オールキャラ
玉依姫である珠洲が行方不明になったと知らされたのは、沙那と加奈が主である珠洲の気配を感じ取れないと守護者に縋ってきたことが始まりだった。
高千穂家に守護者と典薬寮チームが集まった。壬生の里に帰っていた克彦と小太郎は連絡を入れたらその日のうちに綿津見村までやってきてくれたので、全員揃ったのである。
「沙那、加奈、まずはどうして珠洲が行方不明になったのか、おしえてくれるかい?」
進行役の亮司に促されるように、沙那と加奈は説明を始めた。
龍神を倒して以降、玉依姫として覚醒した珠洲は、力が衰えないように加奈と毎朝修行を続けていた。
そんなある朝のこと。いつも通りに加奈と修行していた珠洲は、とあるカミの気配を身近に感じた。妖に堕ちかかっていたそのカミを救った珠洲は、どうやら見そめられてしまったらしく、加奈の目の前で忽然と姿を消したのだ。
それからいくら珠洲の気配を辿っても、目の前の綿津見神社で途切れてしまい、玉依姫が神隠しに遭ったとみんなに連絡したのだそうだ。
「確かにこの目で見たのじゃ、男神が主を攫ってしまうところを。私はただの使い魔だから、カミのような大いな力を持つ相手には到底力は及ばぬ」
項垂れる加奈は自分にもっと力があったら珠洲は攫われなかったと思っているようで、心痛そうな表情をしていた。
「私も主様の気配が急に消えたので、急いで境内に向かうと加奈しかおらず、状況を聞くと先ほど申し上げたことをくり返すのです」
沙那も分かりやすく項垂れていた。心なしか、耳持たれているようだ。
「家にいた私も急に珠洲の気配が消えたから沙那と一緒に境内に行ったの。でも、そこには加奈しかいなかった……」
近くにいながら妹の神隠しを救えなかったことを真緒は悔やんでいるようだった。
「俺はちょうど家を留守にしていたから、詳しい話は沙那と加奈、真緒姉さんから聞いたんだ。でも、分かることが少なくてみなさんの力を借りたいんです」
陸は力強く言った。その場にいなかったことは仕方ないが、もしこうなることを知っていたら何がなんでも阻止していたからだ。
「情報はそれだけか?」
克彦は少なすぎる情報に苛立ちを隠さない。
「まあまあ兄貴、誰が悪いとかじゃないんだから、もう少し落ち着けって」
克彦の弟である小太郎は、早速切れそうになっている兄を宥めていた。
「なあ加奈、他に見たものや感じたものはないのか?」
晶の問いに加奈は首を振る。それ以上の芳しい答えは出なかった。
「典薬寮でもこういう話は聞いたことがあります。カミによる神隠しは意外と多いんですよ」
「そうね。でも、カミの領域に入ることはごく僅かの人間しか不可能なの。典薬寮もこの手の話には手を焼いているのが現実ね」
「本当に役に立たないな、典薬寮は」
「なによ、事実を言ったまでじゃない」
仲のよくない晶とエリカによる口論が始まってしまった。お互い口が立つので止める者がいないといつまで経っても喧嘩をしている。
「そこの二人、こんな時に喧嘩をするのはよそう」
こういう時、止めに入るのは大体珠洲か亮司だった。他の者は我関せずといった無関心な者と、面倒ごとを避けたい者が多いからだ。
「……すみません」
晶とエリカは声を揃えてその場にいるみんなに謝った。
「幸いなことに、ここにいるメンバーはみんなカミの気配を感知できる。チームで分けて捜索隊を組もう」
真緒、沙那、加奈の高千穂チーム、晶、陸の昔馴染みチーム、壬生兄弟チーム、亮司、保典、エリカの典薬寮チームの四つに分かれ、真緒を筆頭に結界を張ることにした。
真緒は探知能力に優れており、この中でも一番だと自負している。助けてもらった大切な妹である珠洲を救おうと意気込んでいた。
高千穂チームは北、昔馴染みチームは南、壬生兄弟チームは東、典薬寮チームは西と分けて、綿津見村のそれぞれに結界を張る。
相手はカミなのでカミの領域に全員が一気に近づくことはできない。
しかし、四方に固めて一瞬でもカミの世界に繋がれば、あちら側に入ることができるはずだ。それは真緒の見立てで初めての試みだから成功するか分からないが、明日の朝から始めることになった。
今日はもう夜遅くまで話し合っていたのだ。みんなそのまま高千穂家に泊まり、明日の朝までに体力を備えておくためゆっくり休むことにした。
その頃、珠洲はというと──。
暗い洞窟の中で薄ぼんやりと明かりが灯されているところで風のカミと相対していた。
「珠洲よ、そなたには感謝している。さあ、食べるといい」
「いいえ、いただけません」
珠洲はよもつへぐいを思い出した。カミ様の世界のものを食べたら、元の世界に戻れなくなってしまう。なんとなくそんな気がした珠洲は、いくらカミが勧めてこようと断固拒否した。
「まあよい、時間はたくさんある。珠洲、寒いだろう、こちらへ来なさい」
夏が過ぎ秋になった夜の洞窟は確かに寒い。珠洲は渋々明かりの方へとにじり寄った。
「なに、そう警戒するな。今はまだ何もしない」
「全く安心できないです」
「はは、面白い。妖に堕ちるところを救われたのは奇跡だと思っている。そんなことできるものは玉依姫くらいのものだろう。その力を欲しているわけではない、ただ、珠洲そのものが欲しいのだ」
美しい風のカミは隼人といい、先ほどからこうしてずっと珠洲を口説いていた。
