Bad Ass Temple
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。*゚+──恋路を辿れば空に落ちる
今日は大好きなバンドの曲を流しながら、部屋でゆっくり過ごそう。
そう思い立ってCDを仕舞っている棚を覗くも、お目当ての物は見当たらなかった。
「そうだ。この前、空却さんに貸したんだった」
割と前の事だし、空却さんも忘れているかも知れない。貸したCDを回収する為に、自分は空厳寺さんを訪れる事にした。
「空却さーん」
名前を呼びながら境内に入ると、前方に先客が見えた。
「空却! そろそろ貸した漫画返してよ! 新刊の発売日が近いから読み返したいんだけど!」
そう叫ぶ女性の声には聞き覚えがある。空却さんの昔馴染みの友人である、黒椿るあきさんだ。
るあきさんも、貸した物の回収に赴いて来たらしい。
「こんにちは、るあきさん」
そう声を掛けると、彼女は振り向いて笑顔を見せた。
「十四くん! 十四くんも空却に何か用事?」
「はいっす。貸したアルバムを返してもらいに……」
「そうだったんだ。さっきから呼んでるけど、全然顔を見せないんだよね」
寝てるのかな、るあきさんはそう呟きながら、慣れた様子でお寺に足を踏み入れる。
「お、お邪魔するっす……!」
自分もその後に続いた。
「空却、十四くんや獄さんに迷惑掛けてない? あいつ昔から本当に強引で自分勝手でさ」
「はは……。確かに振り回される事もあるっすけど、自分はすごくお世話になってるっす」
苦笑混じりにそう返すと、るあきさんは柔らかく笑った。
「お世話にか。そこも昔から変わらないんだよね」
「るあきさん……」
彼女の物憂げな横顔を見て、自分はずっと感じていた疑問を口にする。
「るあきさんって、空却さんの事が好きなんすか……?」
「えぇ? なんでそうなるの? 空却はただの友達だよ。幼馴染み。それ以上でも以下でもないの!」
顔を赤くしながら早口で返されてしまった。そこまで言われると、自分は何も言えない。
謝ろうと口を開いた時、るあきさんはこちらの目をじっと見詰めて来た。
「早口でまくし立てちゃってごめん。……十四くん、えっと、誰にも言わないって約束出来る?」
こくこくと頷き返すと、るあきさんは静かに話し始めた。
「うちは代々空厳寺さんと付き合いがあってね。家も近いから、小さい頃は毎日のように空却と遊んでたの。ある日、いつもみたいに山で虫採りとか、木登りとかして遊んでたらね、私思いっ切り転んじゃって。小石で膝を切ったみたいで、痛くて涙も血も止まらなくて。その時、空却がすごく心配してくれてね。私が持ってたハンカチでさっと応急処置もしてくれて。更には私をおんぶして山を下りてくれたの。当時は私の方が背が大きかったのに、軽々背負われてびっくりしちゃって。途中でいつもと違う道に入ってって、何処に行くんだろってぼーっとしてたら、急に空却が足を止めたの。そして「ほら」って言われて顔を上げたらね、一面綺麗なひまわり畑。思わず魅入ってたら、「元気出たか」って言われて。嬉しくて、ありがとうって返した時の空却の笑顔がすごく優しくて。……そこからずっと片想いだよ」
語り終えたるあきさんは、照れ隠しのように小さく笑った。
「告白はしないんすか?」
「出来る訳無いよ。友達の今が一番居心地が良いの。フラれたら友達で居れなくなっちゃう。空却はきっと今まで通りで居てくれるだろうけど、私がつらいから」
だからしない。
るあきさんは、遠くを眺めながら強く言った。
「はい、この話はこれで終わり。十四くんこそ、好きな人とか居ないの? 私ばっかり話して恥ずかしいんだけど」
「自分っすか? ……自分はやっぱり、空却さんと獄さんとアマンダっすかねぇ。あ、もちろんるあきさんも大好きっすよ!」
「そういう意味じゃないけど、まぁ良いや……。あ、空却!」
るあきさんの視線の先には、空却さんが立っていた。寝起きなのか、何処か機嫌が悪そうである。
「はっ、お前等が一緒なんざ珍しいな。拙僧はお邪魔だったかよ?」
空却さんは、半ば自棄 気味に短く笑って言った。
あわわ……なんだか別の理由で機嫌が悪いみたいっすね……。
恐らく自分とるあきさんの関係を誤解している空却さんに、これはチャンスとばかりに発破を掛けてみようと試みる。
二人の為、我がひと肌脱いで愛の神 になろうぞ!
