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東城会本部の特別応接室の扉が派手な音を立てて開かれた。
その先にいるのは大吾と、可那子の知らない美しい女性。
それを見た瞬間、可那子の中に言いようのない感情が渦巻いた。
「可那子…」
立ち上がった大吾に向け、可那子は吐き出すように言う。
「付き合わないかって言ったくせに、…あんなことしたくせに、結局その程度なんだ…」
――違う、本当に言いたいのはこんなことじゃないのに!
「でもこれですっきりした!ばいばい堂島さん、お幸せに!」
――でもあたしには、逆立ちしたって勝てそうにないもの――…
「可那子!!」
自分を呼ぶ大吾の顔もまともに見れないまま可那子は、踵を返し部屋を飛び出した。
同時に扉を思い切り閉めて走り出すが、その扉は直後に開かれる。
「離してよっ!ぶち壊しにきただけなんだから!!」
追いかけてきた大吾に捕まった可那子は、叫びながら掴まれた腕を振りほどこうと暴れる。
その可那子を連れて大吾は手近な部屋へと入り、抵抗する可那子の両手首を握って壁に貼り付けた。
自分の力では大吾の手から逃げられないことは考えなくても分かる。
可那子は暴れることをやめ、ふいと顔を逸らした。
「お前ひとりじゃここには来れないから、桐生さんも一緒なんだろ?…俺がお前にしたこと、桐生さんに話したのか?」
バツが悪そうに訊く大吾に、可那子は小さく首を振って見せた。
「だったらどうやって桐生さんを動かした?」
「…っ、」
続けざまの問いに、可那子はしばらく沈黙した後ぼそっと答える。
「…てほしくない、って…」
「え?」
「――…お見合い、してほしくないって、…言った!」
相変わらず顔を逸らしたまま答える可那子の表情は髪に隠されて窺えない。
大吾はもうひとつ問いを重ねた。
「何故、…俺に見合いをしてほしくなかったんだ?」
「…、」
「…可那子」
大吾は掴んでいた可那子の手を離し、髪をよけながら頬をなでた。
見えたのは、唇を噛みしめ俯く可那子の横顔。
「堂島さんが…」
そのまま可那子が、ぽつりと呟いた。
そこでもう一度唇を噛み、意を決したように大吾を見上げる。
「堂島さんが好きだから…、っ」
その言葉と共に、大吾は可那子を抱きしめた。
「…知ってる」
「っ!?」
大吾の言葉に可那子はからかわれた気がして大吾の胸を押そうとする。
しかし更に強く可那子を抱きしめた大吾は、苦しそうに言った。
「だから納得いかなくて、あんなことした。…ごめんな」
強引にキスされたあの日を思い出した可那子は、抵抗をやめ小さく首を振る。
安心したように可那子の頭に頬をすり寄せてから大吾は、
「しかしもう、遠慮しなくていいんだよな?」
そう言って可那子の顎を持ち上げた。
「堂島さ…」
「大吾、でいい」
「大吾、さん――…」
可那子の声は、大吾に呑み込まれる。
重ねられた唇がとても熱くて、可那子は目眩を起こしそうだった。
大吾は自分にしがみつく可那子を抱き上げ、ソファへと運んだ。
不安そうに見上げる可那子に大吾はもう一度口づける。
そのキスでソファの背もたれに可那子を貼り付け、片腕で腰を抱き寄せながらもう片方の手を可那子の服に滑り込ませた。
可那子の体がびくんと跳ねる。
大吾のスーツの胸もとを握りしめた可那子は、その顔を恥ずかしそうに俯かせた。
そして包み込むようにふくらみを揉まれた後、背中に回された手にホックを外された時だった。
「…って、待って堂島さ…っ」
もう一度ぴくんと体を跳ねさせた可那子は、焦りを露わに腕をいっぱいに伸ばし、大吾の胸を強く押した。
「可那子…?」
服の中にいた手を追い出された大吾が可那子を見ると、可那子は今度はその腕で自分の顔を隠し小さく呟いた。
「ごめ、なさ…なんか緊張して、限界…」
「でもお前初めてじゃ、…っと、悪い…」
不用意に言いかけた瞬間、きっと睨みつけられ大吾は口をつぐむ。
「そんなの堂島さんだから、に決まってるでしょ…っ!」
しかし可那子は拗ねたような声音でそう言うと、頬を染めてぷいっとそっぽを向いた。
「、可那子…」
大吾は可那子をきゅっと抱きしめ愛おしげにその髪をなでた。
そしてぽつりと言う。
