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「おかえり、おじさん」
「ああ」
笑顔の遥に短く返した桐生は、上着を脱ぎながら訊いた。
「遥、お前今日神室町にいなかったか?」
「うん、いたよ。なんだおじさんもいたの?声かけてくれたらよかったのに」
「いや、俺は車で通っただけでな。それより一緒にいたのは?」
桐生は遥と一緒だった遥より少し年上の女性ふたりを思い出しながら続けて問う。
そのうちひとりはスカイファイナンスの花だと分かっていた。
しかしもうひとりの女性は初めて見る顔だった。
「あ、可那子お姉ちゃんのこと?可那子ちゃんは花ちゃんのお友達で、少し前に大阪から引っ越してきたんだって。すごく優しいお姉ちゃんだよ」
遥の答えに桐生は、今日一緒にいて桐生より先に遥に気付いた大吾のその後の表情を思い出しながら、余計なお世話かと思いながらももうひとつ訊いた。
「その可那子と…知り合うことは可能か?」
「誰かに紹介、とかそういうこと?」
桐生の問いを的確に理解した遥の表情が曇る。
「可那子ちゃんね、心に傷があるの。だから紹介することはできない、かな」
「そうか、だったら無理強いはできないな」
しかし遥は、すぐに理解を示した桐生を見ながらある希望的観測を抱いていた。
可那子の傷がどんなものなのか、以前付き合っていた男性に関係してるということくらいしか遥は知らない。
しかしそれを忘れるために東京に出てきたとも言っていた。
男の人が全部同じだなんて思いたくない、とも。
前へ進みたいと思う可那子と、信頼してやまない桐生、そしてそんな桐生を取り巻く人たちを思い浮かべながら遥は、ひとつの提案をした。
「…みんなで飲み会なんて、どうかな?」
***
親代わりの桐生を紹介したいという遥の申し出を可那子は快諾した。
だったら、とオーナーの厚意でホストのいないホストクラブを場所として提供してもらえるということで花から飲み会を提案され、ホストクラブという場所に興味を示した可那子を連れて遥たちはそこにいた。
ホストクラブ・スターダスト。
メンバーはスターダストオーナーの一輝、店長のユウヤ、そして桐生、遥、大吾、秋山、花、伊達、谷村。
全員を紹介してもらった後、可那子はオーナーの一輝にホスト体験をさせてもらった。
しかし恥ずかしすぎて早々にリタイヤし、その後は楽しげに騒ぐメンバーたちをまぶしげに眺めながら用意されたカクテルをちびちびと飲んでいた。
「疲れたか?」
その時ふいにそう訊かれ、可那子は声の主を見る。
「えっと、…堂島、さん…」
そこに立っていたのは大吾だった。
大吾はワインの注がれたグラスを差し出しながら、可那子の向かいのソファに腰掛けた。
ありがとうございます、とそれを受け取ってから可那子は、
「大丈夫です、すごく楽しいですし。気を遣っていただいてありがとうございます」
そう答えてにこりと笑う。
「いつもこんな感じなんですか?」
極道と警察、ホストに金貸しという職業のラインナップにいまだに信じられないという気持ちを抑えられず、可那子は訊いた。
「そうだな、俺はあまり参加できないが、大抵はこのメンバーだ。よければまた遥ちゃんたちと参加するといい」
「はい、ぜひ」
この時大吾の勧めに即答した可那子は、自分がこのメンバーにあまり警戒していないことに気付き、驚いていた。
その後しばらくは他愛もない話をしていたふたりだったが、ふと会話が途切れた時可那子はまた、楽しそうな彼らを見つめ静かに微笑んだ。
「――、…だな」
「え?」
「いや、すまない忘れてくれ」
無意識に出た言葉だった。
こちらに向き直った可那子に訊き返され、はっとして大吾は席を立った。
大吾の背中を見送っているとさっきの言葉が蘇り、頬が熱くなるのを感じた可那子は自分の頬を両手で押さえた。
「可那子ちゃん、堂島さんに何かされた!?」
様子がおかしい可那子に遥がそう訊くと、可那子は首を振って答える。
「ううん大丈夫だよ、ただ…」
「ただ?」
「――…っ、」
しかしその後、口を開きかけた可那子は慌てて立ち上がるとごめん、とひと言告げパウダールームへと駆け込んだ。
「お前…可那子に何したんだ?」
遠目でその様子を見ていた桐生が大吾に問う。
「何もしてねえよ!…ただ、綺麗に笑うんだな、って…気付いたら口走ってた…」
そのやり取りを耳ダンボで聞いていた遥と花。
もちろんけしかけたりはしないが、可那子が進みたいと思うなら――…背中を押してあげたいとふたりは思っていた。
今後ともよろしくという意味も込めて、全員と連絡先を交換した可那子。
自分からはなかなか積極的に連絡を取るということはできなかったが、困ったことはないか、などとまめに連絡をくれる大吾には少しずつ心を許すようになっていた。
初めて神室町で見た時に、大吾は可那子に一目惚れした。
その大吾の想いは、この頃すでに自分自身でもどうしようもないほど強くなってしまっていた。
しかし好きだと思うのと同じかそれ以上に可那子が大事すぎて、ふたりで会おうということすら言い出せないほどだった。
ずっとメールのやり取りで、会うのはたまの飲み会の時だけ。
それでも雰囲気は恋人同士なのに、付き合ってなどいないという。
伸ばしたお互いの手を少し内側に動かせば触れ合えるのにと、じれったすぎるふたりの関係にさすがに焦れた遥と花はある計画を立てた。
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