麻天狼
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。*゚+──独歩の恋人がヨコハマ推しだった件
「お邪魔します」
「どうぞ、狭い部屋だけど」
初めて訪れた彼女の家。
可愛らしい家具で揃えているんだろうか、カーテンはピンク色なんだろうか、そんな願望とも言える想像を浮かべながら部屋に入ると、俺の目の前にはイメージとは真逆の光景が広がっていた。
「どうしたの、独歩くん」
「いや……想像より随分とクールな感じの部屋で驚いてた……」
そう、るあきの部屋は青色を基調とした大人っぽいものだったのだ。
「そうかな? 確かに、MTCイメージで色々揃えたからそうかも」
「MTC!? MTCって……」
俺が知るMTCなんてひとつしか無い。
「ヨコハマ代表、MAD TRIGGER CREWだよ」
「ですよね!?」
格好良くハンドサインを決めながら答えるるあき。もしかしてるあきはヨコハマのファンだったのか……? 俺がそう聞く前に、彼女は嬉しそうに話し出す。
「私、実はハマ女なんだよね。あのアウトローな雰囲気が格好良くて。独歩くんには、非常に申し訳無い限りなんだけど」
そう言いるあきは苦笑した。確かに、麻天狼には無い魅力だろう。
「ちなみに毒島メイソン理鶯推し」
そして聞いてもいないのに最推しを教えられる。しかも毒島さんかぁ……。
「あのミステリアスな感じが良いんだよね。あ、適当に座って。飲み物持って来るね」
「あ、あぁ、ありがとう……」
お言葉に甘え、俺は適当に腰をおろす。棚に綺麗に並べられたMAD TRIGGER CREWのぬいぐるみ達が視界に入った。
何度も会った事がある俺からすると、毒島さんの印象は俺みたいな奴にも優しく、年齢はひとつ下だが俺なんかよりも余程良く出来た人だと思う。
……駄目だ、勝てる要素がひとつも無い。
「独歩くんて、りおぴと仲良いの?」
「りおぴ!?」
ペットボトルのお茶を注いだコップを二つテーブルに置きながら、るあきが聞いて来る。
俺の事は下の名前にくん付けで呼んでいるのに、毒島さんの事はそんな愛称で呼んでいるのか!?
大人気 無いと言われようが、流石にこれは嫉妬してしまっても仕方無いだろう。
「まぁ、毒島さんはバトル以外の時でも、会ったら話し掛けてくれるし……。仲が良い……のか? 仲が良いと思っているのは俺だけかも知れない……」
「え、意外! りおぴってチームメイト以外とは話さないと思ってた!」
推しの新たな一面を知れて嬉しいのか、るあきは目を輝かせる。
「毒島さんは、結構面倒見が良いタイプなんだ。同じチームじゃないけど、色々助けてくれる事もあって……」
「わぁ、ますます好きになりそう。りおぴしか勝たん」
しまった。ライバルと言える存在の彼をプレゼンする形になってしまった。
俺は思わず視界に入る毒島さんのぬいぐるみを、眉間に皺を寄せて見詰めてしまう。
「独歩くん、もしかして嫉妬してる? りおぴぬい、すごい顔で睨んでるけど」
るあきが笑いながら言った。俺にとっては全く笑い事では無いのだが、お茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「毒島さんは優しいし、俺から見ても格好良い人だけど……それでも、るあきの彼氏は俺な訳で……」
自分でも嫉妬深くて格好悪いと思う。これではいつか彼女に愛想を尽かされても文句は言えない。
自己嫌悪に陥り深い溜息をつくと、るあきはまたしても笑いながら言った。
「もちろん、私の恋人は独歩くんだよ。りおぴはあくまでも推し、応援したい人的な? うーん、でも独歩くんも応援したい人だよ? ちょっと説明難しいね」
俺が面倒な男なばっかりに、るあきを困らせてしまっている。そう思うと再び溜息が漏れてしまった。
