麻天狼
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。*゚+──金曜日にCheers
目の前の休日に、浮かれた空気が漂う金曜日の居酒屋。苦手なアルコールの香りと喧騒、ひとりぼっちで少し居心地の悪い端の席で、私はそっと生ビールの入ったジョッキを握った。
「皆、飲み物は届いた? では、かんぱ〜い!」
ラフな雰囲気で、新入社員の歓迎会が始まった。
新卒で入社した大企業。学生時代とは当然ながら勝手が違い、色々と戸惑いながらも大きなミス無く仕事をこなしている。
たまたま打ち解け合った子とは部署が違ったらしく、現在スタートした営業課の歓迎会では見事に話し相手が居ない状態だ。
周りのノリに合わせてジョッキをぶつけ合い、ぺこぺこと頭を下げる。
隣に座る先輩ともジョッキを合わせ、口を付けずにテーブルへ置いた時、その先輩が静かに声を掛けて来た。
「もしかして、ビール苦手ですか?」
「あ……はい。ちょっと、お酒が苦手で……」
私の隣に座っているのは、なんとあの麻天狼の観音坂独歩さんだ。
有名人だという事を微塵も感じさせない、正直言うと少々頼り無ささえ覚える観音坂先輩は、私の返事を聞いて苦笑する。
「とりあえず生、の空気は口を挟みにくいですよね。何飲みます? 代わりに注文しますよ」
「すみません、観音坂先輩。えっと、烏龍茶をお願いします」
先輩は優しく頷くと、側にあった注文用のタブレットを操作する。しばらくすると、烏龍茶で満たされたグラスを手にした店員さんがやって来た。
「烏龍茶頼んだ人〜?」
店員さんからグラスを受け取った人が、大きな声で呼び掛ける。観音坂先輩が手を挙げた。
「悪い、こっちだ」
それを見た課長が、わざとらしい溜息を漏らす。
「観音坂くん、社会人は飲みニケーションが大事でしょ。ビールでほら。無礼講、無礼講!」
「はは、すみません……」
観音坂先輩は、眉を下げ疲れたように笑う。そして短く笑った後、据わった瞳で呟いた。
「無礼講ってんなら酔ったフリしてその残り少ない毛髪ぶち抜いてやる……」
その言葉に思わず吹き出すと、観音坂先輩が慌てたようにこちらを向いた。
「あっ、聞こえてました!? はは、今のは冗談ですよ……! あと、あいつの言う事は気にしなくて大丈夫ですからね。飲みニケーション、なんていつの時代だよって」
グラスを私の方に置きながら、誤魔化すように早口で話す。そして私の手から生ビールが入ったジョッキを取った。
観音坂先輩は、流れるようにそのままジョッキを傾ける。上下する彼の喉をじっと見ていると、あっという間に中に入っていた液体は無くなった。
「ありがとうございます、観音坂先輩」
お礼を言うと、先輩は照れ臭そうに笑って口元を親指で拭った。
「いえ、どう致しまして」
そのふにゃりとした笑顔は、やはりどこか頼り無い。しかし、安心感や親しみやすさも感じる。
不思議な人だなぁと見詰めていると、観音坂先輩は小首を傾げた。
「あの、どうかしました……?」
「すみません、何でもないです。これからも、お仕事頑張って行けそうだな、と思って」
慌ててそう返すと、観音坂先輩は自分のジョッキを傾けつつ答える。
「頑張り過ぎるのも良くないですからね。無理な事は無理って言わないと、すぐキャパオーバーになってしまうので……。先輩として言えるのがこれくらいで申し訳無いですけど……」
「肝に銘じておきます」
メモを取るようなジェスチャーをすると、先輩はおかしそうに小さく笑う。
その笑顔を見て、私は胸が高鳴るのを感じた。
─ END ─
【あとがき】
新生活が始まった方もそうでない方も、無理せず行きましょう!
