昔々あるディビジョンに
。*゚+──ヘンゼルとグレーテル
昔々あるディビジョンに、サマトキとネムという仲の良い幼い兄妹がいました。
兄妹は、森の小さな家で父親と母親と四人で暮らしています。
ですが、温かい家庭とは程遠いようです。毎日のように、父親の怒鳴り声と母親の泣き声が聞こえて来ます。
隣の部屋で絵本を読んでいたネムは、怖くなって泣いてしまいました。
「大丈夫だ、ネム。兄ちゃんが居るからな」
サマトキは、ネムの事を抱き締めてあやします。
ある日のお昼。父親が出掛けている間に、母親は兄妹を連れて森の奥地にやって来ました。
「サマトキ、ネム。夜になったら迎えに来るからね」
そう言って、母親は二人にパンが入った袋を持たせます。そして涙を流しながら、二人の事を強く抱き締めました。
「お母さん、どうして泣いてるの?」
「……元気でね」
ネムの質問には答えず、母親は来た道を戻って行ってしまいました。
パンを食べ終えたサマトキとネムは、森を歩き出します。綺麗な花を摘んだり、小鳥と歌をうたったりしていると、森はあっという間に暗くなりました。
「このお花、お母さんにプレゼントするの! お迎えまだかなぁ」
無邪気に笑うネムですが、サマトキの顔は険しくなっています。
森はすっかり闇に包まれましたが、母親はおろか人の気配もありません。
サマトキはネムの手を引いて歩き出しました。
「お兄ちゃん、何処に行くの?」
「……きっと母さんは、森の中で迷ってるんだ。俺達だけで帰らねぇと」
ネムと繋いだ手に力を込めます。
サマトキは、母親が父親から守る為に自分達を家から出した事に気付きました。
そんな母親を一人にしたくなくて、兄妹で家に帰る事を決心します。
しかし、真っ暗な森の中では方向も分かりません。迷いながら何日も歩いていると、ふと一軒の家が現れました。
その家は、普通の家ではありません。屋根はクッキー、扉はチョコレート、壁はケーキ……全てがお菓子で出来ている不思議な家でした。
空腹だった兄妹は、夢中でお菓子にかぶり付きます。
その時、扉が開いて中から女性が出て来ました。
「道に迷ったのですか? 寒かったでしょう。中に入って暖まって行きなさい」
暗色の髪をした女性は、微笑みながら中へ招きます。
サマトキはネムを背後に庇い警戒しますが、ネムは「お邪魔します」と礼儀正しく家の中へ入りました。サマトキは慌てて後に続きます。
暖かい家の中を見渡すと、テーブルや棚もお菓子で出来ています。そして、もう一人居る事に気付きました。
「イチジクさん、この子達に紅茶を淹れてあげてください」
「はい、オトメ様」
イチジクと呼ばれた女性は、リボンで結ばれた長髪を揺らしてキッチンへ向かいました。
「熱いから気を付けろ」
ウエハースで出来た椅子に座っていた兄妹に、イチジクは紅茶を差し出します。口調は厳しいですが、彼女はとても優しい女性です。
紅茶を飲んで一息ついた兄妹に、オトメは問い掛けました。
「お二人は、お家に帰りたいですか?」
ネムは静かに頷きます。サマトキは拳を握りながら答えました。
「母さんとネムを守れるのは、俺だけだから……」
オトメは兄妹の境遇を想像して、唇を引き結びました。傍に立つイチジクも、眉間に皺を寄せています。
「私が必ず、誰もが幸せな国を築いてみせます」
オトメは芯の通った声で宣言しました。
「さぁ、貴方達の家はすぐそこです。何かあれば、またこちらへ来てくださいね」
「ありがとう、お姉さん達」
ネムは二人に手を振ります。サマトキも、わずかに頭を下げて扉へ向かいました。
手を繋いだ兄妹がお菓子の家の扉を開けると、なんと目の前には自分達の家がありました。
驚いた二人が振り向くと、そこに不思議なお菓子の家は無く、見慣れた森が広がっているだけでした。
「お兄ちゃん、夢だったのかな……?」
「……どうだろうな」
サマトキは、ネムの手を引いて家の扉を開けました。すると、それに気付いた母親が、二人に駆け寄りました。
「サマトキ! ネム! ごめんね。無事だったんだね」
母親は、別れた時より強く強く二人を抱き締め涙を流しました。
サマトキとネムも、帰って来られた安心感と、母親と再会出来た幸福感で涙を流します。
何故か父親の姿はありませんでしたが、そんな事はもう関係ありません。
サマトキとネムは、母親と三人でいつまでも仲良く暮らしましたとさ。
─ END ─
【あとがき】
これが言の葉党結成秘話です。嘘です。
碧棺兄妹、あまりにも過去が重過ぎる……。
2026/01/10
