亮司×珠洲

 放課後、人のいない図書室で図書委員の仕事をしている珠洲は、暇すぎて司書で恋人の亮司に質問を投げかけた。
「亮司さんはいつから私のことを好きになってくれたんですか?」
 それを聞いた亮司は瞬いてにこりと美しい笑みを浮かべた。
「知りたい?」
「知りたいです」
「じゃあ、言い出しっぺの珠洲から話して。そうしたら僕も教えてあげる」
 今度は珠洲が瞬く番だった。ついで赤面し、ぽぽぽと頬が赤く染まる。
「ずるいです」
「先に言い出したのは珠洲だろう? ほら、聞かせて」
 司書室に移動させられて椅子に座らされた珠洲は、隣に座った亮司の綺麗な顔を見つめては声にならない声を出すことしかできない。
「珠洲、教えて」
 耳元で囁かれてしまい、珠洲は艶のある声に腰がぞくぞくした。
「亮司さん、やっぱりずるいです」
「大人だからね、ずるいところもあるよ」
 いたずらっぽく笑う亮司に敵わないと思った珠洲は観念した。
「……私は、僕を信じろという亮司さんの言葉に救われました。時には亮司さんを信じることが難しい時でも、亮司さんの言葉を思い出して前に進めたことですかね……。でも、亮司さんの淹れてくれるお茶や亮司さんの声とか顔とか、結局全部好きです」
 あの時、つまり、豊玉姫と通じているという賀茂の言葉を聞いてショックで頭が回らなかった時である。悲しいことが重なって、それでも亮司を信じたいという気持ちの方が強かったから、彼を信じることができたのだ。
「珠洲……」
「全部好きはダメですか?」
 今度は珠洲が亮司の顔を覗き込む。彼は珍しく頬を染め、嬉しそうな顔をしているのが分かった。
「いいや、嬉しいよ。あの時珠洲が僕を信じてくれたから、僕も危険を冒してでも珠洲を救いたいと思えたのだから。……ありがとう、珠洲」
 亮司は珠洲の頭を撫でた。以前なら子ども扱いしないでと思っていた珠洲だが、それが亮司なりの愛情表現の一つなのだと気づいてからは素直に受け入れるようになった。
「はい、今度は亮司さんの番ですよ!」
「いいよ。僕はね、珠洲が水杜学院に入学してきて、図書委員として図書室や司書室で過ごすうちに、あの小さかった女の子が女性になったんだなと気づいてしまった時かな。愛らしい笑顔が美しいと思うようになってからは、感情を制御するのが大変だったよ」
 まさかそんな前から好きでいてくれていたとは思わなかった。いや、一年前には既に白い婚約を真緒と交わしていたのだから、時期的にはちょうどいいのだろう。あの婚約は目眩しで、本当は同じことを目標とする同盟だったと知って大変驚いたものだ。
 亮司の言葉を聞いて、珠洲は嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになる。胸にあたたかい感情が溢れ、にやにやしてしまいそうなのを必死に堪える。
 それをごまかすように、珠洲はわざとらしく隣の亮司に抱きついた。
「えへへ、嬉しい」
 珠洲がこうして甘えるのは滅多にないことなので、亮司は驚きつつも好きにさせていた。
「亮司さん」
「うん、なんだい?」
「大好き」
 不意打ちの言葉を食らった亮司は再び瞬いた。
 そして、にこりと微笑み珠洲を抱きよせた。
「可愛いことをしてくれるね」
「恋人同士のスキンシップです」
「そう。……ここは学校だからこれ以上はしないけれど、帰りは覚悟しておいてね」
 人差し指で唇をちょんとつつかれ「ここ、もらうから」と現にキスをするよと言っているみたいで珠洲は降参した。
 いつだって恋人の亮司には勝てないのだ。
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