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産んじゃいました!?



「刀解して下さいぃぃぃいっ!」

 叫びながらいきなり畳に半泣きで突っ伏した俺に

「何意味わからん事言ってんの?!つか、その理由を言いなよっ!!」

と、主は驚きわざわざ傍に来て背中をバシバシと撫でながら優しく理由を聞いてくれた。

 通常であればこうして優しく労わってくれる主に(by長谷部目線)天にも登る気持ちなのだが、今は違う意味で昇天しそうだ。

何故って俺は、男体として有り得ない事を成してしまったからだ。

そしてその理由を聞かれて『俺は下から卵を産んでしまったエッチでいやらしい刀だったからです!』(教示by光忠)等と普通に主に言える訳が無い!

どうするへし切長谷部?!
理由を言わねば刀解して貰えないのであればっ……!

 よし、腹を切ろう。

俺は突っ伏していた畳からがばりと身を起こし、勢い良く寝着の袷をはだけて上半身をさらし、左腕を上げて本体を呼び寄せた。

「ちょっ…え…何すんのさ!や、これマズイ!加州、加州ーーーーっ!!」

 本体が見えた辺りで察した主が狼狽えて本日の近侍加州清光を呼んでいる。早く腹を切らねば。
素早く鞘を滑らせ本体を取り出し跪坐の体勢になり一息に左の腹を突いた。

「ちょっ、何してんのさっ!!」

 後少しで鋒が腹にとどく、という所で主の叫び声を聞きつけた加州が近侍室から躍り出て自らの鞘で俺の腕を薙ぎ払い、抜き身の俺は座敷の奥に飛んで行った。

「やめろ加州。俺は腹を切らねばならん」

「はあぁぁあっ?!あんた何言ってんの?やめろはこっちのセリフだっつーの!!なんで切腹しようとしてんのさっ!」

 加州は顳顬に青筋を立てて物凄い形相で俺を睨んでいる。何故だ。

「待って!二振り共、落ち着こ?ね?」

奥に転がっていた俺の本体と鞘を主が拾い上げ丁寧に納め様としたその時。

「主、ちょっといいかい?」

今最も聞きたくない声が最悪のタイミングで一人と二振りの耳に届いた。

 主と俺はまるでシンクロでもしたかの如く猫の様にビクリと肩を跳ね上げ驚き、そしてこの座敷の惨状―座布団は障子の端に飛びお茶は溢れ、投げた俺の鞘か加州に薙ぎ払われた本体が花瓶にぶつかり側面だけ割れ周りは水浸し。生けた花はなんとか残った―を各々が確認し一瞬にして青くなった。

『ど…どうしよう…』

『え?どうするってどういうこと、意味わかんないんだけど!』

 主は座敷の奥、加州は俺の後ろで何がなんだか解らないながらも小声でやり取りしているが、何故か巻き込まれただけの加州が一番慌てている。

 俺はと言えば光忠を振り切って部屋を出て来た経緯があるだけに格段にヤバい。
ちなみに主は部屋の汚れ具合に怯えている。この間仕事の片付けをせずその書類の上で遊んで汚し光忠にこっぴどく怒られたからだ。

とにかく落ち着け、この状態で一番最初にやらねばならん事はなんだ?考え……

 TA・MA・GO!!

そうだ、コイツの件で俺は主にお目通り願ったんだ!蒼白になり素早く視線を巡らせば先程まで主がお座りになっていたお座布の上にちんまりとお座りしていたふざけんな。即座に上半身を動かし卵をひっ掴む。この場はとりあえず逃げて光忠がいなくなってからもう一度来ようそんな事を考えていたら。

「ねぇ主…そこに長谷部君、いるよね」

先より一段低い怒った時と同じ声音でゆっくりと俺を呼ぶ。主に聞いている体でその実、ここに居ると確信を持って聞いているのだ。恐っ!!

 その声を聞き今だ俺の本体を鞘に戻す事も出来ずに固まった主はそれでも、卵の事は光忠には内緒だったと気付きどうするのかと視線を送ってくれた。
逃げる気満々だった俺は既に半裸のまま片手に卵を握りしめ四つ這い状態で近侍部屋へと頭を向けており、小さく頷きそろそろと動き出し、主は返事をしようと口を開けたが。

「ねぇ、長谷部君。今、素直に出て来てくれたら君も主も許してあげる」

 俺と主、何故か加州まで固まった。

「でも、このまま籠城するなら主の事はつるさんに言い付けるし、長谷部君は…キツイお仕置が待ってるけどどうする?」

 俺は素早く立上って障子を開け放ち

「すみませんでしたー!!」

と、スライディング土下座で謝った。

 後に加州から聞いたが、『その時の長谷部は動体視力が追えない程の速さだった』と言う。

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