Dream
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「次の商談まで時間あるし、今のうちに昼食べておくか…」
少々早いが、時間が空いた時に食べておかないと食いっぱぐれてしまう。
外に掲げられたおすすめメニューの看板に惹かれ、俺は柄にもなくお洒落なカフェに入った。
案内された席に腰を落ち着け周りを見ると、案の定若い女性客が大半を占めている。
「場違い感が強いな…俺なんかが居ると店の景観を損ねてしまう…やっぱりいつものラーメン屋にすべきだったか…」
いやでもこのメニュー美味しそうだったし…。
俺は片手を上げて店員を呼び、お目当ての品を注文する。
そしてお冷に口をつけ喉を潤していると、ふと視線を感じた。
斜め前の席に座る女性二人組のうち、一人がちらちらと俺の方を見ている。
気まずい。そんなにスーツ姿の男一人で居るのは異端なのか…。
居心地の悪さを誤魔化すように再びグラスの水を呷った時、その女性が席を立ち、俺の席までやって来た。
「…観音坂くんだよね?」
「ごほっ!ひゃい!?」
声を掛けられるとは思わず、驚いてむせてしまった。
「えーと、すみません、どなたでしたっけ…?」
女性の知り合いなんてほぼ居ないが、こんな綺麗な人は記憶に無い。
困惑する俺を見て、女性はくすりと笑って言った。
「小中同じだった黒椿るあきだよ。…覚えてる?」
「黒椿…え!黒椿!?久し振りだな…!」
言われてみれば、あの頃の面影があるような。……無いような。
中学卒業以来だったと思うが、よく気付いたな。それによく俺なんかの事を覚えていたな…。
「卒業してから会ってないもんね。観音坂くん、全然変わってないからすぐ分かったよ」
「俺は全然気付かなかったのに…本当に申し訳無い…」
初恋の相手なのに…!
周りに広められる事を恐れて一二三にも伝えていないが、本人にも伝えず終わってしまった。
苦い思い出ばかりが甦る学生時代に思いを馳せていると、控え目な笑い声が聞こえる。
「あはは、性格も変わってないね。だからラップチーム組んでる事を知った時はびっくりしたよ」
麻天狼の事を知ってくれているのか。嬉しくて午後の仕事も頑張れそうだ。
「伊弉冉くんと一緒にラップしてるなんて、二人はずっと仲良いんだね」
「あぁ…仲が良いというか、ただの腐れ縁というか…」
苦笑する俺に、黒椿は「そうだ」とポケットからスマホを取り出した。
「良かったら連絡先交換しない?今度ぜひ伊弉冉くんも一緒に、三人でご飯なんてどうかな」
「あ〜…。俺は仕事が忙しいし、あいつも休日が合うか分からないから、すぐには難しいかも知れないけど…」
黒椿は連絡先交換を終えたスマホをポケットに仕舞い、笑顔で答える。
「二人の都合の良い時で大丈夫だよ。私はいくらか融通利くからさ」
「あぁ…じゃあ今度連絡するよ」
「うん。麻天狼応援してるよ。頑張ってね!」
我がチームのハンドサインをして席に戻って行く黒椿に、俺も控えめにポーズを返す。
冒険してこういったカフェに足を運んで良かったかも知れない。
運ばれた料理も美味しかった。
それに今日は珍しく定時で上がれた。
……何かこの後悪い事が起きそうな気がする。
明日はシンジュクの街を大雪で真っ白に染めてしまうかも知れない。
今日の幸せを噛み締めたいが、自然と出てしまう溜息を吐き出して、俺は自宅の扉を開いた。
─ END ─
【あとがき】
タイトルは「花曇」様よりお借りしました。
▶始まりはきみ─GIGOLO
2024/06/23
少々早いが、時間が空いた時に食べておかないと食いっぱぐれてしまう。
外に掲げられたおすすめメニューの看板に惹かれ、俺は柄にもなくお洒落なカフェに入った。
案内された席に腰を落ち着け周りを見ると、案の定若い女性客が大半を占めている。
「場違い感が強いな…俺なんかが居ると店の景観を損ねてしまう…やっぱりいつものラーメン屋にすべきだったか…」
いやでもこのメニュー美味しそうだったし…。
俺は片手を上げて店員を呼び、お目当ての品を注文する。
そしてお冷に口をつけ喉を潤していると、ふと視線を感じた。
斜め前の席に座る女性二人組のうち、一人がちらちらと俺の方を見ている。
気まずい。そんなにスーツ姿の男一人で居るのは異端なのか…。
居心地の悪さを誤魔化すように再びグラスの水を呷った時、その女性が席を立ち、俺の席までやって来た。
「…観音坂くんだよね?」
「ごほっ!ひゃい!?」
声を掛けられるとは思わず、驚いてむせてしまった。
「えーと、すみません、どなたでしたっけ…?」
女性の知り合いなんてほぼ居ないが、こんな綺麗な人は記憶に無い。
困惑する俺を見て、女性はくすりと笑って言った。
「小中同じだった黒椿るあきだよ。…覚えてる?」
「黒椿…え!黒椿!?久し振りだな…!」
言われてみれば、あの頃の面影があるような。……無いような。
中学卒業以来だったと思うが、よく気付いたな。それによく俺なんかの事を覚えていたな…。
「卒業してから会ってないもんね。観音坂くん、全然変わってないからすぐ分かったよ」
「俺は全然気付かなかったのに…本当に申し訳無い…」
初恋の相手なのに…!
周りに広められる事を恐れて一二三にも伝えていないが、本人にも伝えず終わってしまった。
苦い思い出ばかりが甦る学生時代に思いを馳せていると、控え目な笑い声が聞こえる。
「あはは、性格も変わってないね。だからラップチーム組んでる事を知った時はびっくりしたよ」
麻天狼の事を知ってくれているのか。嬉しくて午後の仕事も頑張れそうだ。
「伊弉冉くんと一緒にラップしてるなんて、二人はずっと仲良いんだね」
「あぁ…仲が良いというか、ただの腐れ縁というか…」
苦笑する俺に、黒椿は「そうだ」とポケットからスマホを取り出した。
「良かったら連絡先交換しない?今度ぜひ伊弉冉くんも一緒に、三人でご飯なんてどうかな」
「あ〜…。俺は仕事が忙しいし、あいつも休日が合うか分からないから、すぐには難しいかも知れないけど…」
黒椿は連絡先交換を終えたスマホをポケットに仕舞い、笑顔で答える。
「二人の都合の良い時で大丈夫だよ。私はいくらか融通利くからさ」
「あぁ…じゃあ今度連絡するよ」
「うん。麻天狼応援してるよ。頑張ってね!」
我がチームのハンドサインをして席に戻って行く黒椿に、俺も控えめにポーズを返す。
冒険してこういったカフェに足を運んで良かったかも知れない。
運ばれた料理も美味しかった。
それに今日は珍しく定時で上がれた。
……何かこの後悪い事が起きそうな気がする。
明日はシンジュクの街を大雪で真っ白に染めてしまうかも知れない。
今日の幸せを噛み締めたいが、自然と出てしまう溜息を吐き出して、俺は自宅の扉を開いた。
─ END ─
【あとがき】
タイトルは「花曇」様よりお借りしました。
▶始まりはきみ─GIGOLO
2024/06/23
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