Dream
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「遊園地、ですか?」
私は夢野さんから手渡されたチケットを見詰めた。
「ええ。元はうちのギャンブル狂が手に入れたものらしいのですが、アトラクションに並ぶよりパチンコに早朝から並ぶ方が良いとの事で、小生に譲ってくれたのですよ。小説のネタにでも…と思ったのですが、一人で行くのも味気無くて」
言い終えて、夢野さんはコーヒーが入ったカップに口を付ける。小さな音を立ててカップをテーブルに置くと、彼は私に笑顔を向けた。
「なので黒椿さんさえ良ければ、小生と一緒に遊園地に行きませんか?」
「私で良いんですか…?ぜひ!」
お得意の嘘だと言われたらどうしよう、なんて思ったが、夢野さんは私の返事を聞いて安心したような笑顔を見せる。
「良かった。ではいつにしましょうか?」
そんな感じで、突然夢野さんと二人で遊園地に行く事になった。
待ち合わせ場所に到着すると、彼は本を片手にベンチに座っている。私が声を掛けると、本から顔を上げて立ち上がった。
「夢野さん、早いですね。お待たせしてすみません」
「いえ、小生も今しがた到着した所で…というのは嘘で、正直に申し上げると、今日が楽しみで随分早くに来てしまいました。黒椿さんを待っている間も、苦ではありませんでしたよ」
夢野さんとこれから遊園地に行くというだけでも心臓がうるさいのに、そんな事をさらりと言われると彼の顔を直視出来ない。
いざ遊園地に到着すると、人の多さに驚いた。休日で天気も良い。当然といえばそうだろう。
「流石、人気のテーマパークですねぇ。はぐれないよう、手でも繋ぎましょうか?」
「えっ」
「…嘘ですよ」
早速、彼の嘘に振り回される。今日は私の心臓は大丈夫だろうか。
「小生このような場所はあまり来た事が無いので、今日は色々経験して帰るとしましょう」
その宣言通り、彼は様々なアトラクションに興味を示して行った。長蛇の列でも、夢野さんの話が面白くてあっという間に順番が来る。
ほぼ全てのアトラクションを回った頃、空は綺麗な茜色を広げていた。
「時間が経つのは早いですね。夢野さん、良いお話書けそうですか?」
私はドキドキしっぱなしだったが、彼にとっては仕事の取材の一環に過ぎないことを思い出す。夢野さんを見上げると、胸の奥がちくりと傷んだ。
しかし、彼は柔らかい笑顔で私を見詰める。
「ふふ、小説の事はすっかり忘れて、柄にも無くはしゃいでしまいました。黒椿さんとの時間はとても楽しかったですよ」
「…嘘じゃないですか?」
思わずそんなことを言うと、夢野さんはいたずらっ子のように片目を閉じた。
「小生、嘘は言いませんよ。このまま貴女と別れるのは惜しい。今日は帰したくない…なんて」
彼は私の頬を指先ですっと撫でながら続ける。
「まるで嘘のような事も思ってしまいます」
─ END ─
【あとがき】
果たして帝統からチケットを貰ったというのは嘘か真か。
2024/07/14
私は夢野さんから手渡されたチケットを見詰めた。
「ええ。元はうちのギャンブル狂が手に入れたものらしいのですが、アトラクションに並ぶよりパチンコに早朝から並ぶ方が良いとの事で、小生に譲ってくれたのですよ。小説のネタにでも…と思ったのですが、一人で行くのも味気無くて」
言い終えて、夢野さんはコーヒーが入ったカップに口を付ける。小さな音を立ててカップをテーブルに置くと、彼は私に笑顔を向けた。
「なので黒椿さんさえ良ければ、小生と一緒に遊園地に行きませんか?」
「私で良いんですか…?ぜひ!」
お得意の嘘だと言われたらどうしよう、なんて思ったが、夢野さんは私の返事を聞いて安心したような笑顔を見せる。
「良かった。ではいつにしましょうか?」
そんな感じで、突然夢野さんと二人で遊園地に行く事になった。
待ち合わせ場所に到着すると、彼は本を片手にベンチに座っている。私が声を掛けると、本から顔を上げて立ち上がった。
「夢野さん、早いですね。お待たせしてすみません」
「いえ、小生も今しがた到着した所で…というのは嘘で、正直に申し上げると、今日が楽しみで随分早くに来てしまいました。黒椿さんを待っている間も、苦ではありませんでしたよ」
夢野さんとこれから遊園地に行くというだけでも心臓がうるさいのに、そんな事をさらりと言われると彼の顔を直視出来ない。
いざ遊園地に到着すると、人の多さに驚いた。休日で天気も良い。当然といえばそうだろう。
「流石、人気のテーマパークですねぇ。はぐれないよう、手でも繋ぎましょうか?」
「えっ」
「…嘘ですよ」
早速、彼の嘘に振り回される。今日は私の心臓は大丈夫だろうか。
「小生このような場所はあまり来た事が無いので、今日は色々経験して帰るとしましょう」
その宣言通り、彼は様々なアトラクションに興味を示して行った。長蛇の列でも、夢野さんの話が面白くてあっという間に順番が来る。
ほぼ全てのアトラクションを回った頃、空は綺麗な茜色を広げていた。
「時間が経つのは早いですね。夢野さん、良いお話書けそうですか?」
私はドキドキしっぱなしだったが、彼にとっては仕事の取材の一環に過ぎないことを思い出す。夢野さんを見上げると、胸の奥がちくりと傷んだ。
しかし、彼は柔らかい笑顔で私を見詰める。
「ふふ、小説の事はすっかり忘れて、柄にも無くはしゃいでしまいました。黒椿さんとの時間はとても楽しかったですよ」
「…嘘じゃないですか?」
思わずそんなことを言うと、夢野さんはいたずらっ子のように片目を閉じた。
「小生、嘘は言いませんよ。このまま貴女と別れるのは惜しい。今日は帰したくない…なんて」
彼は私の頬を指先ですっと撫でながら続ける。
「まるで嘘のような事も思ってしまいます」
─ END ─
【あとがき】
果たして帝統からチケットを貰ったというのは嘘か真か。
2024/07/14
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