どついたれ本舗
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。*゚+──週末フラタナティー
週末の楽しみは、定時で上がって居酒屋に行き、一人でお酒を呑む事だ。
今週も仕事の山を片付け、なんとか残業ゼロで退勤。暖簾が掛けられたばかりの店に足を運ぶ。決して広くはない個人経営の店だが、店主や客の雰囲気が温かく、はぼ毎週お邪魔している。
入店して通されたのは、いつものカウンター席だ。端に座って店主と話したり、周りの客の会話を聞きながら呑むのが一番の肴である。
しかし、まだ営業を始めたばかりの時間の為、店内には数人の常連客しか居ない。
「おや、今週もご苦労さん!」
笑顔で労 ってくれる店主に礼を言いつつ、席に座っていつものメニューを注文する。
つきだしの小鉢をつまみながら店主の包丁さばきを見詰めていると、店の引き戸が音を立てて開いた。
新たにやって来た客は、私の二つ隣に腰をおろす。ちらと見遣ると、派手な服装に髭を蓄えたおじさん(と言っても、俗に言うイケオジの部類だ)が、親しげに店主に話し掛けていた。
見た事が無い人だが、この人も常連なのだろう。軽口を叩き合った後、注文をしてお冷を呷っている。
それにしても、なんとなく彼を知っているような気がしてならない。「見た事が無い人」とは言ったが、この店で見掛けた事が無かっただけだ。
弊社の取引相手、は違うか……。
私は頬杖をつきながら、盗み見るように横目で眺める。しかし、ふとしたタイミングでばっちりと目が合ってしまった。
「嬢ちゃん、さっきから熱い視線を送って来るが、おいちゃんに一目惚れでもしたか?」
彼は楽しそうに笑って、そんな事を言う。
「すみません、じろじろ見るような真似して。あの、私達って何処かで会った事ありませんか? 見覚えがあるような気がして、忘れてたら申し訳無いなと……」
失礼ついでに、ずっと気になっていた事を問う。すると彼は短く笑って言った。
「それはもしかしてナンパってやつか? わりぃが嬢ちゃんみたいな子はお断りだぜ。十年早い」
「そういうんじゃないですよ……」
確かに彼は格好良いが、断じてそういう意味で声を掛けた訳では無い。私は内心で頬を膨らませる。
そしてこのタイミングで、私の目の前に注文した品を並べながら、店主が口を開いた。
「知らないかい? 零さんはラップチームの、どついたれ本舗のメンバーだよ」
「どつ本!? どおりで見た事あるはずだ……」
まさかこんな所に居るとは思わなかった為、全く気が付かなかった。
「零さんは、高級なバーで静かに呑んでるイメージでした」
そう呟くと、零さんは豪快に笑う。
「嬢ちゃんの方こそ、映 える洒落たカフェじゃなくて良いのか?」
店主が「ちょっと零さん!」と笑いながらツッコんだ。そのリアクションに心を温めながら答える。
「毎週金曜日の仕事終わりに寄って、店主と話したり、他のお客さんと話したりするのが好きなんです。初めて来た時に感じた、温かい雰囲気が癖になっちゃって」
零さんが、届いた生ビールを一気に半分まで胃に流し込む。ぷはっと息を吐くと、また楽しそうに笑った。
「こういう場だからこその縁ってのは良いもんだよなァ」
そして他愛の無い会話を繰り広げ、いつもより長居をしてしまっている事に気付いた。
「そろそろ帰りますね。今日も美味しかったです」
「また来週ねぇ」
店主がにこやかに返す。零さんもひらりと手を振ってくれたので、二人にぺこりと頭を下げて帰宅する。
あっという間に休日も終わり、また月曜日が始まった。週に一度のお楽しみの為に、気合いを入れて仕事を片付けて行く。
今週は少し残業をしてしまった。
暖簾をくぐると、店内は仕事終わりのサラリーマンや楽しそうな大学生のグループで賑わっている。
わいわいと盛り上がる彼等の横を通って、私はいつもの席に腰をおろした。
そして隣を見上げ、零さんに声を掛ける。
「こんばんは、零さん」
「よう。今日は金曜日か」
そう言い、零さんは笑いながらグラスを傾ける。
「早いですね。金曜日です。今日はちょっと残業しちゃいました」
「そいつはご苦労なこった」
店主の温かい手料理をアルコールで流しつつ、今日も雑談を繰り広げる。
そして時刻は間もなく十時になる頃だった。名残惜しいが、帰り仕度を進め挨拶をする。
「今日の料理も美味しかったです。ご馳走でした」
