大切なもの
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神室西高に通う可那子・大吾・品田は、入学時知り合って以来なんとなくつるむようになったサボり仲間だった。
そして可那子は大吾に恋心を抱いていた。
ふたりとも大好きな可那子だったが、しかし大吾に抱く感情だけが恋だと気付いたのは2年に進級した頃だった。
サボってばかりいるくせに成績は常に学年トップの、極道の息子。
どちらをとっても大吾に対し何も言えない教師たちを尻目に、奔放に生きる大吾が好きだった。
けれど同時に、遠くに感じてもいた。
2年の秋になる頃には、目を離した瞬間に手の届かないどこか遠くへ行ってしまうんじゃないかという漠然とした不安が付き纏うようになっていた。
好き、だけどつらい。
相容れないふたつの感情が、可那子を苦しめていた。
中庭にある屋根付きの休憩スペースが、3人がいつも集まる場所だった。
その日はなんとなくそこには行けず、池の鯉を眺めながらため息をつく可那子。
「蔵本さん?どしたの、あっち行かないの?」
そこに声をかけたのは、いつもの場所までの途中にあるこの場所を通りがかった品田だった。
「品田…」
「あれ、なんかあった?」
振り返った可那子の顔を見るなりそう問いかける品田。
鈍そうに見えて実はよく気が付く男で、ちょっとした表情の変化からもかなり的確にその人のその時の感情を見抜く。
その優れた洞察力は、
「…今のあたしにとっては短所だわ」
可那子は小さく呟いた。
「え?」
「何でもない。…行こ」
訊き返す品田に短く答えて可那子は、スカートに付いた芝を振り落とすようにそれを翻した。
「あ、ねえ」
そのまま歩き出そうとする可那子を品田が引き止める。
「じゃあ俺からひとつ言わせてもらっていい?」
「…なに?」
いつになく真剣な表情の品田に気圧されそうになる可那子。
品田はそんな可那子の正面に立つと、単刀直入に切り出した。
「蔵本さんってさ、堂島くんのこと好きだよね?」
「!?なに、言って…!」
「堂島くんってけっこうモテるしさ、急がないと誰かに取られちゃうかもよ?いいの?」
動揺する可那子を無視したまま品田は問いを重ねる。
「いいんだったらさ、俺と付き合わない?」
「…え?ちょ、品田…っ」
想像もしてなかった言葉を次々と投げかけられたため、最後に何を言われたのかもすぐに理解できなかった。
気が付いた時には、可那子の体は品田の腕の中だった。
授業はサボってもそれだけはサボることのなかった野球で鍛えられた見た目より大きく感じられる体に、可那子の体はすっぽりと包み込まれる。
ほとんど抵抗を見せない可那子を意外に思いながら品田は、腕の力を少し緩め品田を見上げる可那子の唇に自らのそれを近付けた。
「!」
すると、少し背伸びした可那子が最後の隙間を埋める。
自分もしようとしていたこととは言え、さすがに驚いた品田は慌てて可那子の体を離した。
「どしたの?蔵本さん…」
「なにが?」
「え、なにがって…」
「変なの。品田がしようしたくせに」
「そうだけど!蔵本さんは…、」
そこまで言った時可那子の表情から何かを読み取った品田は、一度言葉を切った。
その後発せられた問いに可那子は驚き、そしてため息をつく。
「告白するのがこわいの?それとも…好きなのがつらいの?」
「…ほんと、あたしにとっては短所だわ」
もう一度小さく呟いた可那子は、観念したように笑い、そして話した。
大吾を好きだということ、けれどとても遠く感じてしまうということ、漠然と感じている不安のことを。
「そっか、なるほどね…」
何も言わず可那子の話を聞いていた品田は納得したようにそう言った後、申し訳なさそうな表情で続ける。
「もっと早く気付いてあげられなくて、ごめんね」
「そんな!謝るのは、…あたし…」
可那子の言葉の意味を、自分の気持ちに応えられなかったことだとすぐに理解した品田は、ううん、と首を振った。
「俺は蔵本さんも堂島くんも大好きだし大事だからさ。これからも友達…あ、できれば俺も可那子、って呼びたいけど…」
「あたしだって品田のこと大好きだし、大事だよ!呼び方だって名前で全然OKだし!」
品田のささやかすぎる願いを二つ返事で快諾する可那子。
ありがと、と嬉しそうに笑った品田は、
「だから堂島くんもさ、きっと同じこと考えてくれてると思わない?」
そう言って可那子の顔を覗き込む。
「堂島も…?」
「そ。だからさ、どこへも行ったりしないと俺は思うよ?」
にかっと笑ってあっけらかんと放たれた品田の言葉を、可那子は不思議と素直に信じることができた。
「気持ち、伝えなよ」
「…うん」
言われ、小さく頷く可那子。
「ありがと、品田…行ってくるね!」
大吾に向かって駆け出す背中を見送りながら品田は小さく笑い、息を吐いた。
「なあ、辰雄…」
「ん?」
「なんか最近、距離置かれてる気がすんだけど」
「誰に?」
「…可那子に」
「へ?なんで?」
「なんでって、こっちが訊きてえよ」
「そうじゃなくて…なんでそう思ったのかってこと」
「いや、なんとなくなんだけどよ」
「なんとなく、って…」
「仕方ねえだろ、そうとしか答えらんねえんだから」
「まあそんなことはないと思うけどね、」
「あいつやっぱ、俺が極道の息子だから付き合いやめようとか思ってんのか?」
「蔵本さんがそういうの差別する子じゃないのは堂島くんも知ってるでしょ」
「そう、だけどよ」
「やっと自覚した?」
「…何を」
「蔵本さんが好きだってこと」
「!?」
「だから少しの変化でも気になるんでしょ?」
「……」
「堂島くんは将来人の上に立つ人なんだから、学校の勉強だけできてもダメなんだよ?」
「…悪かったな」
数日前の大吾との会話、その最後の照れたようなふてくされたような表情を思い出し、品田はもう一度息を吐く。
「まったく、ふたりともほんと世話が焼けるよね」
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