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体に巻き付けたシーツのような布切れを引きずった半裸の女が、蒼天堀を歩いていた。
ざわめき、しかし遠目から見つめるだけの群衆。
「可那子ちゃん!?」
その中から声が上がる。
発したのは、出張で蒼天堀に来ていた秋山だった。
秋山は女に駆け寄り、ふらつく体を抱き止めた。
女の目はゆっくりゆっくり声の主を捉える。
そして、
「私を、…見ないで…」
弱々しくそう呟くと、そのまま気を失った。
確かに可那子だった。
『堂島さんとお付き合いすることにしました』
そのメールを残して姿を消した可那子。
目撃情報もなく手がかりすら掴めないままひと月が経っていた。
しかし保護した時の可那子の様子を見ている秋山は、可那子捜索に尽力してくれている伊達や谷村に申し訳ないと思いながらもすぐに連絡することができなかった。
代わりに不自然にならない理由を作って花を蒼天堀に呼び、到着してから事情を知った花が秋山の代わりに病院の説明を受けた。
膣の傷付き方が普通じゃないこと、複数の体液が検出されたこと、今は妊娠していないがもう少し経たないとはっきりとは分からないこと…。
可那子には、以前付き合っていた男からDVを受け必死に逃げ出してきたという遠くない過去があった。
今回可那子を拉致監禁した奴がその男だという証拠はないが、花は犯人に憤りを覚えながらも遥を呼ばなかったのは正解だったとひとり涙をこぼしたのだった。
ベッドの上で点滴を受けながらぼんやりと天井を見上げていた可那子は、どう声をかけていいか分からず病室の入り口に立ちすくむ花に気付き、入って、と手招きしてにこりと笑った。
「迷惑かけちゃってごめんね、ありがとう」
「それにしてもほんと、逃げ出せたのは運が良かったと思うの」
「秋山さんが見つけてくれたのも運が良かったよね、秋山さんにも謝ってお礼言わなくちゃね」
やつれた顔で、それでも笑みを作り気丈に話す可那子に答えることができずに花は
「うん、帰ってきてくれて本当によかった。でも今日はもういいから休んで?ね?」
その手を握りしめて言葉を絞り出した。
すると可那子は花ちゃん、と小さく呼んだ。
「堂島さんに、伝えてほしいの…。ごめんなさい、やっぱりお付き合い、できませんって…」
無理して作っていた笑みは既にかけらも残っていない。
それを押しのけてあふれこぼれ落ちた涙が、次々と枕へ吸い込まれていく。
ようやくかさぶたになりつつあった傷は容赦なく抉られ、またぱくりと口を開けて血を流していた。
付き合うことにしたというメールから少し前の既に恋人らしいふたりを思い出し、しかし考え直してなどとは口が裂けても言えず、悔しくて犯人が憎くて、花も泣いた。
5日後、検査入院を終えて可那子は退院した。
ただ、帰る場所は東京ではなく大阪のマンスリーマンション。
自宅療養とは言えまだ通院の必要があり、東京の病院を紹介するという話も可那子自身が断ったためだった。
しかし可那子は同時に東京のアパートも引き払い、別のアパートへと荷物の引っ越しのみ済ませていた。
「もう、堂島さんとは会わないつもりなの?」
入院中にそれを頼んだ花にそう訊かれた時、可那子は哀しげに笑っただけだった。
同時に秋山は、可那子が落ち着くまで待ってくれと止めていた警察への連絡を伊達を通して進めた。
彼らの活躍によりこちらの方は容疑者たちの即時身柄拘束となり、秋山も花もほっと胸をなでおろしたのだった。
更に3日ほど経った後秋山と花は東京へ戻り、大吾、桐生、遥たちに可那子が見つかったことを告げた。
遥にだけは後で可那子の新しい携帯の番号も教えると約束した花は、すぐにでも飛び出して行ってしまいそうな大吾を引き止めていた。
花は可那子の伝言を伝える。
しかし大吾はそれでも、と出て行こうとする。
「もう退院したので、行っても会えません。それに…可那子ちゃんは、会いたがっていないです…」
苦しそうな花の言葉にも耳を貸さず、大吾は大阪へと向かった。
しかし花の言葉通り、既に退院してしまっていた可那子には会えず、東京のアパートも空き部屋になっていることを知り愕然とするのだった。
数日後、ひと月前より更に大吾の様子がおかしい、部下に対して示しもケジメもつかねえと柏木から相談を持ちかけられ、見かねた桐生は大吾を飲みに連れ出した。
「会って、目を見て話したいんです。最後になったとしても、可那子自身から本心を聞きたいんです」
そう言う大吾に気持ちは分かるが、と苦言を呈す桐生だったが、吐き出された悲痛な想いに胸が締めつけられるようだった。
「こんなんじゃ、諦めきれねえよ…!!」
部屋に戻った桐生は、迎えてくれた遥に訊いた。
「なあ遥、やはりどうしても教えてはやれないか…?」
桐生の言葉に大吾もギリギリなのだと悟った遥は、壁のカレンダーを見た。
今は月の半分を過ぎたばかり。
「可那子ちゃんね、今はまだ大阪にいて…今月もう1回検診に行くの。検診は午前中。…ごめんね、これ以上は言えない…」
申し訳なさそうに言う遥に桐生は首を振って見せた。
「いや十分だ。ありがとうな、遥」
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