「俺は別の意味でとっくに限界なんだが…」
途端身じろぎする可那子の耳もとに、続けて囁いた。
「テンパっても名前で呼べるようになるくらいまでは、待ってやるよ」
「あ…」
すると可那子は、申し訳なさそうな表情で大吾を見上げる。
大吾はそんな可那子を見てふっと笑うと、
「そんな顔しなくていい。それに、今はお前の気持ちを確かめられただけで満足しとかねえとバチ当たりそうだしな」
そう言って、可那子の額にキスを落とすのだった。
その後東城会本部内はにわかに騒がしくなる。
大事になってしまったと焦る可那子をしかし大吾は離すことはなく、ふたりは鍵をかけたままの部屋にこもっていた。
関東の極道を束ねる東城会会長のお見合いをぶち壊した自分の最悪の行先を想像しかけて、それを振り払うように頭を振る可那子。
腹をくくるしかない、と観念したところで、大吾が小さく息を吐くのに気付いた。
「やっぱり、困ってるの…?」
不安にかられ可那子が訊くと、それに気付いた大吾は小さく笑う。
「いや、俺これから先どんな顔して桐生さんに会えばいいんだろうなと思ってな」
大吾の弱気な発言に一瞬目を見開いた後、今度は可那子がふふっと笑って答える。
「大丈夫だよ、桐生さんは全部分かってた。…逆に謝られたの、もっと早く自由にしてやらなくてすまなかった、って…」
なんでもないことのように気丈に話す可那子を、大吾はそっと抱き寄せた。
感情のままに行動して可那子を傷付け、それでもどうしても欲しくて試すようなことをして、結果可那子を愛する桐生から可那子を奪い取った大吾。
すいません桐生さん、けどもう手放すことはできません…
自分の中に止めどなくあふれる強い想い。
そして腕の中の愛しい存在。
自分の体に回される腕に応えるように、大吾もその腕に力を込めた。
「…あとさ、もうひとつ、いいかな」
するとその時可那子が呟いて顔を上げた。
大吾に目で促され、言いづらそうに続ける。
「お相手の方、ほっといていいの…?あたしひどいことしちゃったし、傷付けちゃったんじゃ…」
頭に浮かぶ、綺麗な人。
心配するふりをしてみても、大吾の隣には自分なんかよりよほど相応しいんじゃないかと思えて落ち込みそうになる。
すると、そんな可那子の気持ちを知ってか知らずか大吾がこともなげに答えた。
「ああ、大丈夫だ。とっくに俺がふられてる。好きな人がいるから見合いはできないと直接本人にお断りされたよ」
その言葉に驚いた様子で大吾を見上げる可那子。
その視線を受け大吾は、悪かった、と可那子の髪をなでた。
首を傾げる可那子に、大吾は懺悔する。
これはある意味賭けだったことを。
可那子の気持ちは自分にあると根拠のない自信だけはあった。
しかし、自分が見合いすることを桐生が可那子に話すかどうか。
そして可那子が桐生に、自分の気持を伝えるかどうかは賭けでしかなかったと。
「じゃあ、賭けは堂…大吾さんの勝ちだね」
それを聞いてにこっと笑う可那子。
「怒らないのか?お前を試したようなもんなのに」
大吾はそれに驚いて戸惑ったように訊く。
可那子はそれに対してどうして?と小さく笑って見せた。
「だって大吾さんが好きっていう自分の気持ちを言わなかったあたしが悪いの。桐生さんに付き合おうって言われた時、『命の恩人』だって思ったら本当の気持ち言えなくて。結果的に大吾さんにこんなことまでさせて、桐生さんを…大切な人を、傷付けた…」
そこまで言って可那子は、大吾の胸に顔を埋めた。
「泣いてんのか?」
髪をなでられながら訊かれ、ふるふると首を振る。
「自分勝手で…わがままで、ごめん…」
くぐもった声が大吾に耳に届き、その言葉の意味が気になった大吾は可那子を上向かせた。
しかしそこで見た可那子の表情に息を呑む。
「あたしやっぱり、…大吾さんが好き」
恥ずかしそうな、今にも泣き出しそうな顔でそう言われ、大吾はぷつりと切れてしまいそうな理性を必死に繋ぎ止めた。
そしてゆっくりともう一度、自分の胸に可那子を包み込む。
「わがままで何でもねえ…、頼むから、ずっと俺のそばにいてくれ…」
囁かれたその言葉に、可那子は小さく頷いた。
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