店主はにこりと微笑み、零さんも先週と同じく軽く手を振る。その後何度目かの注文を頼んでいたので、零さんはまだまだ帰らないのだろう。
来週はもう少しだけ零さんの隣に居ようと、ひっそりと誓った。
相変わらず忙しない日々を過ごし、気付けば金曜日。私は仕事が片付くなり、足早にいつもの店へ向かった。
開いたばかりの店内には、いつもの人達が既に花金を満喫している。その横を通り、私はいつもの席でいつものメニューを注文した。
店主の温かい手料理と美味しいお酒を楽しんで一時間半程、私はそわそわと店の出入り口に視線をやる。そんな私を見て、店主は微笑みながら口を開いた。
「零さん、来ないねぇ」
「え!? いや別に、待ってる訳じゃないですけど……」
早口でそう返すと、店主は楽しそうに「そうかい」と呟く。
それから三十分程、ちびちびとお酒を口に運んでいたが、結局零さんは来なかった。
「ご馳走様でした。また来週来ますね」
小さく溜息をついて、帰り仕度を進める。
店を出ると、少しだけ肌寒い気がして身震いした。
そして休日も明けて、週始めからてきぱきと仕事を片付けて行く。
先日会えなかったからなのか、今週はやけに零さんの事が頭から離れない。しっかり手を動かしながらも、頭の片隅には彼が居た。
「よし、今週のお仕事終わり!」
待ちに待った金曜日。見事、定時上がりだ。
今日は会えるだろうかと、ドキドキしながら店の扉に手を掛ける。私は深呼吸をした。
「よう、嬢ちゃん。入らねぇのか?」
「うわぁ! れ、零さん……!」
深呼吸の途中で声を掛けられ、軽くむせてしまった。その間に、零さんは音を立てて扉を開ける。そのまま私の方を見詰めていたので、ドキドキがおさまらないまま頭を下げて店に入った。
いつもの席に腰をおろすと、店主が何か言いたげな表情で私達へ視線を向けている。
私は気付かないフリをして注文を伝えた。
「はいよ~。それにしても、二人はいつの間に仲良く来店する間柄になったんだい?」
「それはっ、たまたま偶然入口の所で会っただけであって約束して来た訳では」
いつかのように早口で弁解していると、店主は「はいはい」と笑う。そして、零さんがわずかに首を傾けながら口を開いた。
「偶然ねぇ……。嬢ちゃんは、運命ってのは信じねぇのか」
「うっ!? 運命ってそんな……いやいや、騙されませんよ! 最初に会った時、十年早いって言われたの覚えてますから。私を誑かそうったって、そうは行きませんよ!」
勢い良くまくし立てるも零さんは意に介さず、グラスの酒を呷った。
「いやぁ、嬢ちゃんと居るのは本当に退屈しなくて良いねぇ。俺も毎週金曜に顔を出す事にするかな」
顎を撫でながら発した零さんの言葉に、嬉しくなったのは此処だけの秘密だ。
「そうしてやんな。この子、先週零さんが来なかったから寂しがってたんだよ」
「ほう?」
「違いますよ! その日は仕事で疲れてただけです!」
からかうように笑う二人にそう返す。顔が熱くなって来た。私はグラスに残っていた酒を一気に飲み干し、同じものを店主に向かって注文した。
「ところで、嬢ちゃんはそろそろ帰る時間なんじゃねぇのか?」
「子供扱いしないでくらさい。今日は零さんが帰るまで、私も一緒に居るって決めてるんれす」
ふわふわして来た頭で、呂律が回ってないなとぼんやり思った。
「じゃあぼちぼち帰るとするか」
「私まだまだ呑めますよ!? もっと零さんとお話してたいです」
帰ろうとする彼を引き止める為にそう言うと、ぽんぽんと頭を優しく撫でられた。
「そういうのは、是非シラフの時に言ってくれ」
ほら帰るぞ、と言いながら零さんは席を立つ。仕方無く、私も彼の後に続いた。
店を出てふらふらと揺れながら零さんの隣を歩いていると、夜風に顔を撫でられ、段々と酔いが醒めて来る。
そして、彼に腰を抱かれている事に気付いた。
「いつの間にお持ち帰りされちゃってるんですか私!?」
「生憎だが、おいちゃんは小娘に興味ねぇんだ。酔いが醒めたなら、あとは一人で帰れるか?」
千鳥足の私を支えてくれていたらしい。変な勘違いを大声で口にして、恥ずかしさが募って来る。
「……すみません、色々ありがとうございます。大丈夫です」
ぱっと零さんから離れて、赤くなっているだろう顔を見られないように頭を下げた。その頭を、零さんは再びぽんぽんと撫でる。
「また来週な、るあき」
零さんに名前を呼ばれ、醒めたはずの酔いがまた回って来る感覚がした。
─ END ─
