Fling Posse
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。*゚+──つぎ会う時は売れっ子で
買い物から帰ると、なんと玄関の鍵が開いていた。
「閉め忘れてた?気を付けないとなぁ……」
そう呟きながら自宅に入ると、見慣れない靴の存在に気付く。
「……泥棒?」
荷物をそっとその場に下ろし、玄関に置いている傘を手探りで取り出す。意を決し、足音を殺して歩みを進めた。
耳をすませてゆっくり歩いていると、バスルームから何やら物音が聞こえて来る。私は勢い良くバスルームの扉を開けると、傘を構えた。
「誰か居るのかあああッ!?」
「うおおおッ!? なんだなんだ!?」
叫ぶ私の目の前には、下着姿のままタオルで髪を拭いている男が立っていた。その光景に、色々な意味で私は再び叫ぶ。
「ぎゃああああ! 変態! 不審者! 泥棒〜〜!!」
「ちょ! 落ち着けって! 痛!?」
上手く力が入らず、ぺしぺしと頼り無く傘で男を叩いていると、男が頭に掛けていたタオルがひらりと落ちた。
「警察! 警察呼ぶから! ……って、有栖川帝統!?」
遮る物が無くなった男の顔をよく見ると、なんとシブヤディビジョン代表の有栖川帝統だった。
「なんでFling Posseの帝統が私の家に居る訳……?」
「前に助けてくれた事あったろ? 数日前に全額スッてから何も食ってなくてよ〜……。家覚えてたから来てみたら鍵開いてて、とりあえず今シャワーを借りた所だ」
「え、シャワー浴びて、その後金目の物でも探す気だったの……?」
再び傘を構えると、彼は少し慌てた様子で言った。
「流石に人ん家勝手にあさるような真似はしねぇよ! るあきが帰るの待って、金でも借りようかなぁと…」
似たようなものでは? と思ったが口には出さないでおく。代わりに、早く服を着るよう促した。
「ご飯くらいならご馳走するよ。前に助けてあげた時も言ったけど、お金は貸せない。私だってギリギリで生活してるんだから」
「画家目指してるんだっけか? まぁ、飯にありつけるだけでもありがてぇ」
着替え終えた帝統は、ローテーブルの前にあぐらをかいて座る。私は溜息をついて、玄関に置き去りだった買い物袋を回収してキッチンへ向かった。
「ぐあっつ、ぐあっつ、ぐあっつ……ぷはーっ! ごっそさん! 生き返ったぜ!」
質素なメニューでも美味しそうに平らげてくれた彼は、そのまま私のベッドに転がろうとする。
「もしかして泊まって行く気?」
「え〜、駄目か? 頼む! この通り! なんでもしますから!」
そう言い手を合わせて懇願する彼を見ながら、私は顎に手を添えて考える。
「じゃあこの借りは、身体で払ってもらおうかな」
「おう! ……え?」
口をぽかんと開けた帝統に、私はただ笑顔を返した。
「なぁ、本当にこんなんで良いのか?」
窓際に寄せた椅子に腰掛け、頬杖をつく帝統。私はその姿をノートにざかざかと描いている。
「クロッキーは行き詰まった時の気分転換に丁度良いから、モデルになってくれるのはむしろありがたいの」
ぬいぐるみやペン立てなど、部屋にあるものは描き尽くしてしまった。
部屋に籠もって絵を描く私にとって、人物を描くまたとない機会であり良い刺激となる。
五分程で描き終え、またポーズを変えて短時間で描いて行くのを何度か繰り返した。
「へぇ、上手いもんだな」
「ありがと。とりあえず、頭はすっきりしたかも。これで良い構図とか浮かべば良いんだけど……」
私は鉛筆を置いて長く息を吐いた。
モデルの使命を終えた帝統は、ワンルームに鎮座する唯一散らかっていないベッドの上に無遠慮に寝転がる。
