麻天狼
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。*゚+──一二三の恋人がシブヤ推しだった件
「お〜すげぇ! 本当に読書好きなんだね、るあきちゃん」
るあきちゃんの部屋にある大きな本棚を眺めながら、俺っちはそんな率直な感想を述べる。
「興味ある本あったら貸すから言ってね」
本棚に収まるほとんどは小説だった。分厚いハードカバーから小さな文庫本まで、様々な本が綺麗に並んでいる。ジャンルや作者も多岐に渡り、彼女の読書家具合が窺えた。
「特に好きな作品とか作家とか居たりするの? 折角なら、るあきちゃんの好きなもの読みたいな」
振り返ってるあきちゃんの顔を見ると、彼女は顎に手をやり悩む素振りを見せる。
本棚の前に立つ俺っちの隣に並び、小さな指先ですーっと本の背をなぞって行った。
「最近読んだものだと……これは面白かったな。短編集になってるから、読みやすくておすすめだよ」
「へぇ、表紙も綺麗で良いね」
受け取った短編集のページを適当に捲っていると、るあきちゃんが続ける。
「あと昔から好きな作家さんが居るんだけど、一二三くんも知ってる人だよ」
「俺っちあんま本読まないんだけど、そんな有名な人? 賞取ってたりとか?」
頭の中に、有名な受賞作家の名前を浮かべる。今年の大賞を取った作品の作者は誰だったっけ……。
本好きのお客さんとも会話を広げられるよう、この辺りも勉強しておかないとな。
そんな決心をしていると、るあきちゃんがまた一冊の小説を本棚から抜き取って手渡して来た。
「中でもこの本が一番好きなの」
「面白そうなタイトルだね。んーと……夢野、幻太郎……」
夢野幻太郎!? シブヤの!?
思わず作者名を二度見してしまった。るあきちゃん、夢野幻太郎のファンだったって事!?
本から顔を上げ、彼女の顔を見る。るあきちゃんは可愛い笑顔で口を開いた。
「これは主人公の女の子の切ない恋を描いた純愛ラブストーリーなんだけど、登場人物も多くないから読みやすいし、何より夢野先生の言葉選びが繊細でね」
「ふーん……そんなに夢野せんせーの事好きだったんだ」
熱く語るるあきちゃん。手持ち無沙汰に手元の小説をパラパラと捲っていると、彼女が小さく笑った。
「一二三くんって、夢野先生の事嫌いなんだっけ?」
「別に嫌いって訳じゃないけどー、性格が合わないっつーか? 俺っちは特別仲良くなろうとは思わないかな〜」
たとえ夢野幻太郎ではなくても、るあきちゃんがファンだと言うのなら誰の名前を出されても面白くは無かっただろう。
たまたま麻天狼のライバルであるFling Posseで、たまたま同じ二番手の夢野幻太郎だったから嫉妬心が上乗せされているだけなのだ。
「るあきちゃんって、もしかしてシブヤ推しとか?」
「あ……うん。実はそうなんだ。夢野先生の小説が好きで、彼のリリックも文学的で綺麗だから」
予想通りの返答に、聞いておいて勝手にショックを受ける。そんな俺っちに気を遣ったように、るあきちゃんは続けた。
「勿論、麻天狼も応援してるよ! 一二三くんの相手を煽るようなリリックも格好良いし、何より周りを魅了して盛り上げるのが上手だなって思う!」
「ありがと、るあきちゃん」
優しい彼女に笑い掛け、次いで受け取った本の表紙を眺める。彼女の好きなものを読みたいとお願いした手前、断るのも気が引けた。
結局あれから更に数冊おすすめを追加され、俺っちの片手にはずっしりと重量感のある袋がぶら下がっている。
就寝前。袋から一冊手に取り、ベッドに転がって表紙を捲った。
「悔しいけど、確かに面白いかも……」
るあきちゃんの言う通り、夢野幻太郎が書く本は情景描写が綺麗だ。続きが気になり、ページを捲る手が止まらない。気が付くとあっという間に数時間が経過していた。
寝る前の読書がルーティンと化して数日、借りた本を全て読み終えてしまった。
連絡を取って、本を返却する為にるあきちゃんの自宅へ向かう。
彼女と本の内容について語らおうと軽い足取りで歩いていると、角を曲がって来た人とぶつかってしまった。
「おっと、すみません」
「こっちこそ……って、夢野幻太郎じゃん!」
相手を見ると、ぶつかった人物はなんと夢野幻太郎だった。
「あ、そうだ! 小説読んだぜ〜! めちゃ面白いじゃんか!」
本人に感想を伝えると、嬉しそうに口元を笑みの形にした。
「ふふ、どういう風の吹き回しでしょう。嘘は小生の専売特許ですが」
「そーゆーとこ! 人が素直に褒めてんだから、そっちも素直に受け取れよな〜」
作品に触れて彼を見る目が変わったというのに、やはり夢野幻太郎とは合わないかも知れない。
何より、文章でるあきちゃんの心を掴んでいる、謂わばライバルだ。
「まぁ本が面白いのは認めっけど、るあきちゃんの一番は俺っちだし? 次のバトル、絶対負けないかんなー!」
宣戦布告をして、夢野幻太郎と別れる。
るあきちゃんに会ってこの事を話したら「新作にサイン書いて欲しかったな」と言われ、俺っちはますます夢野幻太郎に対するライバル心を燃やしたのだった。
─ END ─
【あとがき】
こちらもどうぞ。
▶二郎の恋人がオオサカ推しだった件
▶理鶯の恋人がシブヤ推しだった件
▶寂雷の恋人がヨコハマ推しだった件
▶独歩の恋人がヨコハマ推しだった件
