晶×珠洲
「なあ珠洲、俺が悪かったよ。だから機嫌直せって」
「晶なんて知らないもん」
珠洲が怒っているのには理由がある。
先日から晶と男女交際を始めたが、まだ龍神の件を知らない女子生徒が晶に告白をしたからだった。
別に、そのことについて責めているわけではない。晶は昔から女子にモテていたし、遊び半分で付き合ったりしなかったことは好感が持てる。
しかし、珠洲が怒っているのはそのことじゃない。みんなの目の前で告白する女子は、きっと牽制の意味を込めて告白したのだろう。晶はどうするのかと珠洲は見守っていたのだ。
晶は彼女がいると言って断ったところまではよかった。問題は、彼女として珠洲の名前を出さなかったことだ。
下校時間になり、晶はいつものように「帰るぞ」と言って帰宅を促すが、珠洲は「一人で帰る」の一点張りだ。珠洲が怒っている理由に思い至った晶は気まずそうな顔をして珠洲の手を取り、冒頭に戻る。
「珠洲、なあ、珠洲」
「知らない」
繋がれた手は離さない。珍しく晶が人前でこういうことをしてくれたから。だからといって、これくらいのことで許したりはしないのだ。
「でも、よかったよ。お前がそんな風に感情を出してくれて」
晶の思わぬ言葉に珠洲は足を止めた。必然的に晶の足も止まる。
「どういう意味?」
「お前、いつの頃からか遠慮するようになったじゃねえか。でも、こうやって俺に怒りをぶつけてくれるのが嬉しくてさ」
幼い頃は玉依姫や自身の宿命について何も知らなかった。その時は晶とただの友達として遊んだりふざけたり、それこそ色んなことをしたものだ。玉依姫の血筋がゆえに己の置かれた立場に気づいてからは、何となく幼い時のように接することはできなくなっていた。
しかし、そんな珠洲が龍神の件以降きちんと感情を出すようになった。それが晶には嬉しいのだ。
「そ、そんなこと言ったって許さないんだからね」
「村は亮司さんが少しずつ変えてくれるだろうし、珠洲を支える仲間だっている。それに、俺言ったよな、お前を幸せにするって。まだ因縁の残っている状況で珠洲を困らせたくなかったんだよ。なあ、珠洲、お前の気持ちを汲まなくて悪かったって反省してる」
珍しく晶が焦っている。繋がれた手はそのままで、片手でジェスチャーをしてどうにか珠洲に許されたいという気持ちが伝わる。それがおかしくて、珠洲はくすくす笑った。
「おい、笑うことはねえだろ」
「だって、晶、必死なんだもん」
「そりゃあ必死にもなるだろ。か、彼女が怒ってるんだから」
頬を赤くさせながら、むっつりとした顔で珠洲を見つめる晶が可愛く見えた珠洲は、ここまで謝ってくれたので許してあげようかなという気になってきた。
でも、あともう一押し欲しい。珠洲は、晶の彼女なのだから。
「しょうがないな、許してあげる」
「本当か?」
「うん。その代わり、今キスして」
「な……!」
わがままを言ったっていいんだと教えてくれたのは晶自身だ。珠洲がわがままを言うのも、過去を乗り越えて今を生きているから。
珠洲は目を閉じて少し上を向く。
「晶、早く」
「……ったく、俺のお姫様はわがままだな」
それからしっとりした感触が唇に伝わる。何秒か触れたまま、そして、角度を変えて唇を食まれる。珠洲も晶を真似るように唇を動かす。
キスをしている途中人の視線や気配があったが、晶は構うことなくキスをしてくれているので、珠洲も大胆になることができた。
「これで満足したか? 姫」
「満足しました」
「それならよかったよ。……明日には俺らのことが出回っちまうんだろうな」
「もう怖いものなんてないもの、私はいいよ」
命をかけた戦いを経験した珠洲は、もはや怖いものなしだ。絶対的な味方は守護者以外にも、エリカや賀茂といった頼れる友人がいる。珠洲はひとりぼっちじゃない。
