真弘×珠紀
珠紀がニールと一体化してしまい、鬼斬丸でその身体を貫いた真弘はまだその感触が残っている。愛しい女の最後の願いを叶えてやるのが好きになった男ができる最大のことだと真弘は思い、珠紀の願うままニールごと貫いたのだ。
そのことを仲間に言うと、誰も真弘を責めなかった。罵られた方が遥かにマシだというのに、誰一人真弘を口汚なく暴言を吐く者などいなかった。みな、真弘の勇気ある行動と珠紀の願いを尊重したのだ。
美鶴と清乃は泣き崩れ、二人は抱き合ってわんわん泣いた。守護者も静かに涙を流し、珠紀が救った世界は残酷にも朝日が差し込む。真弘だけは泣かなかった。それを咎める者はもちろんいない。
最終決戦の前、珠紀にどうしても見せたかった風の丘に真弘は一人やってきた。太陽の光が燦々と差し込み、辺りは日の光で眩しい。
これだけ素晴らしい絶景なのに珠紀ただ一人がいないのだから、なんて味気ない世界なのだろう。
唇を合わせた感覚もほんのりと残っている。あの時は未来がどうなるかなんて分からなかったが、明るい未来をその手に抱いてやると思っていた。
しかし、それは残酷にも叶わず、世界は珠紀一人だけを犠牲にして毎日回っている。いつしかそれが当たり前になり、珠紀もいずれ過去の人になるかと思うと真弘は納得がいかなかった。
「ひとりでかっこつけていきやがって」
真弘の呟きは風に溶けて消える。この場には真弘ただひとりしかおらず、ここにくればこの鬱々とした気持ちが少しでも晴れるかと思ったがそんなことはなかった。思い出の詰まったこの場所は、珠紀のことを鮮明に思い出させ胸が苦しくなるばかりだ。
「絶対叶えてやるって約束したのに」
真弘はここで決意した。何もかもを失わずに済むよう、そう決めて最終決戦に望んだというのに、世界というものはあまりにも残酷すぎた。
「どうしておまえなんだよ」
珠紀じゃなくて俺だったら。
真弘は何度となくそう考えたことがある。
けれど、真弘が犠牲になることを知ったら、あの珠紀が黙っているわけがないのだ。
真弘はそんな前向きな珠紀だからこそ惹かれたし、何よりも守りたいと思った。
思い出の場所は苦しくなる。
それでも、村の中で一番好きな場所であることに変わりなかった。
季節が巡り、たとえ珠紀が過去の人になったとしても、真弘は決して忘れることなどないだろう。真弘だけじゃない、守護者や美鶴は絶対に珠紀のことなど忘れたりしない。彼女がいたからこそ、逃れられない呪縛から解き放たれ未来を考えることを許されたのだから。
真弘は新たに決意する。大学に合格して無事大学生になって、いつかは夢だったアメリカを横断して、満喫してからまた季封村に戻ってくる。
そして、珠紀の守りたかったこの村を真弘はずっと守っていくのだ。すべてが思う通りにいかないかもしれない。そんな時は立ち止まって愛しい珠紀のことを思い出すのだ。
「真弘先輩なら絶対できますよ」
あれほど強かった風が止み、ふわりとした香りとともに柔らかい風が真弘の頬を撫でていく。
──ああ、珠紀、おまえなんだな。
今確かに聞こえた声が幻聴だったとしても、それでいい。こうして分からなくなった時は、立ち止まって耳を澄ませば遠いところに行ってしまった珠紀が導いてくれるなら、真弘はきっと間違えたりしないから。
いつまでも後ろ向きな考えをしているのは自分らしくない。真弘は思い切り両手で頬を叩き、気合を入れる。
いつかの未来、珠紀とまた会うことができたなら、自分の武勇伝を語ってやろう。「もう分かりましたから」と言って逃げようとする珠紀を捕まえて、今度こそ離さないために。
そのために真弘ができるのは、珠紀に恥じないよう真っ直ぐ前を向いて生きることだ。流れる涙をぐいと拭き、真弘は声を上げた。
「待ってろ珠紀! おまえに真弘先輩様のかっこいいところをたっぷりと話してやるからな!」
ビリビリと鼓膜に響く大きな声に真弘は満足する。泣いて笑って、それでおしまい。珠紀のいない世界は味気なくてつまらないが、だからといって何もしないのは性に合わない。思い立ったらまず行動。あの玉依姫様だってそうだったじゃないか。
「さてと、とりあえず宇賀谷家に行きますか」
真弘は踵を返す。二度目の受験のために勉強するのだ。前を向いて今を生きる。それが真弘にできる珠紀への弔いだと信じているから。これから何があっても前を向いていよう。珠紀に恥じない生き方をして、誰よりも長生きしてやる。