▶十四の恋人がシンジュク推しだった件
2025/08/18
「お〜すげぇ! 本当に読書好きなんだね、るあきちゃん」
るあきちゃんの部屋にある大きな本棚を眺めながら、俺っちはそんな率直な感想を述べる。
「興味ある本あったら貸すから言ってね」
本棚に収まるほとんどは小説だった。分厚いハードカバーから小さな文庫本まで、様々な本が綺麗に並んでいる。ジャンルや作者も多岐に渡り、彼女の読書家具合が窺えた。
「特に好きな作品とか作家とか居たりするの? 折角なら、るあきちゃんの好きなもの読みたいな」
振り返ってるあきちゃんの顔を見ると、彼女は顎に手をやり悩む素振りを見せる。
本棚の前に立つ俺っちの隣に並び、小さな指先ですーっと本の背をなぞって行った。
「最近読んだものだと……これは面白かったな。短編集になってるから、読みやすくておすすめだよ」
「へぇ、表紙も綺麗で良いね」
受け取った短編集のページを適当に捲っていると、るあきちゃんが続ける。
「あと昔から好きな作家さんが居るんだけど、一二三くんも知ってる人だよ」
「俺っちあんま本読まないんだけど、そんな有名な人? 賞取ってたりとか?」
頭の中に、有名な受賞作家の名前を浮かべる。今年の大賞を取った作品の作者は誰だったっけ……。
本好きのお客さんとも会話を広げられるよう、この辺りも勉強しておかないとな。
そんな決心をしていると、るあきちゃんがまた一冊の小説を本棚から抜き取って手渡して来た。
「中でもこの本が一番好きなの」
「面白そうなタイトルだね。んーと……夢野、幻太郎……」
夢野幻太郎!? シブヤの!?
思わず作者名を二度見してしまった。るあきちゃん、夢野幻太郎のファンだったって事!?
本から顔を上げ、彼女の顔を見る。るあきちゃんは可愛い笑顔で口を開いた。
「これは主人公の女の子の切ない恋を描いた純愛ラブストーリーなんだけど、登場人物も多くないから読みやすいし、何より夢野先生の言葉選びが繊細でね」
「ふーん……そんなに夢野せんせーの事好きだったんだ」
熱く語るるあきちゃん。手持ち無沙汰に手元の小説をパラパラと捲っていると、彼女が小さく笑った。
「一二三くんって、夢野先生の事嫌いなんだっけ?」
「別に嫌いって訳じゃないけどー、性格が合わないっつーか? 俺っちは特別仲良くなろうとは思わないかな〜」
たとえ夢野幻太郎ではなくても、るあきちゃんがファンだと言うのなら誰の名前を出されても面白くは無かっただろう。
たまたま麻天狼のライバルであるFling Posseで、たまたま同じ二番手の夢野幻太郎だったから嫉妬心が上乗せされているだけなのだ。
「るあきちゃんって、もしかしてシブヤ推しとか?」
「あ……うん。実はそうなんだ。夢野先生の小説が好きで、彼のリリックも文学的で綺麗だから」
予想通りの返答に、聞いておいて勝手にショックを受ける。そんな俺っちに気を遣ったように、るあきちゃんは続けた。
「勿論、麻天狼も応援してるよ! 一二三くんの相手を煽るようなリリックも格好良いし、何より周りを魅了して盛り上げるのが上手だなって思う!」
「ありがと、るあきちゃん」
優しい彼女に笑い掛け、次いで受け取った本の表紙を眺める。彼女の好きなものを読みたいとお願いした手前、断るのも気が引けた。
結局あれから更に数冊おすすめを追加され、俺っちの片手にはずっしりと重量感のある袋がぶら下がっている。
就寝前。袋から一冊手に取り、ベッドに転がって表紙を捲った。
「悔しいけど、確かに面白いかも……」
るあきちゃんの言う通り、夢野幻太郎が書く本は情景描写が綺麗だ。続きが気になり、ページを捲る手が止まらない。気が付くとあっという間に数時間が経過していた。
寝る前の読書がルーティンと化して数日、借りた本を全て読み終えてしまった。
連絡を取って、本を返却する為にるあきちゃんの自宅へ向かう。
彼女と本の内容について語らおうと軽い足取りで歩いていると、角を曲がって来た人とぶつかってしまった。
「おっと、すみません」
「こっちこそ……って、夢野幻太郎じゃん!」
相手を見ると、ぶつかった人物はなんと夢野幻太郎だった。
「あ、そうだ! 小説読んだぜ〜! めちゃ面白いじゃんか!」
本人に感想を伝えると、嬉しそうに口元を笑みの形にした。
「ふふ、どういう風の吹き回しでしょう。嘘は小生の専売特許ですが」
「そーゆーとこ! 人が素直に褒めてんだから、そっちも素直に受け取れよな〜」
作品に触れて彼を見る目が変わったというのに、やはり夢野幻太郎とは合わないかも知れない。
何より、文章でるあきちゃんの心を掴んでいる、謂わばライバルだ。
「まぁ本が面白いのは認めっけど、るあきちゃんの一番は俺っちだし? 次のバトル、絶対負けないかんなー!」
宣戦布告をして、夢野幻太郎と別れる。
るあきちゃんに会ってこの事を話したら「新作にサイン書いて欲しかったな」と言われ、俺っちはますます夢野幻太郎に対するライバル心を燃やしたのだった。
─ END ─
【あとがき】
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2025/08/18
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