しかし、珠洲には想い人がいる。その人でなければ愛の言葉を囁かれてもなんにもときめかない。
早く、ここから脱出しなければ。
高千穂家に守護者と典薬寮チームが集まった。壬生の里に帰っていた克彦と小太郎は連絡を入れたらその日のうちに綿津見村までやってきてくれたので、全員揃ったのである。
「沙那、加奈、まずはどうして珠洲が行方不明になったのか、おしえてくれるかい?」
進行役の亮司に促されるように、沙那と加奈は説明を始めた。
龍神を倒して以降、玉依姫として覚醒した珠洲は、力が衰えないように加奈と毎朝修行を続けていた。
そんなある朝のこと。いつも通りに加奈と修行していた珠洲は、とあるカミの気配を身近に感じた。妖に堕ちかかっていたそのカミを救った珠洲は、どうやら見そめられてしまったらしく、加奈の目の前で忽然と姿を消したのだ。
それからいくら珠洲の気配を辿っても、目の前の綿津見神社で途切れてしまい、玉依姫が神隠しに遭ったとみんなに連絡したのだそうだ。
「確かにこの目で見たのじゃ、男神が主を攫ってしまうところを。私はただの使い魔だから、カミのような大いな力を持つ相手には到底力は及ばぬ」
項垂れる加奈は自分にもっと力があったら珠洲は攫われなかったと思っているようで、心痛そうな表情をしていた。
「私も主様の気配が急に消えたので、急いで境内に向かうと加奈しかおらず、状況を聞くと先ほど申し上げたことをくり返すのです」
沙那も分かりやすく項垂れていた。心なしか、耳持たれているようだ。
「家にいた私も急に珠洲の気配が消えたから沙那と一緒に境内に行ったの。でも、そこには加奈しかいなかった……」
近くにいながら妹の神隠しを救えなかったことを真緒は悔やんでいるようだった。
「俺はちょうど家を留守にしていたから、詳しい話は沙那と加奈、真緒姉さんから聞いたんだ。でも、分かることが少なくてみなさんの力を借りたいんです」
陸は力強く言った。その場にいなかったことは仕方ないが、もしこうなることを知っていたら何がなんでも阻止していたからだ。
「情報はそれだけか?」
克彦は少なすぎる情報に苛立ちを隠さない。
「まあまあ兄貴、誰が悪いとかじゃないんだから、もう少し落ち着けって」
克彦の弟である小太郎は、早速切れそうになっている兄を宥めていた。
「なあ加奈、他に見たものや感じたものはないのか?」
晶の問いに加奈は首を振る。それ以上の芳しい答えは出なかった。
「典薬寮でもこういう話は聞いたことがあります。カミによる神隠しは意外と多いんですよ」
「そうね。でも、カミの領域に入ることはごく僅かの人間しか不可能なの。典薬寮もこの手の話には手を焼いているのが現実ね」
「本当に役に立たないな、典薬寮は」
「なによ、事実を言ったまでじゃない」
仲のよくない晶とエリカによる口論が始まってしまった。お互い口が立つので止める者がいないといつまで経っても喧嘩をしている。
「そこの二人、こんな時に喧嘩をするのはよそう」
こういう時、止めに入るのは大体珠洲か亮司だった。他の者は我関せずといった無関心な者と、面倒ごとを避けたい者が多いからだ。
「……すみません」
晶とエリカは声を揃えてその場にいるみんなに謝った。
「幸いなことに、ここにいるメンバーはみんなカミの気配を感知できる。チームで分けて捜索隊を組もう」
真緒、沙那、加奈の高千穂チーム、晶、陸の昔馴染みチーム、壬生兄弟チーム、亮司、保典、エリカの典薬寮チームの四つに分かれ、真緒を筆頭に結界を張ることにした。
真緒は探知能力に優れており、この中でも一番だと自負している。助けてもらった大切な妹である珠洲を救おうと意気込んでいた。
高千穂チームは北、昔馴染みチームは南、壬生兄弟チームは東、典薬寮チームは西と分けて、綿津見村のそれぞれに結界を張る。
相手はカミなのでカミの領域に全員が一気に近づくことはできない。
しかし、四方に固めて一瞬でもカミの世界に繋がれば、あちら側に入ることができるはずだ。それは真緒の見立てで初めての試みだから成功するか分からないが、明日の朝から始めることになった。
今日はもう夜遅くまで話し合っていたのだ。みんなそのまま高千穂家に泊まり、明日の朝までに体力を備えておくためゆっくり休むことにした。
その頃、珠洲はというと──。
暗い洞窟の中で薄ぼんやりと明かりが灯されているところで風のカミと相対していた。
「珠洲よ、そなたには感謝している。さあ、食べるといい」
「いいえ、いただけません」
珠洲はよもつへぐいを思い出した。カミ様の世界のものを食べたら、元の世界に戻れなくなってしまう。なんとなくそんな気がした珠洲は、いくらカミが勧めてこようと断固拒否した。
「まあよい、時間はたくさんある。珠洲、寒いだろう、こちらへ来なさい」
夏が過ぎ秋になった夜の洞窟は確かに寒い。珠洲は渋々明かりの方へとにじり寄った。
「なに、そう警戒するな。今はまだ何もしない」
「全く安心できないです」
「はは、面白い。妖に堕ちるところを救われたのは奇跡だと思っている。そんなことできるものは玉依姫くらいのものだろう。その力を欲しているわけではない、ただ、珠洲そのものが欲しいのだ」
美しい風のカミは隼人といい、先ほどからこうしてずっと珠洲を口説いていた。
しかし、珠洲には想い人がいる。その人でなければ愛の言葉を囁かれてもなんにもときめかない。
早く、ここから脱出しなければ。