【あとがき】
嬢ちゃんって呼ばれたいです。小娘呼びも良いです。
2025/12/21
週末の楽しみは、定時で上がって居酒屋に行き、一人でお酒を呑む事だ。
今週も仕事の山を片付け、なんとか残業ゼロで退勤。暖簾が掛けられたばかりの店に足を運ぶ。決して広くはない個人経営の店だが、店主や客の雰囲気が温かく、はぼ毎週お邪魔している。
入店して通されたのは、いつものカウンター席だ。端に座って店主と話したり、周りの客の会話を聞きながら呑むのが一番の肴である。
しかし、まだ営業を始めたばかりの時間の為、店内には数人の常連客しか居ない。
「おや、今週もご苦労さん!」
笑顔で
つきだしの小鉢をつまみながら店主の包丁さばきを見詰めていると、店の引き戸が音を立てて開いた。
新たにやって来た客は、私の二つ隣に腰をおろす。ちらと見遣ると、派手な服装に髭を蓄えたおじさん(と言っても、俗に言うイケオジの部類だ)が、親しげに店主に話し掛けていた。
見た事が無い人だが、この人も常連なのだろう。軽口を叩き合った後、注文をしてお冷を呷っている。
それにしても、なんとなく彼を知っているような気がしてならない。「見た事が無い人」とは言ったが、この店で見掛けた事が無かっただけだ。
弊社の取引相手、は違うか……。
私は頬杖をつきながら、盗み見るように横目で眺める。しかし、ふとしたタイミングでばっちりと目が合ってしまった。
「嬢ちゃん、さっきから熱い視線を送って来るが、おいちゃんに一目惚れでもしたか?」
彼は楽しそうに笑って、そんな事を言う。
「すみません、じろじろ見るような真似して。あの、私達って何処かで会った事ありませんか? 見覚えがあるような気がして、忘れてたら申し訳無いなと……」
失礼ついでに、ずっと気になっていた事を問う。すると彼は短く笑って言った。
「それはもしかしてナンパってやつか? わりぃが嬢ちゃんみたいな子はお断りだぜ。十年早い」
「そういうんじゃないですよ……」
確かに彼は格好良いが、断じてそういう意味で声を掛けた訳では無い。私は内心で頬を膨らませる。
そしてこのタイミングで、私の目の前に注文した品を並べながら、店主が口を開いた。
「知らないかい? 零さんはラップチームの、どついたれ本舗のメンバーだよ」
「どつ本!? どおりで見た事あるはずだ……」
まさかこんな所に居るとは思わなかった為、全く気が付かなかった。
「零さんは、高級なバーで静かに呑んでるイメージでした」
そう呟くと、零さんは豪快に笑う。
「嬢ちゃんの方こそ、
店主が「ちょっと零さん!」と笑いながらツッコんだ。そのリアクションに心を温めながら答える。
「毎週金曜日の仕事終わりに寄って、店主と話したり、他のお客さんと話したりするのが好きなんです。初めて来た時に感じた、温かい雰囲気が癖になっちゃって」
零さんが、届いた生ビールを一気に半分まで胃に流し込む。ぷはっと息を吐くと、また楽しそうに笑った。
「こういう場だからこその縁ってのは良いもんだよなァ」
そして他愛の無い会話を繰り広げ、いつもより長居をしてしまっている事に気付いた。
「そろそろ帰りますね。今日も美味しかったです」
「また来週ねぇ」
店主がにこやかに返す。零さんもひらりと手を振ってくれたので、二人にぺこりと頭を下げて帰宅する。
あっという間に休日も終わり、また月曜日が始まった。週に一度のお楽しみの為に、気合いを入れて仕事を片付けて行く。
今週は少し残業をしてしまった。
暖簾をくぐると、店内は仕事終わりのサラリーマンや楽しそうな大学生のグループで賑わっている。
わいわいと盛り上がる彼等の横を通って、私はいつもの席に腰をおろした。
そして隣を見上げ、零さんに声を掛ける。
「こんばんは、零さん」
「よう。今日は金曜日か」
そう言い、零さんは笑いながらグラスを傾ける。
「早いですね。金曜日です。今日はちょっと残業しちゃいました」
「そいつはご苦労なこった」
店主の温かい手料理をアルコールで流しつつ、今日も雑談を繰り広げる。
そして時刻は間もなく十時になる頃だった。名残惜しいが、帰り仕度を進め挨拶をする。
「今日の料理も美味しかったです。ご馳走でした」
店主はにこりと微笑み、零さんも先週と同じく軽く手を振る。その後何度目かの注文を頼んでいたので、零さんはまだまだ帰らないのだろう。
来週はもう少しだけ零さんの隣に居ようと、ひっそりと誓った。
