昔々あるディビジョンに

。⁠*゚⁠+──白雪姫


 昔々あるディビジョンに、白い雪のように美しい白雪一二三姫が誕生しました。
 しかし、女王様は白雪一二三姫を産んですぐに亡くなってしまいます。
 やがてお城には新しい女王様がやって来ました。女王様は毎日のように、不思議な鏡に向かって問い掛けます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰であるか申してみよ」
「それはもちろん、十四様でございます」
 答えを聞くと、十四女王は満足そうに微笑みます。
 白雪一二三姫が容姿に磨きをかけてすくすく育ったある日。十四女王はいつものように、不思議な鏡に問い掛けます。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰であるか申してみよ」
「もちろん十四様でございます。なんて嘘ですよ。白雪一二三姫が一番美しい」
「もちろん我であろう……って、嘘っすか!? ぐぬぬ、一番美しいのは自分のはずっす……!」
 十四女王はお城お抱えの猟師を呼び付けると、白雪一二三姫を森で消すように命じました。
「リオウさん! 奴に混沌のカオスを見せてやるっすよ!」
「混沌とカオス、どちらも同じ意味だと思うが……。ふむ、承知した」
 猟師のリオウは白雪一二三姫を馬車へ乗せると、森の中をぐんぐん走りました。
 深い深い森の奥に降ろされた白雪一二三姫は、仲良くなった小鳥やリス達とうたいながら花冠を作っています。
「罪の無い人間を手に掛けるのは心が痛む……。白雪一二三姫、どうか達者でな」
 そう呟き、リオウはそのまま白雪一二三姫を置いてお城へ戻りました。
「姫プ決めて〜守られたい時も〜♪ よっし完成! りおっち、この花冠かぶってみ! ……ってありゃ?」
 白雪一二三姫は、辺りを見渡してリオウが居ない事に気付きました。
「参ったなぁ。俺っち馬車の中で爆睡してたから、お城までの道分かんないや」
 陽も傾き始め、森の中は暗くなって来ます。
 白雪一二三姫は気合いを入れるように拳を握りました。
「犬も歩けば棒に当たるって言うし、ひふみんも歩けばきっとお城に辿り着くっしょ!」
 そうしてずんずん歩いて辿り着いたのは、お城ではなく小さな木の家でした。
 そっと扉を開いてみると、誰も居ないのか中はとても静かです。
 辺りはすっかり暗くなりました。白雪一二三姫は、この木の家に入って休む事にしました。
 家に入ると、キッチンからカレーの良い匂いが漂って来ます。腹ぺこだった白雪一二三姫は、カレーを綺麗に平らげました。
 そして森を歩き回って疲れていた白雪一二三姫は、ベッドに入って瞼を閉じました。
 白雪一二三姫が眠りについてしばらくすると、愉快なラップをうたう七つの声が聞こえて来ました。
 声はどんどん近付いています。どうやらこの木の家の主のようです。
「皆、今日もお疲れ! 依頼主のおばあさん、すげぇ喜んでたな」
 扉を開けて仲間に声を掛けたのは、リーダーであるイチロウです。彼等は森で萬屋を営んでいます。
「めちゃくちゃ頑張ったから腹減ったぜ! 兄ちゃん、今日の夕飯は何?」
 ジロウがお腹を撫でながら言いました。
「今晩はカレーだって言ってただろ……ってあれ? イチ兄、鍋が空っぽです!」
 サブロウが鍋を覗いて叫びました。
「誰かが勝手に入ったのか? 住居侵入罪でしょっぴいてやる」
 ジュウトが眼鏡を指で押し上げながら言います。
「はぁ……とりあえず疲れたから横になりたい……眠りたい……ってうわぁ! 誰かがベッドで寝てるぞ!」
 ドッポがベッドの前で驚きました。その大きな声で、白雪一二三姫は目を覚まします。
「ふわ〜よく寝た! んん? あんた等誰?」
「俺達はここで萬屋をやってる者だ。お前は随分と綺麗なナリをしてるが、迷子にでもなったのか?」
 イチロウの言葉に、白雪一二三姫はこくこくと頷きます。
「そうなんだよ! 俺っちお姫様なのに、いきなり森に置き去りにされちってさ〜! そんでお願いなんだけど、しばらく此処に住まわせてくんない?」