昔々あるディビジョンに、サマトキとネムという仲の良い幼い兄妹がいました。
兄妹は、森の小さな家で父親と母親と四人で暮らしています。
ですが、温かい家庭とは程遠いようです。毎日のように、父親の怒鳴り声と母親の泣き声が聞こえて来ます。
隣の部屋で絵本を読んでいたネムは、怖くなって泣いてしまいました。
「大丈夫だ、ネム。兄ちゃんが居るからな」
サマトキは、ネムの事を抱き締めてあやします。
ある日のお昼。父親が出掛けている間に、母親は兄妹を連れて森の奥地にやって来ました。
「サマトキ、ネム。夜になったら迎えに来るからね」
そう言って、母親は二人にパンが入った袋を持たせます。そして涙を流しながら、二人の事を強く抱き締めました。
「お母さん、どうして泣いてるの?」
「……元気でね」
ネムの質問には答えず、母親は来た道を戻って行ってしまいました。
パンを食べ終えたサマトキとネムは、森を歩き出します。綺麗な花を摘んだり、小鳥と歌をうたったりしていると、森はあっという間に暗くなりました。
「このお花、お母さんにプレゼントするの! お迎えまだかなぁ」
無邪気に笑うネムですが、サマトキの顔は険しくなっています。
森はすっかり闇に包まれましたが、母親はおろか人の気配もありません。
サマトキはネムの手を引いて歩き出しました。
「お兄ちゃん、何処に行くの?」
「……きっと母さんは、森の中で迷ってるんだ。俺達だけで帰らねぇと」
ネムと繋いだ手に力を込めます。
サマトキは、母親が父親から守る為に自分達を家から出した事に気付きました。
そんな母親を一人にしたくなくて、兄妹で家に帰る事を決心します。
しかし、真っ暗な森の中では方向も分かりません。迷いながら何日も歩いていると、ふと一軒の家が現れました。
その家は、普通の家ではありません。屋根はクッキー、扉はチョコレート、壁はケーキ……全てがお菓子で出来ている不思議な家でした。
空腹だった兄妹は、夢中でお菓子にかぶり付きます。
その時、扉が開いて中から女性が出て来ました。
「道に迷ったのですか? 寒かったでしょう。中に入って暖まって行きなさい」
暗色の髪をした女性は、微笑みながら中へ招きます。
サマトキはネムを背後に庇い警戒しますが、ネムは「お邪魔します」と礼儀正しく家の中へ入りました。サマトキは慌てて後に続きます。
暖かい家の中を見渡すと、テーブルや棚もお菓子で出来ています。そして、もう一人居る事に気付きました。
「イチジクさん、この子達に紅茶を淹れてあげてください」
「はい、オトメ様」
イチジクと呼ばれた女性は、リボンで結ばれた長髪を揺らしてキッチンへ向かいました。
「熱いから気を付けろ」
ウエハースで出来た椅子に座っていた兄妹に、イチジクは紅茶を差し出します。口調は厳しいですが、彼女はとても優しい女性です。
紅茶を飲んで一息ついた兄妹に、オトメは問い掛けました。
「お二人は、お家に帰りたいですか?」
ネムは静かに頷きます。サマトキは拳を握りながら答えました。
「母さんとネムを守れるのは、俺だけだから……」
オトメは兄妹の境遇を想像して、唇を引き結びました。傍に立つイチジクも、眉間に皺を寄せています。
「私が必ず、誰もが幸せな国を築いてみせます」
オトメは芯の通った声で宣言しました。
「さぁ、貴方達の家はすぐそこです。何かあれば、またこちらへ来てくださいね」
「ありがとう、お姉さん達」
ネムは二人に手を振ります。サマトキも、わずかに頭を下げて扉へ向かいました。
手を繋いだ兄妹がお菓子の家の扉を開けると、なんと目の前には自分達の家がありました。
驚いた二人が振り向くと、そこに不思議なお菓子の家は無く、見慣れた森が広がっているだけでした。
「お兄ちゃん、夢だったのかな……?」
「……どうだろうな」
サマトキは、ネムの手を引いて家の扉を開けました。すると、それに気付いた母親が、二人に駆け寄りました。
「サマトキ! ネム! ごめんね。無事だったんだね」
母親は、別れた時より強く強く二人を抱き締め涙を流しました。
サマトキとネムも、帰って来られた安心感と、母親と再会出来た幸福感で涙を流します。
何故か父親の姿はありませんでしたが、そんな事はもう関係ありません。
サマトキとネムは、母親と三人でいつまでも仲良く暮らしましたとさ。
─ END ─
【あとがき】
これが言の葉党結成秘話です。嘘です。
碧棺兄妹、あまりにも過去が重過ぎる……。
2026/01/10
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