独歩と新社会人シリーズ、こちらもどうぞ。
▶またここで
2026/05/15
目の前の休日に、浮かれた空気が漂う金曜日の居酒屋。苦手なアルコールの香りと喧騒、ひとりぼっちで少し居心地の悪い端の席で、私はそっと生ビールの入ったジョッキを握った。
「皆、飲み物は届いた? では、かんぱ〜い!」
ラフな雰囲気で、新入社員の歓迎会が始まった。
新卒で入社した大企業。学生時代とは当然ながら勝手が違い、色々と戸惑いながらも大きなミス無く仕事をこなしている。
たまたま打ち解け合った子とは部署が違ったらしく、現在スタートした営業課の歓迎会では見事に話し相手が居ない状態だ。
周りのノリに合わせてジョッキをぶつけ合い、ぺこぺこと頭を下げる。
隣に座る先輩ともジョッキを合わせ、口を付けずにテーブルへ置いた時、その先輩が静かに声を掛けて来た。
「もしかして、ビール苦手ですか?」
「あ……はい。ちょっと、お酒が苦手で……」
私の隣に座っているのは、なんとあの麻天狼の観音坂独歩さんだ。
有名人だという事を微塵も感じさせない、正直言うと少々頼り無ささえ覚える観音坂先輩は、私の返事を聞いて苦笑する。
「とりあえず生、の空気は口を挟みにくいですよね。何飲みます? 代わりに注文しますよ」
「すみません、観音坂先輩。えっと、烏龍茶をお願いします」
先輩は優しく頷くと、側にあった注文用のタブレットを操作する。しばらくすると、烏龍茶で満たされたグラスを手にした店員さんがやって来た。
「烏龍茶頼んだ人〜?」
店員さんからグラスを受け取った人が、大きな声で呼び掛ける。観音坂先輩が手を挙げた。
「悪い、こっちだ」
それを見た課長が、わざとらしい溜息を漏らす。
「観音坂くん、社会人は飲みニケーションが大事でしょ。ビールでほら。無礼講、無礼講!」
「はは、すみません……」
観音坂先輩は、眉を下げ疲れたように笑う。そして短く笑った後、据わった瞳で呟いた。
「無礼講ってんなら酔ったフリしてその残り少ない毛髪ぶち抜いてやる……」
その言葉に思わず吹き出すと、観音坂先輩が慌てたようにこちらを向いた。
「あっ、聞こえてました!? はは、今のは冗談ですよ……! あと、あいつの言う事は気にしなくて大丈夫ですからね。飲みニケーション、なんていつの時代だよって」
グラスを私の方に置きながら、誤魔化すように早口で話す。そして私の手から生ビールが入ったジョッキを取った。
観音坂先輩は、流れるようにそのままジョッキを傾ける。上下する彼の喉をじっと見ていると、あっという間に中に入っていた液体は無くなった。
「ありがとうございます、観音坂先輩」
お礼を言うと、先輩は照れ臭そうに笑って口元を親指で拭った。
「いえ、どう致しまして」
そのふにゃりとした笑顔は、やはりどこか頼り無い。しかし、安心感や親しみやすさも感じる。
不思議な人だなぁと見詰めていると、観音坂先輩は小首を傾げた。
「あの、どうかしました……?」
「すみません、何でもないです。これからも、お仕事頑張って行けそうだな、と思って」
慌ててそう返すと、観音坂先輩は自分のジョッキを傾けつつ答える。
「頑張り過ぎるのも良くないですからね。無理な事は無理って言わないと、すぐキャパオーバーになってしまうので……。先輩として言えるのがこれくらいで申し訳無いですけど……」
「肝に銘じておきます」
メモを取るようなジェスチャーをすると、先輩はおかしそうに小さく笑う。
その笑顔を見て、私は胸が高鳴るのを感じた。
─ END ─
【あとがき】
新生活が始まった方もそうでない方も、無理せず行きましょう!
独歩と新社会人シリーズ、こちらもどうぞ。
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2026/05/15
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