そして、最後に笑って死ぬのだ。
そのことを仲間に言うと、誰も真弘を責めなかった。罵られた方が遥かにマシだというのに、誰一人真弘を口汚なく暴言を吐く者などいなかった。みな、真弘の勇気ある行動と珠紀の願いを尊重したのだ。
美鶴と清乃は泣き崩れ、二人は抱き合ってわんわん泣いた。守護者も静かに涙を流し、珠紀が救った世界は残酷にも朝日が差し込む。真弘だけは泣かなかった。それを咎める者はもちろんいない。
最終決戦の前、珠紀にどうしても見せたかった風の丘に真弘は一人やってきた。太陽の光が燦々と差し込み、辺りは日の光で眩しい。
これだけ素晴らしい絶景なのに珠紀ただ一人がいないのだから、なんて味気ない世界なのだろう。
唇を合わせた感覚もほんのりと残っている。あの時は未来がどうなるかなんて分からなかったが、明るい未来をその手に抱いてやると思っていた。
しかし、それは残酷にも叶わず、世界は珠紀一人だけを犠牲にして毎日回っている。いつしかそれが当たり前になり、珠紀もいずれ過去の人になるかと思うと真弘は納得がいかなかった。
「ひとりでかっこつけていきやがって」
真弘の呟きは風に溶けて消える。この場には真弘ただひとりしかおらず、ここにくればこの鬱々とした気持ちが少しでも晴れるかと思ったがそんなことはなかった。思い出の詰まったこの場所は、珠紀のことを鮮明に思い出させ胸が苦しくなるばかりだ。
「絶対叶えてやるって約束したのに」
真弘はここで決意した。何もかもを失わずに済むよう、そう決めて最終決戦に望んだというのに、世界というものはあまりにも残酷すぎた。
「どうしておまえなんだよ」
珠紀じゃなくて俺だったら。
真弘は何度となくそう考えたことがある。
けれど、真弘が犠牲になることを知ったら、あの珠紀が黙っているわけがないのだ。
真弘はそんな前向きな珠紀だからこそ惹かれたし、何よりも守りたいと思った。
思い出の場所は苦しくなる。
それでも、村の中で一番好きな場所であることに変わりなかった。
季節が巡り、たとえ珠紀が過去の人になったとしても、真弘は決して忘れることなどないだろう。真弘だけじゃない、守護者や美鶴は絶対に珠紀のことなど忘れたりしない。彼女がいたからこそ、逃れられない呪縛から解き放たれ未来を考えることを許されたのだから。
真弘は新たに決意する。大学に合格して無事大学生になって、いつかは夢だったアメリカを横断して、満喫してからまた季封村に戻ってくる。
そして、珠紀の守りたかったこの村を真弘はずっと守っていくのだ。すべてが思う通りにいかないかもしれない。そんな時は立ち止まって愛しい珠紀のことを思い出すのだ。
「真弘先輩なら絶対できますよ」
あれほど強かった風が止み、ふわりとした香りとともに柔らかい風が真弘の頬を撫でていく。
──ああ、珠紀、おまえなんだな。
今確かに聞こえた声が幻聴だったとしても、それでいい。こうして分からなくなった時は、立ち止まって耳を澄ませば遠いところに行ってしまった珠紀が導いてくれるなら、真弘はきっと間違えたりしないから。
いつまでも後ろ向きな考えをしているのは自分らしくない。真弘は思い切り両手で頬を叩き、気合を入れる。
いつかの未来、珠紀とまた会うことができたなら、自分の武勇伝を語ってやろう。「もう分かりましたから」と言って逃げようとする珠紀を捕まえて、今度こそ離さないために。
そのために真弘ができるのは、珠紀に恥じないよう真っ直ぐ前を向いて生きることだ。流れる涙をぐいと拭き、真弘は声を上げた。
「待ってろ珠紀! おまえに真弘先輩様のかっこいいところをたっぷりと話してやるからな!」
ビリビリと鼓膜に響く大きな声に真弘は満足する。泣いて笑って、それでおしまい。珠紀のいない世界は味気なくてつまらないが、だからといって何もしないのは性に合わない。思い立ったらまず行動。あの玉依姫様だってそうだったじゃないか。
「さてと、とりあえず宇賀谷家に行きますか」
真弘は踵を返す。二度目の受験のために勉強するのだ。前を向いて今を生きる。それが真弘にできる珠紀への弔いだと信じているから。これから何があっても前を向いていよう。珠紀に恥じない生き方をして、誰よりも長生きしてやる。
そして、最後に笑って死ぬのだ。