 俺がキョロキョロと近くの席を見回して居ると、一二三が笑いながら言った。
「独歩ちん宛!」
「はぁ?」
俺に手紙を回す変わり者がクラスに居るとは。不思議に思いながら、貰った手紙を開いて読んでみる。
『古文まぢねむすぎて、いとおかし』
間違いない。これは一二三が書いた文字だ。俺は手紙を元通り畳んで、後ろの席の机に置く。そして前を向いた瞬間に、再び背中をつつかれた。一二三はまた新たな手紙を寄越して来る。
『次の授業なんだっけ??』
「次は数学だ」
後ろを向いて、小声で返事をする。一二三は唇を尖らせた。
「独歩〜、手紙には手紙で返してくれよな〜」
「はいはい」
適当にそう流して前を向く。その後も背中をつつかれたが無視をしていると、一二三は俺の机に向かって手紙を投げ込んで来た。
『春はあげぽよ』
真面目に授業を聞け。
『せんせー今日は〈要するにねぇ〉って十一回言った』
確かによく言ってるなとは思ってたが、お前もよく数えてたな。真面目に授業を聞け。
『どっぽ〜〜帰りカラオケ行かね〜?』
真面目に授業を……まぁ、カラオケは久々に行きたいかもな……。
そんな「別に今寄越さなくても良いだろ」という内容のノートの切れ端が、一方的に届いて来る。そのお陰とは言いたくないが、なんとか居眠りせずに五時間目の授業を乗り越えた。
六時間目の準備をしていると、一二三が肩を強く叩いて来る。
「一通くらい返事くれても良いだろ〜」
「カラオケなら行く」
まだ不満気な顔をしている一二三に、自販機のジュースを奢ってやると伝えると笑顔になった。
数学の担当教師は、居眠りしている生徒が居たら名指しして起こす。そして前に出て問題を解けと言われるので、古文の授業と違い少しだけ緊張感がある。
そんな授業中でも、一二三は相変わらず手紙を回して来た。
『あと三十分。なげーな』
確かに長い。六時間目の授業は、他と比べてより長く感じる。そんな事より真面目に授業を聞け。
そして一二三の席に戻してやろうと手紙を折り畳んでいた時、先生に名前を呼ばれた。
「授業中に関係無い手紙書いてるんじゃないぞ〜」
「す、すみません……」
俺が手紙を書いていた訳ではないが、運が悪く先生に指摘されてしまった。その後は案の定前に出て問題を解く事になる。振り返って一二三を睨んでやると、奴は笑顔でピースサインをしていた。
授業を真面目に受けていたはずなのに、全く答えが分からない。先程のピースサインが頭に浮かび、当てずっぽうで二と書いた。
「正解。ちゃんと授業聞いてたみたいだな。では次──」
席に戻ると、一二三が両手でピースをしながら出迎えて来た。
「俺っちのお陰じゃね?」
「そうだな、命拾いした。そもそも、お前の所為なんだからな」
「はは、落ち着けって〜」
そんなやりとりをしていると、再び先生がこちらに来る。
「伊弉冉、観音坂にちょっかい掛けてるんじゃないぞ〜」
「へーい。俺っちも前出て問題解く系すかー?」
椅子から立ち上がり、嬉しそうに一二三がそう言うと、先生は面倒そうに頭を搔いた。
「伊弉冉は目立ちたがりだから、あえて出さない。この間も、答えの隣に勝手にサインなんか書いてただろ」
ぴしゃりとそう言われ、教室が笑いに包まれる。
「俺っち将来は有名人になっちゃうんで! サイン貴重っすよ!」
そして椅子に座り大人しくなったかと思った矢先、また俺の机に折り畳まれたノートの切れ端が投げ込まれた。
開くと、一二三のサインが書かれている。
シンプルだが唯一無二を感じさせるサイン。
これはまぁ、手元に残しておいてやっても良いかも知れない。俺は手紙を元通り折り畳んで、自分の筆箱に突っ込んだ。
残業を終え、今日も終電で帰る。溜息をついて、疲労で重く感じる玄関の扉を開いた。
一二三は仕事で居ない。暗い部屋に明かりをつけると、テーブルに夕飯が用意されている事に気付いた。
一二三の手料理のお陰で、仕事を乗り越えられていると言っても過言では無い。
『夕飯はリクエストのオムライスとポテサラ! 今日もおつかれ〜』
そんな小さなメモ書きには、あの頃と変わらないサインが添えられていた。
─ END ─
【あとがき】
一二三はハートとか苺とかの折り方も出来そうだし、独歩はその開け方が分からず手紙ぐしゃぐしゃにしてそうで面白い。
2026/03/21
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