麻天狼
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。*゚+──頬が熱いのは夏の所為
八月のとある休日。家でゆっくりしていると、一二三くんから電話が来た。
『もしも〜し! るあきちゃん、いま電話だいじょぶ系?』
「大丈夫だよ。どうしたの?」
『来週、近くで夏祭りあんだけど、良かったら一緒に行かない?』
彼との初めての夏祭りデートである。私は二つ返事でOKした。
『めっちゃ楽しみ! るあきちゃんって浴衣持ってたりすんの? 浴衣姿めちゃくちゃ見たいんだけど!』
電話越しのわくわくした様子の一二三くんに、タンスの肥やしとなっている浴衣の存在を思い出す。
「昔買ったものがあるけど……一人で着るの難しくて、ずっと仕舞ったままなんだよね」
そう返すと、一二三くんは「確かに女の子はむずいよね」と肯定した後、こう提案した。
『んじゃ、俺っちが着付けしたげる! ヘアセットもばっちりやっちゃうし!』
「一二三くん、浴衣の着付けも出来るの?」
なんでも器用にこなす彼だが、まさか女の子への浴衣の着付けも出来るとは。
少々複雑な思いを巡らせていると、一二三くんは笑いながら言った。
『実際にやった事は無いけどね〜。昔、男女で浴衣の着方違うんだ〜って知ってから、なんとなく覚えたんだよね。ついに披露する時が来たぜ!』
「ふふ。じゃあお言葉に甘えて。宜しくね」
『ひふみんに任せといて! そうだ、後で浴衣の写真送ってくんない? 折角だから、るあきちゃんのと合わせて俺っちも浴衣新調しちゃおうかな〜』
一二三くんも浴衣を着てくれると知り、更に夏祭りが楽しみになる。
「うん、後で送っておくね。一二三くんの浴衣姿、楽しみにしてる」
そして通話を終え、私は仕舞いっぱなしになっていた浴衣を掘り起こした。
写真に収めて一二三くんに送ると、すぐに既読が付いて返信が来る。
『ありがと!』
『めっちゃ可愛い柄だね!!』
その後、うずうずわくわくと待ち切れない様子が伝わって来るスタンプが数個続いた。
私も彼の浴衣姿を心待ちにしている。絶対に似合うだろうな……そんな一二三くんの隣を歩くなんて、私で大丈夫かな……。
そしてぐるぐると悩んでいるうちに、あっという間にお祭り当日になった。
メイクを済ませた昼過ぎ。玄関のチャイムが鳴った。きっと一二三くんである。
「一二三くん、今日は宜しく……」
扉を開いて見上げると、そこには浴衣に身を包んだ一二三くんが立っていた。
グレーを基調とした浴衣に、下駄や帯などの小物には、私の浴衣と同系色の差し色が入っている。
普段は耳に掛けているサイドも器用に編み込まれており、更に印象が変わる。
無言で彼を見詰めていると、一二三くんは照れたように短く笑った。
「るあきちゃん、見惚れ過ぎじゃね? 嬉しいけど」
「そりゃあ格好良いもん、見惚れるよ……」
そう返すと、彼はひまわりが咲いたようにパッと笑った。
「俺っちも早く見たいから、早速着付け始めちゃおっか」
私は改めて「宜しくお願いします」と頭を下げる。
浴衣はとにかく腹部が窮屈だ。一二三くんは丁寧に浴衣を整えながらテキパキと進め、苦しくないかと都度尋ねてくれる。
何本もの紐で腰をぐるぐると巻かれ、仕上げに帯で更にぐるぐると圧迫された。
「ほい、着付け終了! めちゃくちゃ可愛い!」
「ありがとう、一二三くん」
「次はヘアセットだね〜。座って座って」
椅子に座ると、一二三くんは後ろに回って私の髪をさらさらと指で梳く。
長くて綺麗な指でサイドを器用に編み込んで行き、彼とお揃いになった。
そして大人っぽくアップスタイルにまとめられ完成と思いきや、晒されたうなじに口付けを落とされる。
