大吾side





「もしかして、堂島…？」

遠慮がちにかけられた声に俺は足を止めた。

振り返ってみると、俺と同年代くらいの女が俺を見上げている。


「やだ、人違いだったかも…ごめんなさい」

女の顔を見ながら誰だったかと記憶を探っていると、女は少し焦った様子で言う。


「いや確かに俺は堂島だが…、すまない、名前を教えてくれないか」

「神室西高の蔵本可那子。ずっと同じクラスだったんだけど…堂島大吾くん、でいいんだよね？」


名前を聞いて俺は高校時代の教室を思い浮かべた。

直後、確かにそんな女が同級生にいたことを思い出す。

「…ああ、蔵本か！」


蔵本は嬉しさと安堵の入り混じった表情を浮かべた。

「良かった、ほんとに間違えてたらどうしようかと思った。実は結構緊張したんだ」


「変わってないな、蔵本。だから思い出せた」

俺が言うと、蔵本はくすくす笑いながら返してきた。

「ありがと。堂島はなんか…貫禄出たね」


うるせーよ、と俺は苦笑いを浮かべて見せてからふと切り出す。

「せっかくの再会だし、時間あるなら少し飲みにでも行くか？」





＊＊＊





小さなバーで杯を交わし少しだけ高校時代の話をした後、俺は自分が極道なんてもんをやってることを話した。

院卒であることも含め、噂には聞いていたよと蔵本は柔らかく笑う。

確かに堂島組は有名だったし、直接訊かれることはなかったけれどみんな知っていたんだろう。


そして蔵本も自分のことを話してくれた。

去年まで人妻だったこと、それも本意ではない政略結婚だった上、ひどいDVを受け続けた末にようやく解放されたのが去年だということを。


変なこと聞かせてごめんと蔵本は謝るが、話を聞くだけでは想像もつかないような痛みを蔵本が受けてきたのだと思うと俺は言葉を見つけられない。

そんな自分を情けなく思いながら、やっと一言だけ絞り出した。

「…大変、だったんだな」


俺の言葉に蔵本は笑みを浮かべた。

そのどこか哀しげで儚げな笑みを見てしまった俺には、蔵本の誘いを断ることはできなかった。


「慰めて、くれる…？」