ヒプノシスマイク♡プリキュア

◆麻天狼プリキュア
第5話『街を彩るRGB!Fling Posseプリキュア誕生』

今日も朝が来てしまった。
いつも通り着替え、いつも通り朝食を口に運んでいると、同じくいつも通り朝食をパクパク食べていたカロンの表情が急に固くなった。
「もぐ…嫌な気配がするカロ!」
その瞬間、胸ポケットから着信音が響いた。
「こんな早くに誰だ…って先生!?」
慌てて通話ボタンを押し耳に当てる。
「お、おはようございます先生!一体どうしました…?」
『独歩くん、今すぐテレビのニュースを見てくれないかい?』
「ニュース?」
俺の言葉を聞いた一二三は、即座にリモコンを手にしてテレビの電源をつけた。
「─見えますでしょうか、巨大な怪物がまたシンジュクの街中に現れました!朝の通勤通学ラッシュと重なっている為、住民は……」
流れている映像には鬼気迫る表情のアナウンサーと、その遠くにはハタラケーが見える。
そして更に、Fling Posseの三人も居た。
「おはよう皆の衆〜!今日もスーパーきゃわいいeasyRだよん!」
カメラの存在に気付いたeasyRは、カメラ目線で手を振る。
「麻天狼プリキュアの三人は見てるかな〜?早く来ないと、今度こそこの街がどうなるか分かんないよ」
笑顔で言う台詞じゃないだろう。そんな事を思いつつ、通話相手の先生に向かって声を出した。
「一二三と一緒にこれから向かおうと思います」
『お願いします。私も今向かいますので』
先生との通話を終え、一二三に声を掛ける。
「行くぞ、一二三!」
「合点承知〜!」
カロンを抱えバタバタと家を出た俺達だが、ふと忘れていた事を思い出す。
「会社どうしよう……」
「こんな時にも会社の心配なんて、流石はどっぽカロ」
「世界の命運が掛かってるんで休みます、でモーマンタイっしょ!」
「えぇ……」
そんなやりとりを繰り広げながら現場に到着し、先生と合流した。
目の前に居るFling Posseとハタラケーは、既に戦いの準備が整っているように見られる。
『ヒプノシスチェンジ!』
こちらもアイテムを手にして臨戦態勢に入った。
「この力で安寧へいざなう─キュアヘルフェン」
「123から456、7o'clock 君にロックオン!キュアシャンパーニュ!」
「残業から参上!キュアスレイヴ!」
『シンジュクに侵入する神出鬼没の敵を一蹴!麻天狼プリキュア!』
今回も三人でしっかり名乗りを決め、すっかり慣れてしまったスカートを翻し、がっちりマイクを片手に握って敵を見据える。
「正直ボク達の立ち場も危うくなって来たから、本腰入れてやっちゃうよ〜!」
easyRがマイクを持った右手を高く掲げウインクをした。
早速攻撃か!俺達は身構えたが、彼は激しく咳込みながらがくりと両膝をついた。
「おい、大丈夫かよ!?」
傍らに立っていたDead or AliveとPhantomが驚いた表情を見せ、咳込み続ける仲間へ駆け寄る。
「くそっ!俺はまだ…、…………」
easyRは何かを呟いた後、肩に掛けているポシェットから棒付キャンディを取り出して黒い怪物に命令した。
「行け!ハタラケー!」
向かって来る敵を睨み、俺達はマイクを握る。
だがハタラケーは突然呻き声を上げて立ち止まると、その場でうねうねと脈打つように揺れていた。
「easyR、ここは撤退しますか?」
「…のこのこ撤退したら、今度こそあいつらは何をして来るか分からない…って、この状態で戦っても、ボクがどうなるか分かんないんだけどね……」
easyRはゆるりと立ち上がったが、再び膝をつく。そして力無く笑った後、彼は目を潤ませながら叫んだ。
「死にたくない…死ぬのは嫌だ……!俺はまだまだ、こいつらと生きたいんだ!」
彼の大きな瞳から溢れ出た涙は、ぼたぼたと落ちて地面を淡く濡らして行く。
「じゃくらい、今カロ!」
攻撃する様子がないFling Posseを前にカロンが言った。
先生はその言葉に頷くと、マイクを握り彼等の前に立つ。
「小生達は一体…」
「分かんねぇけど、ずっと夢を見てた気分だぜ」
先生のラップアビリティーにより浄化されたらしい三人。
しかし、ピンク色の彼だけは不機嫌そうな顔をして先生を睨み上げていた。
「どうしてボク達を助けるようなマネなんかしたの?敵同士なんだし、ひと思いにやってくれても良かったのに~」
憎まれ口を叩く彼と目線を合わせるように、先生は片膝をついて諭すように話し出す。
「私は、悲しみ苦しむ人達を救う為にプリキュアになりました。飴村くん、君も例外ではありません。私に出来る事はしたつもりです。ここからどう生きるかは、君次第だ」
「だってよ乱数!俺達らしく自由に生きてこうぜ!」
有栖川帝統はチームメイト二人の肩を勢いよく抱き、明るく笑う。
しかし、飴村乱数は自嘲気味に笑って言った。
「自由に…か。洗脳が解けた今、中王区の裏切り者のような存在にそんなものはないよ…」
「全く、乱数らしくないですねぇ」
そんな彼に、ふわりと微笑みながら返したのは夢野幻太郎だ。
「貴方はそんなに諦めが良い性格でしたっけ?」
「でも…しくじった俺は必ず消される。中王区はそういう連中なんだよ。抗った所で、遅かれ早かれ…」
尚も俯いて呟く飴村乱数に、有栖川帝統は彼の髪をぐしゃぐしゃと撫でて、八重歯を見せながら明るく言った。
「乱数、お前知らねぇのか?競馬だってパチンコだって、最後の最後まで何が起こるか分かんねぇんだぜ!諦めるなんざお前らしくねぇ!」
「このギャンブル狂の言う通りです。打倒中王区、我々もお供致しましょう」
飴村乱数は二人を見上げ、先程の絶望とは違う涙を目に溜める。
「幻太郎…帝統…。ありがとう。よーし!ボクらしく、ボク達らしく、最後の最後まで諦めないで生きてやるんだから!」
そう宣言すると、彼の頬を伝って落ちた涙が持っていたキャンディに当たり、キラキラと輝き出す。
そのキャンディはみるみるうちに形を変え、犬のような妖精が現れた。
「俺はハチコ!諦めない強い思いに触れて、ようやく目を覚ましたハチ!」
ハチコと名乗った妖精は、飴村乱数の手のひらに座っている。
「運命を切り拓く第一歩として、プリキュアになってあいつを倒すハチ!」
ハチコは王冠がデザインされた指輪を差し出しながら言った。
