「ごちそうさまでした！」
私は理鶯さんの手料理を綺麗に平らげ、両手を合わせた。
相変わらず、左馬刻さんと銃兎さんは目の前に熊でも現れたかのような表情で私を見る(実際にこの森で熊と遭遇した時の表情と同じなのだ)。
「うむ。るあきの食べっぷりは、見ていて気持ちが良いな」
私の隣に座る理鶯さんは、嬉しそうに頷いた。
最初こそ躊躇したものの、食べてみると存外私の口に合い、今では彼の料理の虜となっている。
「私もそれなりに料理はするんですけど、自分しか食べないし、お腹を満たせれば良いやーって適当なんですよね」
料理は味覚だけではなく、視覚や嗅覚など様々な器官で楽しめるものだ。しかし、私は誰かの為に作る機会がほとんどない。その為、見た目や味にこだわる事はせず、とりあえず空腹を満たす手段としてしか料理をしないのだ。
「この先結婚した時、やっぱり相手には美味しいものを食べて欲しいので、良ければ料理を教えてくれませんか？」
理鶯さんにそうお願いしてみると、彼は少し目を見開いて驚いた顔をしている。
「すみません、難しいなら全然大丈夫です。理鶯さんも忙しいですもんね」
両手を振りながらそう言うと、理鶯さんは「ふむ」と顎に手を添え、私の顔を覗き込んで来た。
急にどうしたのだろうと思っていると、彼は私を見詰めたまま口を開く。
「料理は小官がするから、わざわざるあきが教わる必要はないだろう」
突然言われたその言葉の意味を理解すべく頭を回していると、理鶯さんはわずかに眉間に皺を寄せて呟く。
「るあきには結婚を約束した人間が居るのか？」
「それはまぁ、居ないんですけど…」
「ならば問題あるまい」
ふと左馬刻さんと銃兎さんに目をやると、二人はこちらを見てニヤニヤと口元に笑みを浮かべていた。
「毎日理鶯さんのご飯が食べられるなら、良いかも知れない…のかな」
もはや当たり前のようになっている彼の存在は、どことなく結婚生活を思わせる。
「私の胃袋を掴んだ責任、ちゃんと取ってくださいね」
「ああ、勿論だ」
理鶯さんは私の左手を取ると、薬指にそっとキスを落とす。まるで絵本から出て来た王子様のような仕草に、見事に心も掴まれたのだった。


─　END　─


【あとがき】
▶料理上手な彼に料理を教わろうとしたら突然プロポーズをされた話─GIGOLO
2024/11/22