③
夢小説設定
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弥生が出て行った後しばらく、会長室は沈黙に包まれた。
「…大丈夫か?」
その言葉が適切かどうか分からないまま、ただ沈黙を破るように大吾は問いかけた。
「驚きすぎて、正直まだ実感がないです」
可那子はひとつ息を吸ってから口を開いた。
「誰に嘘をついてでも…って覚悟をしていたんです。でも本当は血が繋がっていないって言われて、それは嬉しいことなのに…、ごめんなさい…」
「謝らなくていい。気持ちは分かるから」
大吾は気持ちを上手く表せず俯いてしまった可那子を抱き寄せる。
「だがこう考えてみてくれ。血が繋がってなかったお陰で俺たちは、――別の形で繋がれるだろう?」
「別の、形…?」
可那子は体を起こし、大吾に向かい合うように体をずらした。
ああ、と大吾は頷き、
「と言っても、血の繋がりに比べれば気持ちなんてものは不確かなものかもしれない。それに俺は極道だ。お前を危険な目に遭わせるかもしれない。しかしそれでも俺は、必ずお前を守るから――…」
真剣な眼差しを可那子に向けた。
「だから可那子、俺と――…結婚してくれ」
他人であるからこそ作れる絆。
大吾の言葉には、その想いが強く込められていた。
「――…、はい…」
答えると同時に、その頬に涙が伝う。
それを拭い取るように目尻、頬へと口づけた大吾は、そのまま唇を可那子のそれへと重ねた。
「あ、あの…、ここじゃ…」
合わせるだけのキスの後唇をなぞられその先を促されると、可那子は小さく抵抗を見せる。
しかし大吾は可那子の体に回した腕から力を抜かない。
「もう隠す必要ないだろ?」
「でも、…っん、」
言いながらもう一度唇を合わせると、そのまま舌を差し込んだ。
逃げることなど当然できず、大吾のスーツの胸もとを握りしめ吐息をこぼす可那子。
しかし、
「…っ!これ以上は、だめ…っ」
大吾の手が可那子の服に滑り込んだ時、可那子は大吾の体を強く押した。
それでも止まらない大吾に、いつ誰が訪れるか分からない場所なのにそれでも流されてしまいそうで泣きそうになっていた時、コンコン、と会長室の扉がノックされた。
ふたりの体がびくりと震えて固まり、直後条件反射的に体を離す。
可那子が慌てて身繕いをし大吾が立ち上がった時、もう一度ノックが響いた。
入れ、と低く促されて扉を開いたのは、柏木だった。
「柏木さん!?」
普段弥生や柏木などは、ノックの後返事を待たず部屋に入る。
その柏木の姿に驚く大吾に、
「話は姐さんに聞いた。大吾に用事だと言ったら気を付けて入れと言うからな」
柏木はそう言って苦笑いを浮かべる。
「あ、あの私帰ります…っ」
ため息をつく大吾の影で真っ赤になった可那子は、俯いたまま立ち上がった。
「ああ、急ぎだがすぐ済むから」
柏木が言うが、
「いえ、お仕事の話ですよね、私は…」
可那子はそう答えながら先ほど柏木が入って来た扉へと向かった。
「だったら森永の所で待っててくれ、終わったら行く。話もしないといけないからな」
そう言った大吾に頷き、柏木に会釈をして可那子は部屋を出た。
***
可那子は本当は妹ではなく恋人なのだということを、大吾は護衛役のふたり含め直近の構成員に話した。
恋人だと公言することで特に可那子の身の危険度が上がることは承知の上だが、将来的に見てもそろそろ潮時と判断した、と。
それを聞いて初めは多少なりとも驚いていた構成員たちだったが、すぐに気を取り直すと
「しかし、会長にとって大切な方という部分は変わりません。ですから、どちらにしても我々の仕事も変わりません」
と答え、今にも泣き出しそうな表情でありがとうございますと頭を下げる可那子に焦らされていた。
『将来的に見て』――この言葉の意味をきちんと理解した者は少なくない。
口には出さずとも、今まで以上に気を引き締めなければならないと彼らは心に誓っていた。
***
部屋に戻った可那子は、ぐったりと体をソファに沈めた。
無理もない、と思いながら大吾は私が、と慌てて立とうとする可那子を制し自らコーヒーを淹れる。
「悪かったな、可那子…婚約指輪も用意してやれなくて」
大吾が口を開いたのは、静かな時間がしばらく流れた後だった。
その言葉に可那子は驚いたように大吾を見た後、ふふっと笑う。
「今日の昼間までは兄妹だったんですよ?それに…、私には必要ないものです」
「可那子…?」
「誰に憚ることなく、大吾さんのそばで大吾さんを愛することができる…。ようやくそれが実感できて、私はそれだけで幸せなんですから」
大吾は可那子を愛おしそうに抱き寄せた。
「愛している、可那子…」
「私も、大吾さんを愛しています…」
可那子の腕が自分を抱きしめるのを感じ、大吾も可那子を強く抱きしめた。
***
翌朝。
いつものようにベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばした可那子の手は、大吾の手に絡め取られ本来の目的を果たせない。
同時に小さく名前を呼ばれ、思い出す。
「そっか…もう、必要ないんです、ね…」
毎朝8時の習慣は昨日で終わりを告げた。
可那子は引かれるままに伸ばした腕を大吾の体に回す。
そのぬくもりに頬を寄せ、幸せを噛みしめた。
→おまけ。