「ボク達が、プリキュア…」
「乱数」
「乱数!」
チームメイト達も指輪を受け取り、リーダーの名前を呼ぶ。
彼らは左手親指に指輪をはめると、王冠の真ん中で輝く宝石にスッと右手をかざした。
『ヒプノシスチェンジ!』
やはりFling Posseの三人も、全身が光に包まれるとどんどん衣装が変わって行く。
飴村乱数はフリルやレースがたっぷりついた赤いワンピースに白いニーハイ、赤いパンプスを履いていた。
髪型はふわふわのショートヘアを大きなリボンで二つに結んでいる。
夢野幻太郎はいつもの書生スタイルのようだが、上品なレースがあしらわれており、色もグリーンでシックな雰囲気だ。
三つ編みにした亜麻色の長い髪が風に揺れている。
有栖川帝統はケープがついたブルーのドレスに、ヒールの高いパンプスと大人っぽい印象だ。
サイドの髪は頬の辺りで揃えられた姫カットに、ボリュームのあるロングヘアはポニーテールにまとめられている。
そして変身が終わった彼らはそれぞれ名乗りを始めた。
「可愛いボクとパーティーしちゃお?キュアボンボン!」
「このストーリーのラストは小生が語る通り!キュアイルジオン!」
「デッドオアアライヴ!勝利をゲット!キュアゲルト!」
『Fling Posseプリキュア!』
彼等がポーズを決めたタイミングで、ハタラケーがグオォと叫びながらこちらに向かって来た。
「もう一度指輪に手をかざして、ヒプノシスマイクを召喚するハチ!そのマイクでラップを放てば、ハタラケーを倒せるハチ!」
彼らが再び指輪に手をかざすと、キラキラと輝きながらマイクが出現した。
飴村乱数のマイクは、カラフルで子供っぽいデザインだ。童顔の彼にはぴったり似合っている。
夢野幻太郎のマイクは、レトロでお洒落な電話の形をしていた。
有栖川帝統のマイクは、通貨のドルを模したデザイン。何処までもギャンブラーである。真面目に働いた方が、きっと親御さんも喜ぶと思うぞ。
彼らはマイクを握り、暴れ始めたハタラケーに向かってラップを仕掛けた。
「─キュアボンボン、ポンポン浮かぶリリックお見舞いしちゃうよ、どんどん強く可愛くなる僕に嫉妬しとけばいいよ!─」
「─ビブリオバトルと洒落込みましょうか?エキセントリックなトリック巡らすキュアイルジオンが綴る結末─」
「─この俺、キュアゲルトがこの勝負蹴ると思うか?ケツの毛まで毟り取って勝ってやるぜ!ベスト尽くすから今に見てろ!─」
「最高ハチ!」
敵は叫び声を上げてうずくまる。
しかしすぐに回復しこちらに攻撃を始めた。
Fling Posseプリキュアの三人はぎゅっとマイクを握り、ハタラケーを睨み上げる。
「─雨上がったシブヤの街を飴片手にスキップして、ブティック寄って、ドレスコードはカラフル!暗い顔は似合わないよ、笑った顔が見たいな?気持ち高ぶるボク達の晴れ舞台、さあ笑顔でFly high!─」
「─疎ましい子供騙しの言の葉といま袂分かつ。雲間から見える青空。これは嘘じゃないと言える。嗚呼そうさ、刹那の友と巡らすフロウなら、共に蒼の向こう側へ行けるだろう─」
「─虹架かる空の下駆けて、輝くはずの俺らの未来に賭けて、必ず勝つと約束するぜ。乱数、幻太郎、帝統で最高のPosse!ガムシャラにゲン担ぎ、ダイス振って夢はでかく億万長者でOK!─」
「その調子ハチ!」
「力を合わせるカロ!」
カロンのその言葉に、俺達麻天狼プリキュアもマイクを握る。
「─シブヤと奏でるサウンド聴くか?混ざる無彩色とイエロー、俺達の前から消えろ!─」
「─門出を祝うシャンパンコール、君達のゴールはまだ遠く。とびきりの笑顔をアンコール!─」
「─不撓不屈の精神でリスタート。その苦悩のループもいつかきっと、フロウ紡ぐ先に訪れる寧日─」
「─命賭ける程想い合える仲間と会える奇跡を!『がめつい』は褒め言葉だろ?今度こそ当てるぜ全額BET!─」
「─後悔は無い、この障害もいつか笑い合える将来。雲外蒼天、当然挑戦、ここが我々の正念場!─」
「─どんくらい泣いたら強くなる?Don't cry、ボク達にもう涙はいらない!─」
プリキュアとなったFling Posseとの共闘で、無事にハタラケーを倒す事が出来た。
変身が解けると、シブヤの面々は颯爽と走り去って行く。
「さっ、早く逃げちゃお〜!」
「はえぇよ乱数!待ってくれ〜!」
「小生もう今のバトルで力を使い果たしたのですが」
やれやれと言った表情で、嵐のようなチームメイトを見遣る夢野幻太郎。
そして俺達に向き直り、優しい笑顔を見せた。
「乱数を…小生達を助けてくださり、感謝しています。ふふ、この気持ちは嘘ではありませんよ」
「幻太郎〜!置いてくぞ〜!」
遠くから有栖川帝統の叫び声が聞こえる。
「間の読めない騒がしい奴ですねぇ…」
では、と去って行く夢野幻太郎。
「仲間が増えた、って認識で良いんですかね…?」
「ん〜?でもハタラケーも倒したし、シブヤもプリキュアになっちったし、これで終わりなんじゃね?」
俺達の考えに、先生は難しい顔をしながら呟いた。
「飴村くんが言っていた『中王区に消される』という言葉が気になりますね。きっと、これで終わりではないでしょう」
という事は、俺はまだまだプリキュアの使命からは逃れられないって訳か。
「ここまで来たら、最後までやってやりますよ」
「独歩ちん、すっかりプリキュアが板について来たな〜」
笑いながら言う一二三に「お前もな」と返す。
「独歩の最初の仲間だもんな!俺っちも強くなって来たし、これからも悪い奴をどんどん倒して行くぜ〜!」
「私も微力ながら、今後も共に戦いますよ」
嬉しい事を言ってくれるチームメイトに思わず笑顔になっていると、先生が俺の顔を心配そうに見詰めて来た。
「ところで独歩くん、会社の方は大丈夫なのかい?」
「ほああああぁ!!?すっかり忘れてた!全然大丈夫じゃないですね!?」
あたふたしていると、一二三が肩をとんとんと叩いて来る。
「ほい、鞄と弁当〜!ポテサラにオムライスだから張り切って働いて来いよ〜」
課長には口うるさくどやされるだろうが、一二三が作ったポテサラとオムライスが待っているならばどんな罵詈雑言にも耐えてみせる。
俺は疲れた身体に鞭を打ち、二人に見送られて会社へ向かうのだった。