「来客用の布団は無いけど……ブランケットなら出すよ。新聞紙よりはマシでしょ」
膝掛けとして使っている大きめのブランケットを帝統に手渡す。
彼は渋々と言った表情でベッドから降りて床に腰を下ろした。その時床に置いていた物が指先に当たったらしく、「なんだ?」と呟きながらそれを引っ張り出した。
出て来たのは50cm程のキャンバスで、母親と小さな男の子が笑い合いながら手を繋いでいる絵が描かれている。学生時代に描いたものだ。
帝統は見た事の無い真剣な表情で、その絵をじっと見詰めている。
「……帝統? どうかした?」
そう声を掛けると、彼はいつものはつらつとした笑顔に戻った。
「この絵、めちゃくちゃ良いじゃねぇか! 貰っても良いか?」
「昔描いたやつで良かったら……」
「るあきが画家として売れたら、この絵を売って一生ギャンブル三昧してやるぜ」
喜んだのも束の間、帝統はそう言い、図々しくも「サイン書いてくれよ」とキャンバスを渡して来る。
大きく「帝統くんへ」と書いてやろうか少し悩んで、なんとなくやめた。
適当に下の名前を書いただけのサイン入りキャンバスを帝統に渡すと、彼は満足そうな顔をしてそれを片手に抱えながらブランケットに潜る。
すぐに彼の寝息が聞こえ、私はそっと部屋の電気を消した。
そして翌日。目を覚ますと、帝統の姿が消えていた。
特に約束をしていた訳でも無いので、彼の行方は気にせず、朝の仕度を済ませようとベッドから抜け出す。
すると、ローテーブルに書き置きがあるのに気付いた。豪快だが読みやすい文字で、クロッキー帳の一ページに「がんばれよ!」と書かれている。
「帝統こそ、頑張りなよね」
彼を思い出すと、自然と笑顔になってしまう。
カーテンを開いて朝陽を浴びると、行き詰まっていた構図のアイデアが浮かんだ気がした。
─ END ─
【あとがき】
2025/03/19
買い物から帰ると、なんと玄関の鍵が開いていた。
「閉め忘れてた?気を付けないとなぁ……」
そう呟きながら自宅に入ると、見慣れない靴の存在に気付く。
「……泥棒?」
荷物をそっとその場に下ろし、玄関に置いている傘を手探りで取り出す。意を決し、足音を殺して歩みを進めた。
耳をすませてゆっくり歩いていると、バスルームから何やら物音が聞こえて来る。私は勢い良くバスルームの扉を開けると、傘を構えた。
「誰か居るのかあああッ!?」
「うおおおッ!? なんだなんだ!?」
叫ぶ私の目の前には、下着姿のままタオルで髪を拭いている男が立っていた。その光景に、色々な意味で私は再び叫ぶ。
「ぎゃああああ! 変態! 不審者! 泥棒〜〜!!」
「ちょ! 落ち着けって! 痛!?」
上手く力が入らず、ぺしぺしと頼り無く傘で男を叩いていると、男が頭に掛けていたタオルがひらりと落ちた。
「警察! 警察呼ぶから! ……って、有栖川帝統!?」
遮る物が無くなった男の顔をよく見ると、なんとシブヤディビジョン代表の有栖川帝統だった。
「なんでFling Posseの帝統が私の家に居る訳……?」
「前に助けてくれた事あったろ? 数日前に全額スッてから何も食ってなくてよ〜……。家覚えてたから来てみたら鍵開いてて、とりあえず今シャワーを借りた所だ」
「え、シャワー浴びて、その後金目の物でも探す気だったの……?」
再び傘を構えると、彼は少し慌てた様子で言った。
「流石に人ん家勝手にあさるような真似はしねぇよ! るあきが帰るの待って、金でも借りようかなぁと…」
似たようなものでは? と思ったが口には出さないでおく。代わりに、早く服を着るよう促した。