「マスター。悠長にしていると、この我が愛しい天使を連れ去っても良いのだぞ」
空却さんの目の前に立ち、そう言い放ってみる。すると、見た事が無いくらい怖い顔で睨まれてしまった。
空却さんは何も言わず、そのまま廊下を歩いて行く。
「ちょっと空却、用があって来たんだけど!」
るあきさんは、空却さんを追って行ってしまった。
勝手に部屋へ入る訳にも行かず、自分は本来の目的を果たせぬまま帰宅する事となった。
それから数日後。
あの時と同じように、空厳寺さんを訪れ空却さんの名前を呼ぼうとした時、何処からか楽しそうな声が聞こえて来た。
その声を頼りに歩を進めると、空却さんとるあきさんを見付けた。
漫画を読むるあきさんに、空却さんが後ろから包むようにくっ付いている。彼女の肩に顎を乗せ、どうやら一緒に漫画を楽しんでいるようだった。
「るあき」
「んー、何? 空却」
空却さんが彼女の名前を呼び、そのまま唇同士を合わせたかと思うと、こちらの存在に気付いていないのか口付けはどんどん深くなって行く。
呆然としている間に二人の唇が離れ、ばっちりと空却さんと目が合った。
牽制、あるいは挑発するかのように、舌を出して意地の悪い顔で笑う空却さん。
……この誤解は解いた方が良いんすかね?
恋のキューピッドも大変っす。
二人の邪魔をするのも悪いと思い、自分はまた目的を達成出来ずに回れ右をする事になったのだった。
─ END ─
【あとがき】
タイトルは「腹を空かせた夢喰い」様よりお借りしました。
俺には好きなもんが二つある。幼馴染み夢と、両片想い夢だ。
2025/06/04
今日は大好きなバンドの曲を流しながら、部屋でゆっくり過ごそう。
そう思い立ってCDを仕舞っている棚を覗くも、お目当ての物は見当たらなかった。
「そうだ。この前、空却さんに貸したんだった」
割と前の事だし、空却さんも忘れているかも知れない。貸したCDを回収する為に、自分は空厳寺さんを訪れる事にした。
「空却さーん」
名前を呼びながら境内に入ると、前方に先客が見えた。
「空却! そろそろ貸した漫画返してよ! 新刊の発売日が近いから読み返したいんだけど!」
そう叫ぶ女性の声には聞き覚えがある。空却さんの昔馴染みの友人である、黒椿るあきさんだ。
るあきさんも、貸した物の回収に赴いて来たらしい。
「こんにちは、るあきさん」
そう声を掛けると、彼女は振り向いて笑顔を見せた。
「十四くん! 十四くんも空却に何か用事?」
「はいっす。貸したアルバムを返してもらいに……」
「そうだったんだ。さっきから呼んでるけど、全然顔を見せないんだよね」
寝てるのかな、るあきさんはそう呟きながら、慣れた様子でお寺に足を踏み入れる。
「お、お邪魔するっす……!」
自分もその後に続いた。
「空却、十四くんや獄さんに迷惑掛けてない? あいつ昔から本当に強引で自分勝手でさ」
「はは……。確かに振り回される事もあるっすけど、自分はすごくお世話になってるっす」
苦笑混じりにそう返すと、るあきさんは柔らかく笑った。
「お世話にか。そこも昔から変わらないんだよね」
「るあきさん……」
彼女の物憂げな横顔を見て、自分はずっと感じていた疑問を口にする。
「るあきさんって、空却さんの事が好きなんすか……?」
「えぇ? なんでそうなるの? 空却はただの友達だよ。幼馴染み。それ以上でも以下でもないの!」
顔を赤くしながら早口で返されてしまった。そこまで言われると、自分は何も言えない。
謝ろうと口を開いた時、るあきさんはこちらの目をじっと見詰めて来た。
「早口でまくし立てちゃってごめん。……十四くん、えっと、誰にも言わないって約束出来る?」