「そんな独歩くんに朗報……かは分からないけど、寝室は独歩くんのグッズで溢れています」
「え、俺のグッズも買ってくれてるのか」
そう呟くと、彼女は小走りで寝室と思しき部屋に入って行く。すぐに何かを抱えたるあきが戻って来た。
「これが一番お気に入りの独歩くんのぬいぐるみ。抱き心地が丁度良くて、毎日抱っこして寝てるんだよ」
「実際の俺も抱き心地良いが?」
「自分のぬいぐるみにもヤキモチやいてる」
間髪を入れずにそう返した俺の頭を、るあきはあやすように撫でる。そして、ぬいぐるみを置いて俺の事をぎゅっと抱き締めた。
「本当だ。今までに無い最高の抱き心地」
不意打ちを喰らって変な笑い声が出てしまったのは、御愛嬌という事で流して欲しい。
「今度のラップバトル、シンジュクとヨコハマどっち応援するか迷うなぁ」
「そこは迷わないでくれよ……」
俺は再び、目の前にふてぶてしく鎮座するMTCのぬいぐるみ達を睨んでしまった。
それから時間が経ち、ディビジョンラップバトル当日。相手はヨコハマ代表のMAD TRIGGER CREWだ。
不敵な笑みを浮かべて立つヨコハマの面々を、あの時と同じように睨み付ける。
「俺は絶対にヨコハマ相手に負ける訳には行かないんだ……!」
私怨百パーセントの俺を見て、毒島さんは腕を組んで頷いた。
「貴殿に敬意を払い、小官も全力で戦おう」
こういう余裕のある落ち着いた所が、毒島さんの人気の所以 なのだろう。
るあきは今どちらを応援しているだろうか。
余裕とは縁遠い俺は、奥歯を噛み締めながらマイクを起動させたのだった。
─ END ─
【あとがき】
こちらもどうぞ。
▶二郎の恋人がオオサカ推しだった件
▶理鶯の恋人がシブヤ推しだった件
▶寂雷の恋人がヨコハマ推しだった件
▶一二三の恋人がシブヤ推しだった件
▶十四の恋人がシンジュク推しだった件
2025/04/29
「お邪魔します」
「どうぞ、狭い部屋だけど」
初めて訪れた彼女の家。
可愛らしい家具で揃えているんだろうか、カーテンはピンク色なんだろうか、そんな願望とも言える想像を浮かべながら部屋に入ると、俺の目の前にはイメージとは真逆の光景が広がっていた。
「どうしたの、独歩くん」
「いや……想像より随分とクールな感じの部屋で驚いてた……」
そう、るあきの部屋は青色を基調とした大人っぽいものだったのだ。
「そうかな? 確かに、MTCイメージで色々揃えたからそうかも」
「MTC!? MTCって……」
俺が知るMTCなんてひとつしか無い。
「ヨコハマ代表、MAD TRIGGER CREWだよ」
「ですよね!?」
格好良くハンドサインを決めながら答えるるあき。もしかしてるあきはヨコハマのファンだったのか……? 俺がそう聞く前に、彼女は嬉しそうに話し出す。
「私、実はハマ女なんだよね。あのアウトローな雰囲気が格好良くて。独歩くんには、非常に申し訳無い限りなんだけど」
そう言いるあきは苦笑した。確かに、麻天狼には無い魅力だろう。
「ちなみに毒島メイソン理鶯推し」
そして聞いてもいないのに最推しを教えられる。しかも毒島さんかぁ……。
「あのミステリアスな感じが良いんだよね。あ、適当に座って。飲み物持って来るね」
「あ、あぁ、ありがとう……」
お言葉に甘え、俺は適当に腰をおろす。棚に綺麗に並べられたMAD TRIGGER CREWのぬいぐるみ達が視界に入った。
何度も会った事がある俺からすると、毒島さんの印象は俺みたいな奴にも優しく、年齢はひとつ下だが俺なんかよりも余程良く出来た人だと思う。
……駄目だ、勝てる要素がひとつも無い。
「独歩くんて、りおぴと仲良いの?」
「りおぴ!?」
ペットボトルのお茶を注いだコップを二つテーブルに置きながら、るあきが聞いて来る。
俺の事は下の名前にくん付けで呼んでいるのに、毒島さんの事はそんな愛称で呼んでいるのか!?