 そのお願いを聞いて口を開いたのはダイスでした。
「宿無し一文無しのつらさはよく分かるぜ。なぁ、こいつ住まわせてやっても良いんじゃねえか?」
 その言葉に続いたのはクウコウです。
「困ってる奴に手を差し伸べてやんのも、拙僧のつとめだからな」
 他の仲間達も頷きました。白雪一二三姫は嬉しそうに提案します。
「まじでサンキュー! 家に置いてくれる代わりに、俺っちが美味しい料理作っちゃうし、部屋の掃除も任せてよ! まずは勝手に食べたお詫びに、夕飯を作っちゃうぜ〜!」
 白雪一二三姫がリクエストを募ると、七人は好き勝手に言い出します。
「じゃあ、さばの味噌煮が食いたいな」
「俺はカレーが良い!」
「僕はペスカトーレ」
「ゲテモノでなければなんでも結構ですよ」
「俺はなんでもありがたく食うぜ!」
「俺はオムライスが食べたいな……」
「拙僧は唐揚げが食いてぇ」
「おっしゃ〜! 俺っちの腕が鳴るぜ!」
 白雪一二三姫はあっという間に全てのリクエストを完成させて、七人の舌とお腹を満足させました。
 七人の萬屋が仕事に出ている時は、白雪一二三姫が家事全般をこなして仲良く過ごしていたある日。十四女王がお城で鏡に問い掛けました。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは我であろう?」
「もちろんでございます。……というのは嘘です。白雪一二三姫が一番美しい」
 そう鏡が答えると、十四女王は怒りに震えます。
「リオウさんは任務を遂行したって言ってたっすよね!? リオウさんは何処っすか?」
「リオウ氏はいとまを頂くと先日お城を出て行かれたようですねぇ」
 十四女王は、不思議な鏡に白雪一二三姫の姿を映すように命じます。すると、鏡には七人の萬屋と楽しく朝食を共にしている白雪一二三姫が映りました。
「めちゃくちゃ元気じゃないっすか! こうなったら、自分が直接行くっす!」
 十四女王は林檎の表面に毒を塗って、林檎売りに化けました。
 白雪一二三姫と七人の萬屋が住む家に辿り着くと、扉をトントンと叩きます。
「はいは〜い、依頼人? チャンイチ達なら仕事に出たけど……」
「自分はしがない林檎売りっす。良ければおひとついかがっすか?」
 林檎売りに化けた十四女王が毒林檎を差し出すと、白雪一二三姫は嬉しそうに受け取りました。
「美味そ〜!」
「喜んでもらえて良かったっす!では、自分はこれで……」
 そそくさと家を後にした十四女王は、お城に戻ると早速鏡で白雪一二三姫の様子を確認します。
「ん? キッチンに向かって、今から何か作るみたいっすね……」
 手際良く調理を進める白雪一二三姫。しばらくして完成したのは、とても美味しそうなアップルパイでした。
「って、毒を塗った皮を綺麗にかれたら意味無いじゃないっすか!」
 白雪一二三姫は、七人の萬屋とアップルパイを食べて笑顔になっています。
 翌日、十四女王は再び白雪一二三姫の元を訪れました。
「猛毒入り林檎の飴細工っすよ! これで次こそは……!」
 扉を叩くと、白雪一二三姫が顔を出しました。林檎売りに化けた十四女王を見ると、嬉しそうな表情を見せます。
「昨日の林檎売りさんじゃん! あの林檎、アップルパイにして振る舞ったら大絶賛で、また食べたいって言ってくれたんだよな〜! 今日も林檎を持って来てくれた感じ?」
「今日は新作を持って来たんす! 良かったら今食べて、感想をお願い出来ないっすかね?」
 そう言い林檎飴を手渡すと、白雪一二三姫は頷きました。
「そーゆー事なら、ひふみんにお任せあれ! いただきま〜す!」
 白雪一二三姫が林檎飴を噛んだのを確認すると、十四女王は背を向けて歩き出します。
「ふふふ……安らかに眠れ、白雪一二三姫よ」
 静かな木の家には、白雪一二三姫が倒れる音が響きました。
 仕事が早く終わった七人の萬屋が、明るい森で愉快なラップを口ずさみながら帰宅します。
「皆、今日もよく頑張ったな! 白雪一二三姫、いま帰ったぜ!」
 そう声を掛けたイチロウを出迎えたのは、まるで眠っているかのように床に横たわる白雪一二三姫でした。
