｡⁠*ﾟ⁠+──指先で広がる夢


「るあきちゃん、お願いがあるんすけど…」
　突然、土下座する勢いで十四くんが上目遣いに懇願して来た。
「どうしたの？　そんなに改まって。私に出来る事なら聞くよ」
　そう答えると、彼はぱあっと花が咲いたような笑みを浮かべる。
「るあきちゃんに！　爪を塗って欲しいんす！」
「爪？　私が？　十四くんのを？」
「はいっす！」
　いつも自分で真っ黒に塗っているはずだが、手を怪我している訳でもないのに何故？　急に黙り込んだ私を見て、十四くんは眉を下げて慌て出した。
「あわわ……すみませんっす！　困らせるつもりは無かったんす！」
「私も、いきなり黙っちゃってごめんね。なんでだろうって思って」
　半泣き状態の彼の頭を撫でながら、私は理由を聞いてみた。
「週末にライブがあるんすけど、結構大きめの箱なんすよ。自分今から緊張しちゃって……。でもでも！　るあきちゃんにネイルしてもらったら、それ見て頑張れるかなぁと思って！」
　理由がめちゃくちゃ可愛い。可愛過ぎる。
「そんな事言われたらいくらでも塗っちゃうよ！」
「やった〜！　嬉しいっす！」
　早速彼の指先を手に取り、いつもの黒いマニキュアを爪に乗せ塗り広げて行った。
「えへへ。意外と顔近くて照れるっすね……！」
　頬を赤くしながら呟く十四くんを見ていると、こちらも恥ずかしくなって来る。
「そうだね……」
　それからお互い無言になってしまったが、塗り終わると彼は歓声を上げて喜んでくれた。
「わ〜！　獄さんと空却さんと、それからバンドのメンバーにも自慢するっす！」
　きっと明日は獄さんの事務所、からの空却くんのお寺、そしてバンドメンバーの所へ朝から自慢ツアーが始まるのだろう。
　予想以上に嬉しそうにしている十四くんを眺めながら、私はそんな事を思った。

「獄さ〜〜ん！　じゃん！　これ見てくださいっす！」
「なんだ？　いつもと同じだろ」
「も〜分かんないんすか？　このネイルは、るあきちゃんに塗ってもらったんすよ！」
「そりゃ良かったな」
「へへへ〜！」

「空却さん！　見てくださいっす！　格好良いっすよね！？」
「おーどうした十四。るあきにでも塗ってもらったのかァ？」
「えへへへ。そうなんす！　やっぱり空却さんは分かるんすか！？」
「いや分かんねぇけど。随分浮かれてるみてぇだからよ」
「えへへ。そんなに浮かれてるように見えるっすか？ふふふ」


─　END　─


【あとがき】
恐らくアマンダにも自慢してます。可愛いね。
2024/06/23