「まぁ、毒島さんはバトル以外の時でも、会ったら話し掛けてくれるし……。仲が良い……のか? 仲が良いと思っているのは俺だけかも知れない……」
「え、意外! りおぴってチームメイト以外とは話さないと思ってた!」
推しの新たな一面を知れて嬉しいのか、るあきは目を輝かせる。
「毒島さんは、結構面倒見が良いタイプなんだ。同じチームじゃないけど、色々助けてくれる事もあって……」
「わぁ、ますます好きになりそう。りおぴしか勝たん」
しまった。ライバルと言える存在の彼をプレゼンする形になってしまった。
俺は思わず視界に入る毒島さんのぬいぐるみを、眉間に皺を寄せて見詰めてしまう。
「独歩くん、もしかして嫉妬してる? りおぴぬい、すごい顔で睨んでるけど」
るあきが笑いながら言った。俺にとっては全く笑い事では無いのだが、お茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「毒島さんは優しいし、俺から見ても格好良い人だけど……それでも、るあきの彼氏は俺な訳で……」
自分でも嫉妬深くて格好悪いと思う。これではいつか彼女に愛想を尽かされても文句は言えない。
自己嫌悪に陥り深い溜息をつくと、るあきはまたしても笑いながら言った。
「もちろん、私の恋人は独歩くんだよ。りおぴはあくまでも推し、応援したい人的な? うーん、でも独歩くんも応援したい人だよ? ちょっと説明難しいね」
俺が面倒な男なばっかりに、るあきを困らせてしまっている。そう思うと再び溜息が漏れてしまった。
「そんな独歩くんに朗報……かは分からないけど、寝室は独歩くんのグッズで溢れています」
「え、俺のグッズも買ってくれてるのか」
そう呟くと、彼女は小走りで寝室と思しき部屋に入って行く。すぐに何かを抱えたるあきが戻って来た。
「これが一番お気に入りの独歩くんのぬいぐるみ。抱き心地が丁度良くて、毎日抱っこして寝てるんだよ」
「実際の俺も抱き心地良いが?」
「自分のぬいぐるみにもヤキモチやいてる」
間髪を入れずにそう返した俺の頭を、るあきはあやすように撫でる。そして、ぬいぐるみを置いて俺の事をぎゅっと抱き締めた。
「本当だ。今までに無い最高の抱き心地」
不意打ちを喰らって変な笑い声が出てしまったのは、御愛嬌という事で流して欲しい。
「今度のラップバトル、シンジュクとヨコハマどっち応援するか迷うなぁ」
「そこは迷わないでくれよ……」
俺は再び、目の前にふてぶてしく鎮座するMTCのぬいぐるみ達を睨んでしまった。
それから時間が経ち、ディビジョンラップバトル当日。相手はヨコハマ代表のMAD TRIGGER CREWだ。
不敵な笑みを浮かべて立つヨコハマの面々を、あの時と同じように睨み付ける。
「俺は絶対にヨコハマ相手に負ける訳には行かないんだ……!」
私怨百パーセントの俺を見て、毒島さんは腕を組んで頷いた。
「貴殿に敬意を払い、小官も全力で戦おう」
こういう余裕のある落ち着いた所が、毒島さんの人気の
るあきは今どちらを応援しているだろうか。
余裕とは縁遠い俺は、奥歯を噛み締めながらマイクを起動させたのだった。
─ END ─
【あとがき】
こちらもどうぞ。
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2025/04/29