 ジロウとダイスとドッポは、驚いた顔で白雪一二三姫の側に駆け寄ります。
「……手遅れみてぇだな。拙僧が極楽浄土に送ってやるよ」
 クウコウは寂しそうに呟きました。
「俺は辺りを見て来る。犯人の手掛かりが残ってるかも知れないからな」
 イチロウは仕事で使ったおのを担いだまま外に出ました。
「状況から見て、そこに転がってる林檎飴が怪しいですね。毒でも仕込まれてたか……。恐らく、自殺ではなく他殺でしょう」
「それにしたって、誰が何の為にこんな事したんだよ? お前、一応警察だろ」
「このガキ……」
 ジュウトとサブロウは推理と言い合いを繰り広げていました。
 やがてイチロウが戻って来ましたが、何も成果はありませんでした。
 七人は悲しみに暮れながら、美しい白雪一二三姫の為に硝子の棺を用意します。
 白雪一二三姫が手入れをした綺麗な花が咲く庭で、七人は改めてお別れを言いました。
「皆さん、こんな所で集まってどうしたんですか?」
 そんな七人に声を掛けたのは、隣のディビジョンの寂雷王子です。
「白雪一二三姫が死んでしまったんだ……」
 イチロウは力無く答えました。寂雷王子は硝子の棺を覗いて呟きます。
「そうでしたか……。ですが少々気になりますね。病院うちで一度診てみても良いですか?」
 寂雷王子は医者としても活躍していました。寂雷王子の言葉に、七人は最後の希望とばかりに頷きます。
 七人で硝子の棺を運んでいる道中、ドッポが石につまずきました。
 その衝撃で、白雪一二三姫の喉に詰まっていた林檎の欠片が口から飛び出しました。
 謝り倒すドッポですが、そのお陰でなんと白雪一二三姫は目を覚ましたのです。
「これ、どーゆー状況?」
 嬉し泣きをしたりハイタッチをしたりして盛り上がる七人を、白雪一二三姫は首を傾げて眺めます。
「お前、黄泉を彷徨ってたんだぜ」
「毒林檎を食って、毒じゃなく窒息ってラッキーだったな!」
 クウコウとダイスが笑顔で言います。
「今回はドッポのドジが役に立ったな!」
「全く、棺が揺れた時はどうなるかと思ったよ」
 ジロウとサブロウが言いました。
「寂雷王子が居なければ、あわや生き埋めとなっていましたね」
「寂雷王子には感謝しかない……」
 ジュウトとドッポは安堵の表情で言いました。
「寂雷王子のお陰で、俺っち死なずに済んだみたいだからさ! 何かお礼させてよ!」
 白雪一二三姫は、笑顔で寂雷王子に言いました。寂雷王子はしばし考えて手を差し出します。
「では、私と一緒にラップチームを組んでくれませんか?」
 最近この辺りでは、チームを組んでラップバトルをするのが盛んに行われていました。
「寂雷王子の誘いとあらば喜んで!」
 寂雷王子の手を取る白雪一二三姫に、イチロウは思い出したように口を開きます。
「ラップチームは三人一組じゃなかったか?」
「へ〜、そうなん? ならドッポちんも入っちゃいなよ! 俺っちの命の恩人の一人だし!」
 白雪一二三姫は名案とばかりに提案しました。寂雷王子も興味深げに頷きます。
「俺なんかが入っても迷惑じゃ……」
 ドッポは眉を下げて首を横に振りましたが、寂雷王子は笑顔で答えました。
「ドッポくんはきっとチームのかなめとなりますよ。とても面白くなりそうです」
「チーム結成を祝して、パーティーしよ! 俺っちが腕を振るっちゃうぜ!」
 寂雷王子も一緒に、七人の萬屋の家に戻って今夜はパーティーです。
「楽しそうにしている白雪一二三姫が一番美しい」
 賑やかな様子を映しながら、不思議な鏡が言いました。十四女王はしみじみと呟きます。
「白雪一二三姫を貶めようとする考えが美しくないって事っすね……。内面から変わる為に、修行に出る事に決めたっすよ!」
 十四女王はそう決心しました。
 修行の旅で様々な出会いがあり、十四女王もラップチームを組む事になりますが、これはまた別のお話です。


─ END ─


【あとがき】
これが麻天狼結成秘話とBad Ass Temple結成前日譚です。嘘です。
2025/06/17
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