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。*゚+──幻太郎の恋人がナゴヤ推しだった件
「ねぇ幻太郎、今って仕事詰まってたりする?」
るあきの家にお邪魔し、ゆったりとした時間を過ごしていた時、彼女がそう口を開いた。
「いえ。新作も先日無事に納めた所なので、特別忙しくはありませんが」
デートの誘いでもして来るのだろうか。
しかし、そんな甘い期待はすぐに砕かれる。
「じゃあさ、お願いなんだけど、私と十四くんの恋愛小説とか書いてみてくれたりしない?」
両手を合わせ、首をこてんと傾けるるあき。
とても愛らしい仕草だが、もう一度言ってみてくれませんか。小生の聞き間違いかも知れませんから……。
「Bad Ass Templeの、四十物十四くん! 十四くんと私の甘い恋愛小説を、夢野幻太郎先生に書いて頂けないかなぁと」
聞き間違いでは無いらしい。小生は片手で頭を抱え、思わず出かけた溜息を飲み込んだ。
「何故此処で、四十物氏の名前が出て来るのでしょうか?」
「それは、私の推しだからです」
「推し」
「うん、推し」
そう言いながら、彼女はスマホの画面を見せて来る。壁紙は、四十物氏の写真だった。スマホケースも、紫色を基調に月などのパーツで飾られている。
「全く乗り気では無いですが、小説家のプライドを賭けて執筆致しましょう」
渋々頷くと、るあきは嬉しそうな笑顔を小生に向けた。
「『おいどんは四十物十四! Bad Ass Templeのメンバーと、今日も元気にラップをするでごわす!』……と」
「まじでふざけないで」
普段は小生の嘘に笑って乗ってくれるるあきが、驚く程冷たい声音で呟いた。
まぁ、推しでふざけられるのは、たまったものではないでしょう。反省しながら、脳内でイメージを固めて整理して行く。
「……ところで、これは浮気に該当するのではないですか? 何故、彼女と別の男の恋愛小説など書かなくてはならないのです?」
小生の疑問に、るあきはスマホで四十物氏の写真を眺めながら答えた。
「十四くんは推しだって言ったでしょ。恋人とは別。現実で恋愛関係になろうなんて思ってないよ。でも、もし大好きな推しが恋人だったら楽しいだろうなぁって妄想を、幻太郎の力で味わいたくて」
物語は非日常、非現実を手軽に体験出来る素晴らしいものである。恋愛も疑似体験出来る事は夢があるが、るあきの場合は夢を見ずとも現実に小生が居るではないか。
いまいち腑に落ちていないが、先程怒らせてしまった手前、おいそれと不満を口にするのは憚 られた。
どんな形であれ、彼女の喜ぶ顔が見られるのならば安いものだろう。
るあきが納得するような物語を紡いでみせましょう。小生はそんな決心を固めたのだった。
それから数日後、完成した原稿を携えるあきの元を訪れる。彼女は、待ってましたと小さく拍手をして出迎えてくれた。
「ありがとう! 早速読ませて頂きます、先生!」
その宣言通り、るあきはすぐ原稿に視線を落とす。文字を目で追いながら時々口元を綻ばせ、楽しんでもらえている事が分かり安堵した。
今回認 めたのは、原稿用紙数枚の短編小説である。そろそろクライマックスに差し掛かった辺りだろうか。
美しいステンドグラスに光が差し込み、向かい合う私達を優しく包む。
目の前の十四くんは、慈しむような表情で私を見詰めていた。私もまた、同じように微笑み返す。
彼によって、私の顔を覆っていたヴェールが静かに上げられた。
神父の合図で、緊張した面持ちの十四くんが私の肩に手を置く。それと同時に、私は瞼を閉じた。
それでも感じる彼の気配に胸を高鳴らせていると、突然大きな音を立てて扉が開いた。
驚いて目を開き、扉の方へ視線を向けると、そこにはなんと幻太郎くんが立っている。
「るあき! 迎えに来ましたよ!」
そう叫んで、幻太郎くんはこちらへ駆けて来た。そして私をさっと横抱きにすると、ざわめく人達に目もくれず颯爽と教会を後にする。
「来てくれるって信じてたよ、幻太郎くん」
自然と溢 れた涙が頬を伝う前に、幻太郎くんは私の目元に口付けを落とした。
「ちょっと待って、なんか幻太郎が出て来たんだけど」
原稿から顔を上げ、るあきは小生の目を穴があきそうな程見詰めて来た。
「小生を出してはいけないとは言われていませんでしたから」
「てか幻太郎、お姫様抱っこ出来るの?」
咳払いで誤魔化そうとするも、彼女は逃してはくれない。
「出来ない事を叶える事が出来るのが、小説の醍醐味ですからね」
「とりあえず、これはボツ」
小生の返答に、間髪を入れず厳しい言葉を重ねるるあき。
ライトノベルの主人公風に締め括りましょう。
「全く、やれやれだぜ」
─ END ─
【あとがき】
▶二郎の恋人がオオサカ推しだった件
▶理鶯の恋人がシブヤ推しだった件
▶寂雷の恋人がヨコハマ推しだった件
▶一二三の恋人がシブヤ推しだった件
▶独歩の恋人がヨコハマ推しだった件
