大切なもの
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「堂島…」
「おう可那子、遅かったな」
いつもの場所、いつもの笑顔で迎えてくれる大吾。
しかし可那子は、緊張のためか立ち止まった場所からそれ以上前に進めない。
「どうした?座れよ」
「あ、あのねあたし…堂島に話があるの」
促されても動けないまま、可那子は小さく言う。
「ああ、俺もお前に言いてえことあったんだ」
するとそれを聞いた大吾もふと思い出したように口を開いた。
「好きだぜ、可那子」
「…っ!?」
あまりにも突然な告白に驚きすぎて、可那子は言葉を失う。
「なんだよ、なんか反応しろよ」
するとさすがに照れくさそうに言いながら立ち上がった大吾に目の前に立たれ、やっとという感じで可那子は言葉を絞り出した。
「あた、しも…堂島のこと好きって、言おうと思ってた…」
「…っ、」
まさかの返事に大吾も言葉を失い、しかしすぐに辰雄の言ってたことはこういうことかと気付き自分の鈍さに苦笑いが浮かぶ。
辰雄には感謝しねえとな、そう思いながら大吾は可那子を抱き寄せつつ身を屈めた。
しかし、大吾が口づけたのは可那子の指先。
「ごめんひとつだけ…、怒らないで聞いてほしいんだけど…」
「内容によりけりだが…努力する」
申し訳なさそうに言う可那子の、自分のキスを制した手を握りながら大吾が答える。
「あのね」
可那子は何度か言い淀んだ後、意を決したようにそれを口にした。
「あのねあたし、…品田のこともすごく大事なの。今も背中押してくれて、だからあたし堂島に気持ち伝えられた…って、堂島?」
言葉の途中で可那子は、大吾が拍子抜けした顔で自分を見ているのに気付く。
「言いたいことって、辰雄のことか?」
「え?うん…」
あっさりと訊き返され、誤解を招いてもおかしくないと思われることを言った可那子も多少拍子抜けする。
「ったくびびらせんな、そんなん俺だって同じだよ。あいつにはでけえ借りがある…あいつのためならどんなことでもしてやりてえと思ってるよ」
しかし大吾の胸に抱き寄せられながらその言葉を聞いた可那子は、ああそうか…そうだよねと自分は当たり前のことを言ったに過ぎないことを理解していた。
「でも今は」
大吾が言う。
「今はお前のことだけ…考えていいだろ?」
見上げた可那子の視線を、大吾のそれが絡め取る。
うん、と小さく答えながら背伸びする可那子と、身を屈める大吾。
ふたりの唇が、静かに重なった。
(16,1,12)
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