油断していた私は小さく声を漏らした。
「はは、ごめんごめん。くすぐったかった?」
悪戯っ子のように笑いながら、一二三くんは振り返った私の頬を指先で撫でる。
「……ちょっと驚いただけ。もう完成だよね? ありがとう、一二三くん」
恥ずかしくて彼の目を見れず、視線を外したままそう返すと、一二三くんはまた小さく笑った。
「最後の仕上げ。これは、俺っちからのプレゼント」
そう言って彼が手渡して来た物は、長方形の小さな箱だった。
それを受け取って一二三くんの顔を見ると、優しく微笑まれ「開けてみて」と促される。
包装紙を剥 いで出て来た箱を開けると、そこには華やかな装飾が目を引くかんざしが収まっていた。
「可愛い……」
手に取ってみると、光を反射させて一層華やかさが増す。
窓から射す陽の光に当ててかんざしを眺めていると、一二三くんがそっと手を絡めて来た。
彼の体温に胸を高鳴らせていると、かんざしがすっと抜き取られる。そのまま流れるような仕草で、一二三くんは私の髪にかんざしを挿した。
「うん、すごく似合ってる」
一二三くんは、眩しそうな顔で私を見詰める。
「……見惚れ過ぎだよ」
「るあきちゃん、可愛い。ふふ、誰にも見せたくないかも。……俺っちって、こんなに独占欲強かったっけ」
困ったように笑う彼と、きゅっと両手を繋いだ。
「もう、一二三くんが夏祭り誘ってくれて嬉しかったんだから。ずっと楽しみにしてたんだよ」
「それは俺っちも同じだし! でも、るあきちゃんまじで可愛いから心配なんだけど」
繋いだ手に力を込められた。
眉を下げたままの彼に、私は笑い掛ける。
「もし何かあっても、一二三くんなら私を守って助けてくれるでしょ?」
そう返すと、一二三くんはかんざしにそっと触れて柔らかく笑った。
─ END ─
【あとがき】
かんざしを贈るのには「貴方を守ります」という意味があるらしいです。良いね。
2025/08/10
八月のとある休日。家でゆっくりしていると、一二三くんから電話が来た。
『もしも〜し! るあきちゃん、いま電話だいじょぶ系?』
「大丈夫だよ。どうしたの?」
『来週、近くで夏祭りあんだけど、良かったら一緒に行かない?』
彼との初めての夏祭りデートである。私は二つ返事でOKした。
『めっちゃ楽しみ! るあきちゃんって浴衣持ってたりすんの? 浴衣姿めちゃくちゃ見たいんだけど!』
電話越しのわくわくした様子の一二三くんに、タンスの肥やしとなっている浴衣の存在を思い出す。
「昔買ったものがあるけど……一人で着るの難しくて、ずっと仕舞ったままなんだよね」
そう返すと、一二三くんは「確かに女の子はむずいよね」と肯定した後、こう提案した。
『んじゃ、俺っちが着付けしたげる! ヘアセットもばっちりやっちゃうし!』
「一二三くん、浴衣の着付けも出来るの?」
なんでも器用にこなす彼だが、まさか女の子への浴衣の着付けも出来るとは。
少々複雑な思いを巡らせていると、一二三くんは笑いながら言った。
『実際にやった事は無いけどね〜。昔、男女で浴衣の着方違うんだ〜って知ってから、なんとなく覚えたんだよね。ついに披露する時が来たぜ!』
「ふふ。じゃあお言葉に甘えて。宜しくね」
『ひふみんに任せといて! そうだ、後で浴衣の写真送ってくんない? 折角だから、るあきちゃんのと合わせて俺っちも浴衣新調しちゃおうかな〜』
一二三くんも浴衣を着てくれると知り、更に夏祭りが楽しみになる。
「うん、後で送っておくね。一二三くんの浴衣姿、楽しみにしてる」
そして通話を終え、私は仕舞いっぱなしになっていた浴衣を掘り起こした。
