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可那子side
部屋に着いた途端、張りつめていた気持ちが切れて涙が溢れた。
痛烈に後悔していた。
声なんかかけなければよかったと。
私は堂島に嘘をついた。
あの頃の気持ちを浄化なんてできるはずないのに。
だって私は、堂島がものすごく好きだった。
高校の頃を思い出せば出すほど、同じだけ、ううんそれ以上に――好きという気持ちも溢れ出してしまって、おかしくなりそうだった。
高校の頃は触れたら切れそうな空気を纏っていた堂島。
そういうものに対して憧れみたいな感情もあったのかもしれないけれど、そんなところがすごく好きだった。
再会した時、あれからもずっと極道という世界で生き色々な経験をしてきただろう堂島の纏う空気は高校の時よりももっと強いものになっていた。
けれどその中には昔は分からなかった優しさが見え隠れして、そんなところに更に惹かれてしまっている自分に私は気付いていた。
来なければいいのにと願った生理も来てしまって、もう本当に堂島と繋がるものは何もない。
「ふ、ぁ…あぁ、もう、…っん、だい、ご…っ!」
私はあの夜を思い出しては自分で自分を慰めた。
最後は呼んだことのない名前を呼びながら果て、そして虚しさと苦しさと切なさに身勝手に涙をこぼすのだった。
***
それからひと月以上も過ぎた頃、堂島への想いを持て余しながらも日々の生活に追われていた私に、ある問題がのしかかっていた。
「何度も言ってますけど、私には好きな人がいるんです」
「でも片想いでしょ?俺ならそんなツラい想いさせないからさ、ね?」
そう言って食い下がってくるのは、少し年上の同僚。
以前から想いは告げられていたが、ずっと断り続けていた。
にも関わらずアプローチはここ最近更に強くなってきていて、ついに今日は外回りから直帰したと思っていた彼にマンション前で待ち伏せされてしまっていた。
「――…っ!や、お願いです離して…っ」
失礼しますとその場から逃げようとした私は、強い力で手首を掴まれて思わず声を上げてしまいそうになる。
堂島の力強い優しさに触れて忘れかけていた恐怖が、瞬間的に脳裏に鮮明に蘇ったからだった。
「おい、いい加減にしとけよ」
その時、静かな声が響いた。
「!?…堂島…っ!」
パニックをおこしかけていた私は、突然のことに力の緩んだ同僚の手を必死で振りほどきながらそちらへ駆け寄った。
堂島はぐっと私の体を自分の背後に庇い入れてくれて、私はその大きな背中にしがみつく。
「なんだお前は!」
「怯えてんのに気付かねえのか。分かってやってんだったら、いい趣味じゃねえぞ」
背中から直接伝わってくる静かだけど低く響く声を聞いていたら、呼吸はすぐに落ち着き震えも治まってくれた。
「お前には関係ないだろう!俺は蔵本さんと話をしてるんだ、そこを…、!?」
同僚は初めこそ強気な口調だったが、少しの間があったと思ったら、はは、と弱々しく笑いながら呟く。
「いやいや、やだな蔵本さん、こんな人と知り合いならそう言っといてくれないと」
そのまま遠ざかっていく足音を聞きながら、たぶん堂島のスーツのバッヂを見たんだろうなとぼんやり考えているうちに気持ちも落ち着いていた。
「おい、蔵本大丈夫か?顔色悪いな、…思い出しちまったんだろ?」
ふう、と息を吐いた堂島が振り返ると同時に私がその手を離すと、堂島は心配そうに訊いてくれる。
「うん、…少しだけ。でももう大丈夫、ほんとにありがとう堂島…」
私はそう答えて笑って見せたあと、ようやく本来初めに浮かぶだろう質問を口にする。
「でもどうして、こんな所に?」
すると堂島は真剣な表情で問い返してきた。
「偶然だと…思ってるわけじゃねえだろ?」
「…っ、」
期待していなかったと言えば嘘になるけれど、それでも言葉に詰まってしまった私に堂島は言う。
「どうしてももう一度逢いたくてお前を捜した。…正直高校時代のことは思い出すことはなかった、いい思い出なんて大してねえからな。だがあの夜…俺の腕ん中で泣いてた女のことは、忘れたくても忘れられねえんだ」