「ご飯くらいならご馳走するよ。前に助けてあげた時も言ったけど、お金は貸せない。私だってギリギリで生活してるんだから」
「画家目指してるんだっけか? まぁ、飯にありつけるだけでもありがてぇ」
着替え終えた帝統は、ローテーブルの前にあぐらをかいて座る。私は溜息をついて、玄関に置き去りだった買い物袋を回収してキッチンへ向かった。
「ぐあっつ、ぐあっつ、ぐあっつ……ぷはーっ! ごっそさん! 生き返ったぜ!」
質素なメニューでも美味しそうに平らげてくれた彼は、そのまま私のベッドに転がろうとする。
「もしかして泊まって行く気?」
「え〜、駄目か? 頼む! この通り! なんでもしますから!」
そう言い手を合わせて懇願する彼を見ながら、私は顎に手を添えて考える。
「じゃあこの借りは、身体で払ってもらおうかな」
「おう! ……え?」
口をぽかんと開けた帝統に、私はただ笑顔を返した。
「なぁ、本当にこんなんで良いのか?」
窓際に寄せた椅子に腰掛け、頬杖をつく帝統。私はその姿をノートにざかざかと描いている。
「クロッキーは行き詰まった時の気分転換に丁度良いから、モデルになってくれるのはむしろありがたいの」
ぬいぐるみやペン立てなど、部屋にあるものは描き尽くしてしまった。
部屋に籠もって絵を描く私にとって、人物を描くまたとない機会であり良い刺激となる。
五分程で描き終え、またポーズを変えて短時間で描いて行くのを何度か繰り返した。
「へぇ、上手いもんだな」
「ありがと。とりあえず、頭はすっきりしたかも。これで良い構図とか浮かべば良いんだけど……」
私は鉛筆を置いて長く息を吐いた。
モデルの使命を終えた帝統は、ワンルームに鎮座する唯一散らかっていないベッドの上に無遠慮に寝転がる。
「来客用の布団は無いけど……ブランケットなら出すよ。新聞紙よりはマシでしょ」
膝掛けとして使っている大きめのブランケットを帝統に手渡す。
彼は渋々と言った表情でベッドから降りて床に腰を下ろした。その時床に置いていた物が指先に当たったらしく、「なんだ?」と呟きながらそれを引っ張り出した。
出て来たのは50cm程のキャンバスで、母親と小さな男の子が笑い合いながら手を繋いでいる絵が描かれている。学生時代に描いたものだ。
帝統は見た事の無い真剣な表情で、その絵をじっと見詰めている。
「……帝統? どうかした?」
そう声を掛けると、彼はいつものはつらつとした笑顔に戻った。
「この絵、めちゃくちゃ良いじゃねぇか! 貰っても良いか?」
「昔描いたやつで良かったら……」
「るあきが画家として売れたら、この絵を売って一生ギャンブル三昧してやるぜ」
喜んだのも束の間、帝統はそう言い、図々しくも「サイン書いてくれよ」とキャンバスを渡して来る。
大きく「帝統くんへ」と書いてやろうか少し悩んで、なんとなくやめた。
適当に下の名前を書いただけのサイン入りキャンバスを帝統に渡すと、彼は満足そうな顔をしてそれを片手に抱えながらブランケットに潜る。
すぐに彼の寝息が聞こえ、私はそっと部屋の電気を消した。
そして翌日。目を覚ますと、帝統の姿が消えていた。
特に約束をしていた訳でも無いので、彼の行方は気にせず、朝の仕度を済ませようとベッドから抜け出す。
すると、ローテーブルに書き置きがあるのに気付いた。豪快だが読みやすい文字で、クロッキー帳の一ページに「がんばれよ!」と書かれている。
「帝統こそ、頑張りなよね」
彼を思い出すと、自然と笑顔になってしまう。
カーテンを開いて朝陽を浴びると、行き詰まっていた構図のアイデアが浮かんだ気がした。
─ END ─
【あとがき】
2025/03/19
