Fling Posse
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。*゚+──Hardenbergia Violacea
ある日の昼下がり。
小生はシミひとつ無い真っ新 な原稿用紙を溜息混じりに見詰めながら、とうに冷め切ったコーヒーを啜った。
人間観察でもしながら筆を握れば、アイデアが降りていくらか原稿が進むのだが、今日は頗 る調子が悪いらしい。
いつ進むか分からない筆を握り席を占領し続けるのも悪いと思い、そろそろお暇 しようとカップを傾けた時、カランとベルを鳴らしながら開いた扉から女性が姿を現した。
おや。
見覚えのある方だと思えば、黒椿るあき氏ではないだろうか。この小生が見間違える筈が無い。
声を掛けようか迷ったが、友人と来ているようなので水を差すのも憚 られた。
半分以上カップを満たしているコーヒーをゆっくりと味わいながら、近くの席に腰を落ち着けた彼女達の会話に耳を傾ける。
他愛の無い話が続き、こちらの筆が進むような収穫は特に得られなそうだ。
盗み聞きしておいて溜息を漏らす資格は無いだろうが、担当編集者に尻を叩かれていた状況である。一刻も早く物語を形にしないといけないのだ。
とは言え、進まないものは致し方無い。残りわずかとなったカップ内の液体を飲み干し、座席から腰を浮かせた時、るあきの口から聞き覚えの無い男性名が聞こえた。
おかしいですねぇ。小生が居ながら、もしや不貞を働いている?
彼女の横顔を見詰めるも、小生に気付く様子は無い。
「ふむ……」
今度お見掛けした時にでも、るあきを問い質してみるとしましょうか。
彼女達の真横を通り、小生は喫茶店を後にした。
そして翌日。
今の時間帯なら、きっとこの辺りでるあきに会える筈だと踏んで、散歩のついでに道の角を曲がる。
ちなみに原稿は未だ進んでいない。
愛するるあきが、他の男に現 を抜かしているかも知れないのだ。筆が進まずとも、なんら不思議は無いだろう。
角を曲がって真っ直ぐ進んでいると、案の定向かいからるあきが歩いて来た。
「るあき」
小生が名前を呼ぶと、彼女は驚いた表情を浮かべて立ち止まる。やがてこちらの顔を確認すると、目を上下左右に忙しなく動かした。
やけに落ち着きが無い。やはり身に覚えがあるから、小生を前にして焦燥感を露わにしているのだろう。
「幻太郎さん? ですよね」
「ええ。昨日、喫茶店で名前を口にしていた男。一体どなたですか?」
るあきを怖がらせるつもりは毛頭無い。あくまでも優しく、小生は彼女に問うた。
「昨日……え? 男の名前……多分、先輩? かな……」
「そうでしたか。恋仲などでは無く、ただの先輩。これはこれは、疑ってしまい申し訳ありません」
頭を下げ、愛しいるあきに疑いの目を向けてしまった非礼を詫びる。
しかし、小生が顔を上げて捉えたるあきの表情は、尚も強張ったままだった。
「あの……どうして私の名前知ってるんですか……」
─ END ─
【あとがき】
ハーデンベルギアの花言葉は「運命的な出会い」
人間観察をしている時、街中を歩く貴女に一目惚れでもしたんでしょうかねぇ。
2025/06/08
ある日の昼下がり。
小生はシミひとつ無い真っ
人間観察でもしながら筆を握れば、アイデアが降りていくらか原稿が進むのだが、今日は
いつ進むか分からない筆を握り席を占領し続けるのも悪いと思い、そろそろお
おや。
見覚えのある方だと思えば、黒椿るあき氏ではないだろうか。この小生が見間違える筈が無い。
声を掛けようか迷ったが、友人と来ているようなので水を差すのも
半分以上カップを満たしているコーヒーをゆっくりと味わいながら、近くの席に腰を落ち着けた彼女達の会話に耳を傾ける。
他愛の無い話が続き、こちらの筆が進むような収穫は特に得られなそうだ。
盗み聞きしておいて溜息を漏らす資格は無いだろうが、担当編集者に尻を叩かれていた状況である。一刻も早く物語を形にしないといけないのだ。
とは言え、進まないものは致し方無い。残りわずかとなったカップ内の液体を飲み干し、座席から腰を浮かせた時、るあきの口から聞き覚えの無い男性名が聞こえた。
おかしいですねぇ。小生が居ながら、もしや不貞を働いている?
彼女の横顔を見詰めるも、小生に気付く様子は無い。
「ふむ……」
今度お見掛けした時にでも、るあきを問い質してみるとしましょうか。
彼女達の真横を通り、小生は喫茶店を後にした。
そして翌日。
今の時間帯なら、きっとこの辺りでるあきに会える筈だと踏んで、散歩のついでに道の角を曲がる。
ちなみに原稿は未だ進んでいない。
愛するるあきが、他の男に
角を曲がって真っ直ぐ進んでいると、案の定向かいからるあきが歩いて来た。
「るあき」
小生が名前を呼ぶと、彼女は驚いた表情を浮かべて立ち止まる。やがてこちらの顔を確認すると、目を上下左右に忙しなく動かした。
やけに落ち着きが無い。やはり身に覚えがあるから、小生を前にして焦燥感を露わにしているのだろう。
「幻太郎さん? ですよね」
「ええ。昨日、喫茶店で名前を口にしていた男。一体どなたですか?」
るあきを怖がらせるつもりは毛頭無い。あくまでも優しく、小生は彼女に問うた。
「昨日……え? 男の名前……多分、先輩? かな……」
「そうでしたか。恋仲などでは無く、ただの先輩。これはこれは、疑ってしまい申し訳ありません」
頭を下げ、愛しいるあきに疑いの目を向けてしまった非礼を詫びる。
しかし、小生が顔を上げて捉えたるあきの表情は、尚も強張ったままだった。
「あの……どうして私の名前知ってるんですか……」
─ END ─
【あとがき】
ハーデンベルギアの花言葉は「運命的な出会い」
人間観察をしている時、街中を歩く貴女に一目惚れでもしたんでしょうかねぇ。
2025/06/08
