Dream
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うわ、月めっちゃ綺麗」
残業を終えて会社を出ると、街の明かりに負けない程明るい真ん丸が頭上で輝いていた。
「今日は十五夜だっけ…初めて残業して得した気分かも」
定時で帰宅していたら、恐らく満月なんて気付かなかっただろう。
深呼吸をして月を見上げていると、背後のドアが開いた気配を感じた。振り返ると、営業課の観音坂くんが疲れた顔をして腕時計を眺めている。こんな時間か、と呟きながら顔を上げた彼と目が合った。
「観音坂くん、お疲れ様です」
突然声を掛けたからか、彼は少し驚いた表情をしている。
「黒椿さん、お疲れ様です。黒椿さんもこんな遅くまで残業ですか?」
「そう。定時で帰れそうだったんだけど、色々あって結局バタバタしちゃって、いつの間にかこんな時間」
そう返すと、観音坂くんは力無くはは、と笑った。
「俺も、今日は珍しく早く帰れそうだったんですけど、課長の所為で定時間際に大量の仕事仕事仕事…全部今日中とか言うんですよ!?あのハゲは俺に仕事押し付けてさっさと帰るし…はぁ…すみません、いきなり愚痴ってしまって…」
部署は違うが、観音坂くんとは同じ時期に入社した謂わば同期である。愚痴くらいどんどん吐いて欲しい所なのだが、恐らく彼の性格上、誰かに愚痴を溢す事にも気を遣ってしまうのだろう。
「観音坂くんの上司、だいぶ厄介な人だよねぇ」
私の部署でも度々話題に上がっている。大変そうだなぁと心配していると、彼は「そういえば」と話題を変えた。
「会社の前で立ち止まって何してたんです?」
俺だったらさっさと会社から離れたい…そんな事を小声で吐いて、観音坂くんは眉を下げた。
「ほら、あれ」
私は空を指差す。彼が私の指を辿って上を見ると、「わぁ」と感嘆の溜息を漏らした。
「今日は月が綺麗だよね」
観音坂くんの顔を見上げてそう言うと、彼は月を眺めたまま呟く。
「きっと黒椿さんと一緒に見てるからですかね…。俺一人で月を見ても、こんなに感動してたか分からないです」
その発言に少し驚いて観音坂くんの顔を見詰めていると、彼はこちらを見て照れたように笑った。
「初めて残業して良かったかもって思いました」
「私も、さっき同じ事思った」
そして私達は月を見て笑い合う。
「そろそろ帰ろうか、観音坂くん」
「…ですね。明日も仕事かぁ」
駅までの道のりを共に歩き出す。そう、明日も仕事なのだ。でも…。
「でも、なんだか頑張ろうって思えますね」
「ふふ。今、私も同じ事思った」
満月には不思議な力があると聞く。だがそんなスピリチュアルな理由ではなく、単純に観音坂くんと一緒に月見を楽しめた事が理由だろう。
彼もまた同じ事を思っていると良いな。私は駅に入る前に、もう一度空を見上げた。
─ END ─
【あとがき】
「月が綺麗ですね」の返し方も色々あるんだなぁ、と調べていて思いました。
▶Full moon night─14th Moon
▶Full moon night─Heaven & Hell
2024/09/17
残業を終えて会社を出ると、街の明かりに負けない程明るい真ん丸が頭上で輝いていた。
「今日は十五夜だっけ…初めて残業して得した気分かも」
定時で帰宅していたら、恐らく満月なんて気付かなかっただろう。
深呼吸をして月を見上げていると、背後のドアが開いた気配を感じた。振り返ると、営業課の観音坂くんが疲れた顔をして腕時計を眺めている。こんな時間か、と呟きながら顔を上げた彼と目が合った。
「観音坂くん、お疲れ様です」
突然声を掛けたからか、彼は少し驚いた表情をしている。
「黒椿さん、お疲れ様です。黒椿さんもこんな遅くまで残業ですか?」
「そう。定時で帰れそうだったんだけど、色々あって結局バタバタしちゃって、いつの間にかこんな時間」
そう返すと、観音坂くんは力無くはは、と笑った。
「俺も、今日は珍しく早く帰れそうだったんですけど、課長の所為で定時間際に大量の仕事仕事仕事…全部今日中とか言うんですよ!?あのハゲは俺に仕事押し付けてさっさと帰るし…はぁ…すみません、いきなり愚痴ってしまって…」
部署は違うが、観音坂くんとは同じ時期に入社した謂わば同期である。愚痴くらいどんどん吐いて欲しい所なのだが、恐らく彼の性格上、誰かに愚痴を溢す事にも気を遣ってしまうのだろう。
「観音坂くんの上司、だいぶ厄介な人だよねぇ」
私の部署でも度々話題に上がっている。大変そうだなぁと心配していると、彼は「そういえば」と話題を変えた。
「会社の前で立ち止まって何してたんです?」
俺だったらさっさと会社から離れたい…そんな事を小声で吐いて、観音坂くんは眉を下げた。
「ほら、あれ」
私は空を指差す。彼が私の指を辿って上を見ると、「わぁ」と感嘆の溜息を漏らした。
「今日は月が綺麗だよね」
観音坂くんの顔を見上げてそう言うと、彼は月を眺めたまま呟く。
「きっと黒椿さんと一緒に見てるからですかね…。俺一人で月を見ても、こんなに感動してたか分からないです」
その発言に少し驚いて観音坂くんの顔を見詰めていると、彼はこちらを見て照れたように笑った。
「初めて残業して良かったかもって思いました」
「私も、さっき同じ事思った」
そして私達は月を見て笑い合う。
「そろそろ帰ろうか、観音坂くん」
「…ですね。明日も仕事かぁ」
駅までの道のりを共に歩き出す。そう、明日も仕事なのだ。でも…。
「でも、なんだか頑張ろうって思えますね」
「ふふ。今、私も同じ事思った」
満月には不思議な力があると聞く。だがそんなスピリチュアルな理由ではなく、単純に観音坂くんと一緒に月見を楽しめた事が理由だろう。
彼もまた同じ事を思っていると良いな。私は駅に入る前に、もう一度空を見上げた。
─ END ─
【あとがき】
「月が綺麗ですね」の返し方も色々あるんだなぁ、と調べていて思いました。
▶Full moon night─14th Moon
▶Full moon night─Heaven & Hell
2024/09/17
20/27ページ