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産んじゃいました!?

天使の道標


やっと治まった僕の太刀をスラックスの上からトントンと優しく叩く。
ごめんね、出番はもうちょっと先なんだ。
その時が来たらいつも通りよろしく頼むねと宥めてから良しと立ち上がる。

さて、長谷部君を捕獲みつけに行かないとね!

縁側から沓掛石に降りサンダルに足を入れる。燕尾を脱いだだけの格好には合わないけど、今は長谷部君優先だから我慢しよう。

さっき僕に謝りながら走っていった方向はこっち。
つまり、中庭を横断して行ったんだよね。
この離れから中庭を抜けて一番早くに着くのは本丸の中心部から少し離れた主の居住区と執務室、近侍部屋等がある管理棟だ。

あの様子だと今日の近侍の加州君にも見せられないと思うから、多分主の執務室…かな?

間違えてたら主くんに加勢して貰おう。
その方が捕ま…ゴホン、見つけるのが早くていいしね。足早に歩き出す。

さっきはちょっと昂ってへんな事考えちゃったけど、実際長谷部君に何があったんだろうか。僕に隠すって事自体、そもそもおかしな話しだ。要は僕に見られたく無い物があるって事でしょ。嘘を付くのが下手だって自分でも解ってるから今までそんな事一回もなかったのに。

んー…本当になんだろう。
お腹を抑える…隠す…何か、ある…持ってる……何を?そんな堂々巡りをしていたら、スラックスの裾をぐいと引かれ、驚いて声をあげてしまった。

「うわ!」

勢い、転びそうになった体を慌てて立て直し足元を見てみたら五虎退君の虎君二匹がスラックスの裾に噛み付いていた。

「あーびっくりした。裾なんか噛んでどうしたんだい?」

戯れ付いているのかと思ったけど、僕が立ち止まって話し掛けたら一匹は離して顔を見上げ、もう一匹はさっきよりも弱くだがぐいぐいと引っ張ったままだ。
……こっちに来いって言いたいのかな?

そう思いそちらに顔を向けてみるとこの子達の主である五虎退君が走って来た。

「うわぁ!すみません!虎君がおズボン噛んでしまって…」

虎君ダメだよぉ、なんて言いながら足元にいた二匹を回収している。

「ふふっ。構わないよ」

笑いながら言ってあげれば、すみませんすみません、て頭を下げてくる。
その腕の中でも裾を噛んでた子はまだ何か僕を見ながらガゥガゥ言ってる。何かお願い事でもあるのかな?

「ねぇ、虎君は何か僕にして欲しい事があるのかい?」

目線が同じになる様に片膝を付き五虎退君と虎君の頭を撫でながら聞いてみた。

「…?いえ、僕はありませんが…どうしてですか?」

「いや、虎君が君の方に引っ張って行こうとしてたみたいだから、何かあったのかなって」

彼は不思議そうな顔をして僕を見ていたけど最後の言葉を聞いた時に、あ! と声をあげた。いつもの笑顔で先を促す様に首を傾げれば、こんな事を言って来た。

「あ、あの、あの、さっき長谷部さんがすごく恐いお顔をして、走って行かれたんです」

あらー、長谷部君てばあの勢いのまま、この短刀君達が良く遊んでる中庭を走り抜けて行ったんだ。そりゃ吃驚もするよね。

「それで、あの、長谷部さんに何かあったのかなって思って、でも、燭台切さんにお話ししてもいいのかな、って…」

あーあーなるほど。長谷部君があまりにも凄い顔と勢いで走っていったから五虎退君は長谷部君に何事かあったのではと。

で、僕に言った方が良いだろうなと思ったけど走って来たのが僕達の部屋の方からだから、これはどうしたものかと考えてたら、虎君が先に行動起こして僕を五虎退君の所に連れて行こうとしたって訳ね。

「ふふっ、気を遣わせちゃったかな?」

「あっ、いえ、そんな事…」

「喧嘩はしてないから大丈夫だよ。でも、実は僕もなんであんなに必死に走って行ったか分からないんだよね」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。理由が分からないから見つけて話しをしようと思ってるんだ」

「そうだったんですね。喧嘩とかじゃなくて良かったです」

本当に心からそう思っていると分かる、ふんわりとしたそしてとても嬉しそうな笑顔が溢れる。一期君がたまにおかしくなってるけど多分こんな顔をいきなり見せられるから悶絶してるんだろうな。気持ちがわかったよ。

「僕と長谷部君は喧嘩も何もちゃんと話し合って解決してるんだ。だからもし、今回みたいな事があったら遠慮なく僕に話して欲しいな」

「わかりました!じゃあ、次からはご報告しますね」

「うん。よろしくね」

よし。これで何かあった時は五虎退君から情報が貰える。なんて素敵な展開なんだろう!僕の長谷部君への愛が呼びよせたんだよね。

「それで、長谷部君はどっちに行ったのかな?」

「あ、あっちの大きな松の方に。…もしかして主様の所でしょうか」

五虎退君も同じ事を思ったみたいだ。

「そうだね。主くんの所だったら安心かな」

「はい。主様と一緒なら長谷部さんもお話ししてくれますよね」

「うん、五虎退君ありがとね」

「では、失礼しますぅ」

虎君達を連れて走って行った後ろ姿を見守り僕は思う。大人はねなんでも主に話すっていうのはダメな場合もあるんだよ、と。
彼が気遣ってくれたのが分かるから余計に情けなくなってしまった。

ああ、長谷部君。
なんで先に主だったのかなあ……



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