「堂、島…」
「もう二度とあんな風に怯えてほしくねえ。何があっても俺が守るから…俺のものに、なってくれねえか…」
その言葉に涙が溢れた。
けれど同時に零れ落ちたのは、その日までの苦しかった気持ちだった。
「私は――、こんな思いするくらいなら、声なんてかけなきゃよかったって、後悔した…!」
堂島の想いを知った私はただ頷けばいいだけなのに。
なぜだろう、堂島の気持ちに返事をしたつもりなのに…おかしな告白になってしまった。
だけど堂島は優しく微笑んで、今は?と訊きながら私の頬にそっと触れる。
「今もまだ、後悔してるか…?」
言葉にならず首を振ることしかできない私を、堂島は優しく抱きしめてくれた。
***
堂島の気持ちを知ってしまったらどうしても離れがたくて、時間があるならと私は堂島を自分の部屋に誘った。
「いい眺めだな」
「うん、これが気に入ってこのマンションにしたの」
窓の外に広がる景観を眺めて言う堂島に答えながらしばらくそれに見入ってしまって、私ははっと気付く。
「ごめん、適当に座ってて。コーヒーでも淹れるから」
けれどそう言って離れようとした私の腕は堂島に掴まれていた。
「堂島…?」
「俺も後悔してた。…あの夜お前を帰してしまったことを」
「…っ」
真剣な瞳と、それとは裏腹な苦しげな声に言葉が出なくなる。
「でも俺ももう、後悔しなくていいんだよな?」
堂島が訊いてくる。
今は?と堂島が私に訊いてくれたように私も堂島の不安を取り除いてあげたくて、そしてYESの意味を込めて、私は堂島の問いに問いで返した。
「大吾って、呼んでいい…?」
それが答えだと理解してくれたらしい堂島は僅かに見開いた瞳をすぐに細めて、やわらかく笑ってくれた。
伸ばされた手に頬をなでられ、溢れそうな涙を私はこらえる。
「もちろんだ。愛してる、可那子…」
そう言って重ねられた唇のあたたかさに、けれど結局涙は留まってはくれなかった。
(16,6,21)
部屋に着いた途端、張りつめていた気持ちが切れて涙が溢れた。
痛烈に後悔していた。
声なんかかけなければよかったと。
私は堂島に嘘をついた。
あの頃の気持ちを浄化なんてできるはずないのに。
だって私は、堂島がものすごく好きだった。
高校の頃を思い出せば出すほど、同じだけ、ううんそれ以上に――好きという気持ちも溢れ出してしまって、おかしくなりそうだった。
高校の頃は触れたら切れそうな空気を纏っていた堂島。
そういうものに対して憧れみたいな感情もあったのかもしれないけれど、そんなところがすごく好きだった。
再会した時、あれからもずっと極道という世界で生き色々な経験をしてきただろう堂島の纏う空気は高校の時よりももっと強いものになっていた。
けれどその中には昔は分からなかった優しさが見え隠れして、そんなところに更に惹かれてしまっている自分に私は気付いていた。
来なければいいのにと願った生理も来てしまって、もう本当に堂島と繋がるものは何もない。
「ふ、ぁ…あぁ、もう、…っん、だい、ご…っ!」
私はあの夜を思い出しては自分で自分を慰めた。
最後は呼んだことのない名前を呼びながら果て、そして虚しさと苦しさと切なさに身勝手に涙をこぼすのだった。
***
それからひと月以上も過ぎた頃、堂島への想いを持て余しながらも日々の生活に追われていた私に、ある問題がのしかかっていた。
「何度も言ってますけど、私には好きな人がいるんです」
「でも片想いでしょ?俺ならそんなツラい想いさせないからさ、ね?」
そう言って食い下がってくるのは、少し年上の同僚。
以前から想いは告げられていたが、ずっと断り続けていた。
にも関わらずアプローチはここ最近更に強くなってきていて、ついに今日は外回りから直帰したと思っていた彼にマンション前で待ち伏せされてしまっていた。
「――…っ!や、お願いです離して…っ」
失礼しますとその場から逃げようとした私は、強い力で手首を掴まれて思わず声を上げてしまいそうになる。