「でも、珠洲が前を向いてくれたのならよかったよ。俺はそれだけで嬉しいんだ」
「私、もっとすごいわがまま言うかもよ?」
「おーおー、言ってみろ。どれも俺が叶えてやる」
「……ありがとう。晶、大好きだよ」
「ん、俺も」
次の日。学校に着けば至るところから視線が突き刺さる。でも、もう怖くない。珠洲には晶がいる。仲間がいる。それだけで前を向いて歩けるのだから。
「グッドモーニング、珠洲! ねえ、昨日道端で晶とキスしてたって噂、本当なの!?」
親友のエリカに詰め寄られ、珠洲は若干のけ反る形になるが、うんと頷いた。
すると、クラスや野次馬の人達は阿鼻叫喚し一気に騒々しくなった。
「やだ、珠洲ってばやるじゃない! あの二重人格男をついにその気にさせたのね!」
「誰が二重人格男だ」
珠洲とエリカの元に晶がやってきた。晶の珠洲を見つめる瞳はとても優しく、それだけで心構えが変わったことを理解したエリカは「ふうん」と頭からつま先まで晶を見やった。
「あら、自覚してたのね。晶、どうか珠洲を守ってね」
「当たり前だろう。珠洲は俺の彼女なんだから」
彼女。あの晶がついに珠洲を彼女と認めて口にした。それがどれだけ難しいことであるか分かっている。でも、晶はどこか吹っ切れたようで清々しい笑みを浮かべていた。
晶もいつの頃からか遠慮するようになっていた。それはお互い様だ。こうしてお互い腹を割って話し、辛い過去も乗り越えて今がある。それがどれだけ尊いことなのか珠洲も理解している。だからこそ、嘘偽りのない晶の言葉が嬉しかったのだ。
それからクラスメイトに質問攻めにされた晶を遠くから見守り、晶同様エリカから質問攻めをされる珠洲は戸惑いこそすれど悪い気はしなかった。
「晶なんて知らないもん」
珠洲が怒っているのには理由がある。
先日から晶と男女交際を始めたが、まだ龍神の件を知らない女子生徒が晶に告白をしたからだった。
別に、そのことについて責めているわけではない。晶は昔から女子にモテていたし、遊び半分で付き合ったりしなかったことは好感が持てる。
しかし、珠洲が怒っているのはそのことじゃない。みんなの目の前で告白する女子は、きっと牽制の意味を込めて告白したのだろう。晶はどうするのかと珠洲は見守っていたのだ。
晶は彼女がいると言って断ったところまではよかった。問題は、彼女として珠洲の名前を出さなかったことだ。
下校時間になり、晶はいつものように「帰るぞ」と言って帰宅を促すが、珠洲は「一人で帰る」の一点張りだ。珠洲が怒っている理由に思い至った晶は気まずそうな顔をして珠洲の手を取り、冒頭に戻る。
「珠洲、なあ、珠洲」
「知らない」
繋がれた手は離さない。珍しく晶が人前でこういうことをしてくれたから。だからといって、これくらいのことで許したりはしないのだ。
「でも、よかったよ。お前がそんな風に感情を出してくれて」
晶の思わぬ言葉に珠洲は足を止めた。必然的に晶の足も止まる。
「どういう意味?」
「お前、いつの頃からか遠慮するようになったじゃねえか。でも、こうやって俺に怒りをぶつけてくれるのが嬉しくてさ」
幼い頃は玉依姫や自身の宿命について何も知らなかった。その時は晶とただの友達として遊んだりふざけたり、それこそ色んなことをしたものだ。玉依姫の血筋がゆえに己の置かれた立場に気づいてからは、何となく幼い時のように接することはできなくなっていた。
しかし、そんな珠洲が龍神の件以降きちんと感情を出すようになった。それが晶には嬉しいのだ。
「そ、そんなこと言ったって許さないんだからね」