▶十四の恋人がシンジュク推しだった件
こちらもどうぞ。
2026/01/31
「ねぇ幻太郎、今って仕事詰まってたりする?」
るあきの家にお邪魔し、ゆったりとした時間を過ごしていた時、彼女がそう口を開いた。
「いえ。新作も先日無事に納めた所なので、特別忙しくはありませんが」
デートの誘いでもして来るのだろうか。
しかし、そんな甘い期待はすぐに砕かれる。
「じゃあさ、お願いなんだけど、私と十四くんの恋愛小説とか書いてみてくれたりしない?」
両手を合わせ、首をこてんと傾けるるあき。
とても愛らしい仕草だが、もう一度言ってみてくれませんか。小生の聞き間違いかも知れませんから……。
「Bad Ass Templeの、四十物十四くん! 十四くんと私の甘い恋愛小説を、夢野幻太郎先生に書いて頂けないかなぁと」
聞き間違いでは無いらしい。小生は片手で頭を抱え、思わず出かけた溜息を飲み込んだ。
「何故此処で、四十物氏の名前が出て来るのでしょうか?」
「それは、私の推しだからです」
「推し」
「うん、推し」
そう言いながら、彼女はスマホの画面を見せて来る。壁紙は、四十物氏の写真だった。スマホケースも、紫色を基調に月などのパーツで飾られている。
「全く乗り気では無いですが、小説家のプライドを賭けて執筆致しましょう」
渋々頷くと、るあきは嬉しそうな笑顔を小生に向けた。
「『おいどんは四十物十四! Bad Ass Templeのメンバーと、今日も元気にラップをするでごわす!』……と」
「まじでふざけないで」
普段は小生の嘘に笑って乗ってくれるるあきが、驚く程冷たい声音で呟いた。
まぁ、推しでふざけられるのは、たまったものではないでしょう。反省しながら、脳内でイメージを固めて整理して行く。
「……ところで、これは浮気に該当するのではないですか? 何故、彼女と別の男の恋愛小説など書かなくてはならないのです?」
小生の疑問に、るあきはスマホで四十物氏の写真を眺めながら答えた。
「十四くんは推しだって言ったでしょ。恋人とは別。現実で恋愛関係になろうなんて思ってないよ。でも、もし大好きな推しが恋人だったら楽しいだろうなぁって妄想を、幻太郎の力で味わいたくて」
物語は非日常、非現実を手軽に体験出来る素晴らしいものである。恋愛も疑似体験出来る事は夢があるが、るあきの場合は夢を見ずとも現実に小生が居るではないか。
いまいち腑に落ちていないが、先程怒らせてしまった手前、おいそれと不満を口にするのは
どんな形であれ、彼女の喜ぶ顔が見られるのならば安いものだろう。
るあきが納得するような物語を紡いでみせましょう。小生はそんな決心を固めたのだった。
それから数日後、完成した原稿を携えるあきの元を訪れる。彼女は、待ってましたと小さく拍手をして出迎えてくれた。
「ありがとう! 早速読ませて頂きます、先生!」
その宣言通り、るあきはすぐ原稿に視線を落とす。文字を目で追いながら時々口元を綻ばせ、楽しんでもらえている事が分かり安堵した。
今回
美しいステンドグラスに光が差し込み、向かい合う私達を優しく包む。
目の前の十四くんは、慈しむような表情で私を見詰めていた。私もまた、同じように微笑み返す。
彼によって、私の顔を覆っていたヴェールが静かに上げられた。
神父の合図で、緊張した面持ちの十四くんが私の肩に手を置く。それと同時に、私は瞼を閉じた。
それでも感じる彼の気配に胸を高鳴らせていると、突然大きな音を立てて扉が開いた。
驚いて目を開き、扉の方へ視線を向けると、そこにはなんと幻太郎くんが立っている。
「るあき! 迎えに来ましたよ!」
そう叫んで、幻太郎くんはこちらへ駆けて来た。そして私をさっと横抱きにすると、ざわめく人達に目もくれず颯爽と教会を後にする。
「来てくれるって信じてたよ、幻太郎くん」
自然と
「ちょっと待って、なんか幻太郎が出て来たんだけど」
原稿から顔を上げ、るあきは小生の目を穴があきそうな程見詰めて来た。
「小生を出してはいけないとは言われていませんでしたから」
「てか幻太郎、お姫様抱っこ出来るの?」
咳払いで誤魔化そうとするも、彼女は逃してはくれない。
「出来ない事を叶える事が出来るのが、小説の醍醐味ですからね」
「とりあえず、これはボツ」
小生の返答に、間髪を入れず厳しい言葉を重ねるるあき。
ライトノベルの主人公風に締め括りましょう。
「全く、やれやれだぜ」
─ END ─
【あとがき】
▶二郎の恋人がオオサカ推しだった件
▶理鶯の恋人がシブヤ推しだった件
▶寂雷の恋人がヨコハマ推しだった件
▶一二三の恋人がシブヤ推しだった件
▶独歩の恋人がヨコハマ推しだった件
▶十四の恋人がシンジュク推しだった件
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2026/01/31
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