「─はっ!しまった、居眠りしてた…!」
また例のプリキュアの夢だ。
夢の中でまた大きく物語が動いたようだが、目の前の画面を見ると仕事は全く進んでいない。
プレゼン資料の作成中に寝てしまったらしく、文章の途中から「あああああああ……」とエンドレスで続いていた。
溜息をついて文字を削除し、カタカタとキーボードを打ち鳴らす。
既に疲労困憊だが、俺の一日はまだまだ始まったばかりだ。

「はぁ…居眠りがバレてあのハゲにはしこたま怒られたが、こればかりは自業自得だな…。弁当は一二三のポテサラとオムライスだったから、まぁプラマイゼロだ…」
「おや、貴方は麻天狼の観音坂さん」
「わっ!Phantom!…ってプリキュアになったからキュアイルジオンか…いやいや、あれは夢の話だ!」
「ふふふ、まさか小生の正体を知る者が居るとは。そうです、何を隠そうこの小生こそがキュアイルジオン!」
「えぇ!夢野さん、本当にプリキュアだったんですか!?」
「嘘ですよ。ここまで驚いて頂けるとは、新鮮で面白いですねぇ」
「嘘か…っていうか、シンジュクに居るなんて珍しいですね…?」
「小説のネタ探しですよ。観音坂さんと話した方が、何やら創作意欲が刺激されそうですが」


─ END ─


【あとがき】
指輪はつける場所で意味が違うと聞きますよね。
2024/06/23
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