「村は亮司さんが少しずつ変えてくれるだろうし、珠洲を支える仲間だっている。それに、俺言ったよな、お前を幸せにするって。まだ因縁の残っている状況で珠洲を困らせたくなかったんだよ。なあ、珠洲、お前の気持ちを汲まなくて悪かったって反省してる」
珍しく晶が焦っている。繋がれた手はそのままで、片手でジェスチャーをしてどうにか珠洲に許されたいという気持ちが伝わる。それがおかしくて、珠洲はくすくす笑った。
「おい、笑うことはねえだろ」
「だって、晶、必死なんだもん」
「そりゃあ必死にもなるだろ。か、彼女が怒ってるんだから」
頬を赤くさせながら、むっつりとした顔で珠洲を見つめる晶が可愛く見えた珠洲は、ここまで謝ってくれたので許してあげようかなという気になってきた。
でも、あともう一押し欲しい。珠洲は、晶の彼女なのだから。
「しょうがないな、許してあげる」
「本当か?」
「うん。その代わり、今キスして」
「な……!」
わがままを言ったっていいんだと教えてくれたのは晶自身だ。珠洲がわがままを言うのも、過去を乗り越えて今を生きているから。
珠洲は目を閉じて少し上を向く。
「晶、早く」
「……ったく、俺のお姫様はわがままだな」
それからしっとりした感触が唇に伝わる。何秒か触れたまま、そして、角度を変えて唇を食まれる。珠洲も晶を真似るように唇を動かす。
キスをしている途中人の視線や気配があったが、晶は構うことなくキスをしてくれているので、珠洲も大胆になることができた。
「これで満足したか? 姫」
「満足しました」
「それならよかったよ。……明日には俺らのことが出回っちまうんだろうな」
「もう怖いものなんてないもの、私はいいよ」
命をかけた戦いを経験した珠洲は、もはや怖いものなしだ。絶対的な味方は守護者以外にも、エリカや賀茂といった頼れる友人がいる。珠洲はひとりぼっちじゃない。
「でも、珠洲が前を向いてくれたのならよかったよ。俺はそれだけで嬉しいんだ」
「私、もっとすごいわがまま言うかもよ?」
「おーおー、言ってみろ。どれも俺が叶えてやる」
「……ありがとう。晶、大好きだよ」
「ん、俺も」
次の日。学校に着けば至るところから視線が突き刺さる。でも、もう怖くない。珠洲には晶がいる。仲間がいる。それだけで前を向いて歩けるのだから。
「グッドモーニング、珠洲! ねえ、昨日道端で晶とキスしてたって噂、本当なの!?」
親友のエリカに詰め寄られ、珠洲は若干のけ反る形になるが、うんと頷いた。
すると、クラスや野次馬の人達は阿鼻叫喚し一気に騒々しくなった。
「やだ、珠洲ってばやるじゃない! あの二重人格男をついにその気にさせたのね!」
「誰が二重人格男だ」
珠洲とエリカの元に晶がやってきた。晶の珠洲を見つめる瞳はとても優しく、それだけで心構えが変わったことを理解したエリカは「ふうん」と頭からつま先まで晶を見やった。
「あら、自覚してたのね。晶、どうか珠洲を守ってね」
「当たり前だろう。珠洲は俺の彼女なんだから」
彼女。あの晶がついに珠洲を彼女と認めて口にした。それがどれだけ難しいことであるか分かっている。でも、晶はどこか吹っ切れたようで清々しい笑みを浮かべていた。
晶もいつの頃からか遠慮するようになっていた。それはお互い様だ。こうしてお互い腹を割って話し、辛い過去も乗り越えて今がある。それがどれだけ尊いことなのか珠洲も理解している。だからこそ、嘘偽りのない晶の言葉が嬉しかったのだ。
それからクラスメイトに質問攻めにされた晶を遠くから見守り、晶同様エリカから質問攻めをされる珠洲は戸惑いこそすれど悪い気はしなかった。
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