写真に収めて一二三くんに送ると、すぐに既読が付いて返信が来る。
『ありがと!』
『めっちゃ可愛い柄だね!!』
その後、うずうずわくわくと待ち切れない様子が伝わって来るスタンプが数個続いた。
私も彼の浴衣姿を心待ちにしている。絶対に似合うだろうな……そんな一二三くんの隣を歩くなんて、私で大丈夫かな……。
そしてぐるぐると悩んでいるうちに、あっという間にお祭り当日になった。
メイクを済ませた昼過ぎ。玄関のチャイムが鳴った。きっと一二三くんである。
「一二三くん、今日は宜しく……」
扉を開いて見上げると、そこには浴衣に身を包んだ一二三くんが立っていた。
グレーを基調とした浴衣に、下駄や帯などの小物には、私の浴衣と同系色の差し色が入っている。
普段は耳に掛けているサイドも器用に編み込まれており、更に印象が変わる。
無言で彼を見詰めていると、一二三くんは照れたように短く笑った。
「るあきちゃん、見惚れ過ぎじゃね? 嬉しいけど」
「そりゃあ格好良いもん、見惚れるよ……」
そう返すと、彼はひまわりが咲いたようにパッと笑った。
「俺っちも早く見たいから、早速着付け始めちゃおっか」
私は改めて「宜しくお願いします」と頭を下げる。
浴衣はとにかく腹部が窮屈だ。一二三くんは丁寧に浴衣を整えながらテキパキと進め、苦しくないかと都度尋ねてくれる。
何本もの紐で腰をぐるぐると巻かれ、仕上げに帯で更にぐるぐると圧迫された。
「ほい、着付け終了! めちゃくちゃ可愛い!」
「ありがとう、一二三くん」
「次はヘアセットだね〜。座って座って」
椅子に座ると、一二三くんは後ろに回って私の髪をさらさらと指で梳く。
長くて綺麗な指でサイドを器用に編み込んで行き、彼とお揃いになった。
そして大人っぽくアップスタイルにまとめられ完成と思いきや、晒されたうなじに口付けを落とされる。
油断していた私は小さく声を漏らした。
「はは、ごめんごめん。くすぐったかった?」
悪戯っ子のように笑いながら、一二三くんは振り返った私の頬を指先で撫でる。
「……ちょっと驚いただけ。もう完成だよね? ありがとう、一二三くん」
恥ずかしくて彼の目を見れず、視線を外したままそう返すと、一二三くんはまた小さく笑った。
「最後の仕上げ。これは、俺っちからのプレゼント」
そう言って彼が手渡して来た物は、長方形の小さな箱だった。
それを受け取って一二三くんの顔を見ると、優しく微笑まれ「開けてみて」と促される。
包装紙を
「可愛い……」
手に取ってみると、光を反射させて一層華やかさが増す。
窓から射す陽の光に当ててかんざしを眺めていると、一二三くんがそっと手を絡めて来た。
彼の体温に胸を高鳴らせていると、かんざしがすっと抜き取られる。そのまま流れるような仕草で、一二三くんは私の髪にかんざしを挿した。
「うん、すごく似合ってる」
一二三くんは、眩しそうな顔で私を見詰める。
「……見惚れ過ぎだよ」
「るあきちゃん、可愛い。ふふ、誰にも見せたくないかも。……俺っちって、こんなに独占欲強かったっけ」
困ったように笑う彼と、きゅっと両手を繋いだ。
「もう、一二三くんが夏祭り誘ってくれて嬉しかったんだから。ずっと楽しみにしてたんだよ」
「それは俺っちも同じだし! でも、るあきちゃんまじで可愛いから心配なんだけど」
繋いだ手に力を込められた。
眉を下げたままの彼に、私は笑い掛ける。
「もし何かあっても、一二三くんなら私を守って助けてくれるでしょ?」
そう返すと、一二三くんはかんざしにそっと触れて柔らかく笑った。
─ END ─
【あとがき】
かんざしを贈るのには「貴方を守ります」という意味があるらしいです。良いね。
2025/08/10