堂島の力強い優しさに触れて忘れかけていた恐怖が、瞬間的に脳裏に鮮明に蘇ったからだった。
「おい、いい加減にしとけよ」
その時、静かな声が響いた。
「!?…堂島…っ!」
パニックをおこしかけていた私は、突然のことに力の緩んだ同僚の手を必死で振りほどきながらそちらへ駆け寄った。
堂島はぐっと私の体を自分の背後に庇い入れてくれて、私はその大きな背中にしがみつく。
「なんだお前は!」
「怯えてんのに気付かねえのか。分かってやってんだったら、いい趣味じゃねえぞ」
背中から直接伝わってくる静かだけど低く響く声を聞いていたら、呼吸はすぐに落ち着き震えも治まってくれた。
「お前には関係ないだろう!俺は蔵本さんと話をしてるんだ、そこを…、!?」
同僚は初めこそ強気な口調だったが、少しの間があったと思ったら、はは、と弱々しく笑いながら呟く。
「いやいや、やだな蔵本さん、こんな人と知り合いならそう言っといてくれないと」
そのまま遠ざかっていく足音を聞きながら、たぶん堂島のスーツのバッヂを見たんだろうなとぼんやり考えているうちに気持ちも落ち着いていた。
「おい、蔵本大丈夫か?顔色悪いな、…思い出しちまったんだろ?」
ふう、と息を吐いた堂島が振り返ると同時に私がその手を離すと、堂島は心配そうに訊いてくれる。
「うん、…少しだけ。でももう大丈夫、ほんとにありがとう堂島…」
私はそう答えて笑って見せたあと、ようやく本来初めに浮かぶだろう質問を口にする。
「でもどうして、こんな所に?」
すると堂島は真剣な表情で問い返してきた。
「偶然だと…思ってるわけじゃねえだろ?」
「…っ、」
期待していなかったと言えば嘘になるけれど、それでも言葉に詰まってしまった私に堂島は言う。
「どうしてももう一度逢いたくてお前を捜した。…正直高校時代のことは思い出すことはなかった、いい思い出なんて大してねえからな。だがあの夜…俺の腕ん中で泣いてた女のことは、忘れたくても忘れられねえんだ」
「堂、島…」
「もう二度とあんな風に怯えてほしくねえ。何があっても俺が守るから…俺のものに、なってくれねえか…」
その言葉に涙が溢れた。
けれど同時に零れ落ちたのは、その日までの苦しかった気持ちだった。
「私は――、こんな思いするくらいなら、声なんてかけなきゃよかったって、後悔した…!」
堂島の想いを知った私はただ頷けばいいだけなのに。
なぜだろう、堂島の気持ちに返事をしたつもりなのに…おかしな告白になってしまった。
だけど堂島は優しく微笑んで、今は?と訊きながら私の頬にそっと触れる。
「今もまだ、後悔してるか…?」
言葉にならず首を振ることしかできない私を、堂島は優しく抱きしめてくれた。
***
堂島の気持ちを知ってしまったらどうしても離れがたくて、時間があるならと私は堂島を自分の部屋に誘った。
「いい眺めだな」
「うん、これが気に入ってこのマンションにしたの」
窓の外に広がる景観を眺めて言う堂島に答えながらしばらくそれに見入ってしまって、私ははっと気付く。
「ごめん、適当に座ってて。コーヒーでも淹れるから」
けれどそう言って離れようとした私の腕は堂島に掴まれていた。
「堂島…?」
「俺も後悔してた。…あの夜お前を帰してしまったことを」
「…っ」
真剣な瞳と、それとは裏腹な苦しげな声に言葉が出なくなる。
「でも俺ももう、後悔しなくていいんだよな?」
堂島が訊いてくる。
今は?と堂島が私に訊いてくれたように私も堂島の不安を取り除いてあげたくて、そしてYESの意味を込めて、私は堂島の問いに問いで返した。
「大吾って、呼んでいい…?」
それが答えだと理解してくれたらしい堂島は僅かに見開いた瞳をすぐに細めて、やわらかく笑ってくれた。
伸ばされた手に頬をなでられ、溢れそうな涙を私はこらえる。
「もちろんだ。愛してる、可那子…」
そう言って重ねられた唇のあたたかさに、けれど結局涙は留まってはくれなかった。
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