こくこくと頷き返すと、るあきさんは静かに話し始めた。
「うちは代々空厳寺さんと付き合いがあってね。家も近いから、小さい頃は毎日のように空却と遊んでたの。ある日、いつもみたいに山で虫採りとか、木登りとかして遊んでたらね、私思いっ切り転んじゃって。小石で膝を切ったみたいで、痛くて涙も血も止まらなくて。その時、空却がすごく心配してくれてね。私が持ってたハンカチでさっと応急処置もしてくれて。更には私をおんぶして山を下りてくれたの。当時は私の方が背が大きかったのに、軽々背負われてびっくりしちゃって。途中でいつもと違う道に入ってって、何処に行くんだろってぼーっとしてたら、急に空却が足を止めたの。そして「ほら」って言われて顔を上げたらね、一面綺麗なひまわり畑。思わず魅入ってたら、「元気出たか」って言われて。嬉しくて、ありがとうって返した時の空却の笑顔がすごく優しくて。……そこからずっと片想いだよ」
語り終えたるあきさんは、照れ隠しのように小さく笑った。
「告白はしないんすか?」
「出来る訳無いよ。友達の今が一番居心地が良いの。フラれたら友達で居れなくなっちゃう。空却はきっと今まで通りで居てくれるだろうけど、私がつらいから」
だからしない。
るあきさんは、遠くを眺めながら強く言った。
「はい、この話はこれで終わり。十四くんこそ、好きな人とか居ないの? 私ばっかり話して恥ずかしいんだけど」
「自分っすか? ……自分はやっぱり、空却さんと獄さんとアマンダっすかねぇ。あ、もちろんるあきさんも大好きっすよ!」
「そういう意味じゃないけど、まぁ良いや……。あ、空却!」
るあきさんの視線の先には、空却さんが立っていた。寝起きなのか、何処か機嫌が悪そうである。
「はっ、お前等が一緒なんざ珍しいな。拙僧はお邪魔だったかよ?」
空却さんは、半ば
あわわ……なんだか別の理由で機嫌が悪いみたいっすね……。
恐らく自分とるあきさんの関係を誤解している空却さんに、これはチャンスとばかりに発破を掛けてみようと試みる。
二人の為、我がひと肌脱いで
「マスター。悠長にしていると、この我が愛しい天使を連れ去っても良いのだぞ」
空却さんの目の前に立ち、そう言い放ってみる。すると、見た事が無いくらい怖い顔で睨まれてしまった。
空却さんは何も言わず、そのまま廊下を歩いて行く。
「ちょっと空却、用があって来たんだけど!」
るあきさんは、空却さんを追って行ってしまった。
勝手に部屋へ入る訳にも行かず、自分は本来の目的を果たせぬまま帰宅する事となった。
それから数日後。
あの時と同じように、空厳寺さんを訪れ空却さんの名前を呼ぼうとした時、何処からか楽しそうな声が聞こえて来た。
その声を頼りに歩を進めると、空却さんとるあきさんを見付けた。
漫画を読むるあきさんに、空却さんが後ろから包むようにくっ付いている。彼女の肩に顎を乗せ、どうやら一緒に漫画を楽しんでいるようだった。
「るあき」
「んー、何? 空却」
空却さんが彼女の名前を呼び、そのまま唇同士を合わせたかと思うと、こちらの存在に気付いていないのか口付けはどんどん深くなって行く。
呆然としている間に二人の唇が離れ、ばっちりと空却さんと目が合った。
牽制、あるいは挑発するかのように、舌を出して意地の悪い顔で笑う空却さん。
……この誤解は解いた方が良いんすかね?
恋のキューピッドも大変っす。
二人の邪魔をするのも悪いと思い、自分はまた目的を達成出来ずに回れ右をする事になったのだった。
─ END ─
【あとがき】
タイトルは「腹を空かせた夢喰い」様よりお借りしました。
俺には好きなもんが二つある。幼馴染み夢と、両片想い夢だ。
2025/06/04