相変わらず忙しない日々を過ごし、気付けば金曜日。私は仕事が片付くなり、足早にいつもの店へ向かった。
開いたばかりの店内には、いつもの人達が既に花金を満喫している。その横を通り、私はいつもの席でいつものメニューを注文した。
店主の温かい手料理と美味しいお酒を楽しんで一時間半程、私はそわそわと店の出入り口に視線をやる。そんな私を見て、店主は微笑みながら口を開いた。
「零さん、来ないねぇ」
「え!? いや別に、待ってる訳じゃないですけど……」
早口でそう返すと、店主は楽しそうに「そうかい」と呟く。
それから三十分程、ちびちびとお酒を口に運んでいたが、結局零さんは来なかった。
「ご馳走様でした。また来週来ますね」
小さく溜息をついて、帰り仕度を進める。
店を出ると、少しだけ肌寒い気がして身震いした。
そして休日も明けて、週始めからてきぱきと仕事を片付けて行く。
先日会えなかったからなのか、今週はやけに零さんの事が頭から離れない。しっかり手を動かしながらも、頭の片隅には彼が居た。
「よし、今週のお仕事終わり!」
待ちに待った金曜日。見事、定時上がりだ。
今日は会えるだろうかと、ドキドキしながら店の扉に手を掛ける。私は深呼吸をした。
「よう、嬢ちゃん。入らねぇのか?」
「うわぁ! れ、零さん……!」
深呼吸の途中で声を掛けられ、軽くむせてしまった。その間に、零さんは音を立てて扉を開ける。そのまま私の方を見詰めていたので、ドキドキがおさまらないまま頭を下げて店に入った。
いつもの席に腰をおろすと、店主が何か言いたげな表情で私達へ視線を向けている。
私は気付かないフリをして注文を伝えた。
「はいよ~。それにしても、二人はいつの間に仲良く来店する間柄になったんだい?」
「それはっ、たまたま偶然入口の所で会っただけであって約束して来た訳では」
いつかのように早口で弁解していると、店主は「はいはい」と笑う。そして、零さんがわずかに首を傾けながら口を開いた。
「偶然ねぇ……。嬢ちゃんは、運命ってのは信じねぇのか」
「うっ!? 運命ってそんな……いやいや、騙されませんよ! 最初に会った時、十年早いって言われたの覚えてますから。私を誑かそうったって、そうは行きませんよ!」
勢い良くまくし立てるも零さんは意に介さず、グラスの酒を呷った。
「いやぁ、嬢ちゃんと居るのは本当に退屈しなくて良いねぇ。俺も毎週金曜に顔を出す事にするかな」
顎を撫でながら発した零さんの言葉に、嬉しくなったのは此処だけの秘密だ。
「そうしてやんな。この子、先週零さんが来なかったから寂しがってたんだよ」
「ほう?」
「違いますよ! その日は仕事で疲れてただけです!」
からかうように笑う二人にそう返す。顔が熱くなって来た。私はグラスに残っていた酒を一気に飲み干し、同じものを店主に向かって注文した。
「ところで、嬢ちゃんはそろそろ帰る時間なんじゃねぇのか?」
「子供扱いしないでくらさい。今日は零さんが帰るまで、私も一緒に居るって決めてるんれす」
ふわふわして来た頭で、呂律が回ってないなとぼんやり思った。
「じゃあぼちぼち帰るとするか」
「私まだまだ呑めますよ!? もっと零さんとお話してたいです」
帰ろうとする彼を引き止める為にそう言うと、ぽんぽんと頭を優しく撫でられた。
「そういうのは、是非シラフの時に言ってくれ」
ほら帰るぞ、と言いながら零さんは席を立つ。仕方無く、私も彼の後に続いた。
店を出てふらふらと揺れながら零さんの隣を歩いていると、夜風に顔を撫でられ、段々と酔いが醒めて来る。
そして、彼に腰を抱かれている事に気付いた。
「いつの間にお持ち帰りされちゃってるんですか私!?」
「生憎だが、おいちゃんは小娘に興味ねぇんだ。酔いが醒めたなら、あとは一人で帰れるか?」
千鳥足の私を支えてくれていたらしい。変な勘違いを大声で口にして、恥ずかしさが募って来る。
「……すみません、色々ありがとうございます。大丈夫です」
ぱっと零さんから離れて、赤くなっているだろう顔を見られないように頭を下げた。その頭を、零さんは再びぽんぽんと撫でる。
「また来週な、るあき」
零さんに名前を呼ばれ、醒めたはずの酔いがまた回って来る感覚がした。
─ END ─
【あとがき】
嬢ちゃんって呼ばれたいです。小娘呼びも良いです。
2025/12/21
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