③
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可那子の体のリズムが戻るのを待って、大吾は可那子を抱いた。
赦されないと分かっていてそれでも愛し合い、世間の目を欺いてでも愛し続けると誓ったふたりにとってそれはごく自然な行為だった。
しかしその中にあっても大吾は、避妊だけは絶対に怠らなかった。
だからいくら二人きりであっても、不確実な場所では可那子を抱かなかった。
***
そんなふたりの生活が始まってしばらく経った頃、可那子はあることを考えるようになっていた。
ただ、それを解決するためには大吾にも話す必要があり、しかしそれだけはどうしてもできず可那子はひとり悩んでいた。
「最近何を悩んでいるんだ?」
当然大吾がそれに気付かないはずもなく、ごく当たり前に可那子に問う。
しかし返された可那子の答えは、大吾にとっては意外なものだった。
「なんでもない、です…今月は少し生理が重くて、だから」
心配かけてごめんなさいと大吾の腕をすり抜けていく可那子を無理に追うこともできず、そこは引き下がるしかなかった。
***
しかしその後も、平静を装ってはいるが可那子の様子はおかしいままだった。
「お帰りなさい大吾さ…、!?」
それからしばらく経ったある日、部屋に戻り出迎えてくれた可那子の無理して作る笑顔を見た大吾は、ただいまも言わず目の前の体を抱きしめた。
「やはりこれ以上は黙っていられない…頼むから話してくれ、可那子…!」
無理に聞き出すようなことはしたくなかった。
しかし最初の答えを無理矢理にでも信じられたのはせいぜい一週間だった。
どんなに考えても答えが見つけられなかった大吾は、苦しげに訴えた。
「それとも、やはり俺には力になってやれないことか…?」
その言葉にびくっと体を震わせた可那子は、大吾と自分との間に腕を入れて隙間を作り、そこに俯いた。
大吾がいつも与えてくれる大きな優しさが、今の可那子にはつらかった。
こうして触れられることも、どうしようもなくつらかった。
抱きしめられるだけで欲情してしまうから。
そんな浅ましい自分を――…隠しきれなくなってしまうから。
しかし本当は可那子も分かっていた。
自分ももう限界だということを。
こんな風に愛してくれる大吾に隠し通すこと自体、無理な話だということも。
「私…、自分がこんなにいやらしい人間だと、思わなかった…」
可那子は俯いたまま、消え入りそうな声で呟いた。
そのまま大吾のスーツの胸もとを握りしめ、何か続けようとしては言葉を呑み込む。
「可那子…」
大吾が小さくその名前を呼ぶとようやく、私は…、と可那子は言葉を絞り出した。
「…私は、大吾さんと……、ちゃんと…繋がりたい、ん…、です…!」
それを聞いた瞬間、大吾は目を見開いた。
「私を、見ないでください…っ」
しかし直後には、そう訴え腕の中から逃げようとする可那子をもう一度強く抱きしめていた。
「すまない…!」
「…なぜ、」
大吾さんが謝るのですかと訊く前に、大吾は続ける。
「俺が我慢すればいいと思っていた…。気付いてやれなくて…そんなことを言わせてしまって、すまなかった…」
「我慢して…いたんですか…?」
驚いたように顔を上げた可那子を見て、大吾はわずかに苦笑いを浮かべた。
「当たり前だろう?初めて抱いた時のお前を、忘れられるはずがない…」
それを聞いて恥ずかしそうに大吾の胸に顔を埋める可那子の頭を抱きしめながら大吾は、この時ようやく可那子が何を考えていたかに気付いていた。
「じゃあ、」
「しかしそれは駄目だ」
「え…」
リビングへと入りソファに落ち着くと、可那子は自分が大吾と繋がるために何をしたいかを話そうとした。
しかし何も言わないうちにそれは却下され、戸惑いを露わにする。
隣に座る大吾が、お互い向かい合うように自分と可那子の体をずらした。
「薬を、飲むつもりなんだろう?」
そういう手段があることくらいは知ってはいたが、
「お前にだけ負担をかけることはできない」
言いながら、膝に乗せられた可那子の手を握りしめた。
すると可那子はその大吾の手に自分の手を重ね、にこりと笑う。
「私自身が望んですることですから、負担なんかじゃないです」
「しかし…」
「だめ、ですか…?」
それでも渋る大吾を、少し拗ねたように、しかしねだるように可那子は見上げた。
「…っ」
大吾は一瞬言葉を詰まらせるがその後ふっと困ったように笑って、
「お前には…敵わないな」
更に上から握った可那子の手を、ぐっと引き寄せた。
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