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死んだと聞かされていた父親は、極道の世界を生きた男だった。
名は堂島宗兵。
母親は宗兵の数多いる愛人のうちのひとりだったのだが、可那子を身ごもったことで自ら身を引いた。
なぜなら可那子は、愛人との間には子供は決して作らなかった宗兵との間にできた子だったから。
本妻である弥生の報復を危惧した母親は可那子を守るため、宗兵にも何も知らせず彼の元から去ったのだった。
蔵本可那子、24歳。
病床の母からそう聞かされたのは、初春の頃だった。
母親は続ける。
10年以上前に本当に亡くなってしまったため父にはもう会えないということ、そして可那子には兄がいるということ。
弥生との間に生まれた子で、名は堂島大吾。
歳は可那子より10歳ほど上、だが宗兵亡き今はどうしているかは分からないと。
その兄を頼れとは母親は言わなかったし、弥生がいる以上言うことはできなかった。
父親がいないことでさみしい思いをさせてごめん、守れなくてごめんと謝りながら、数日後母親は静かにこの世を去った。
写真こそなかったけれど、可那子には分かっていた。
母が父を、宗兵を愛していたことを。
どんなに勧められてもお見合いなどせず恋人も作らず、ただ可那子を愛し育ててくれた母。
この世のしがらみなんて持っていかなくていい、天国で幸せになってほしいと切に願い、可那子は母を見送ったのだった。
***
堂島宗兵、堂島大吾。
残念ながら顔写真は悉く削除されている様子だったが、テキストだけの情報を見ても、そのキーワードから導き出される事実に可那子は驚愕する。
宗兵は堂島組という組の組長だった。
11年前、事件は解決済みとはいえ宗兵は自分の組の組員の手により命を落としていた。
そしてニュースで見たミレニアムタワー爆破事件、東城会vs近江連合の戦争。
その東城会という、極道と呼ばれる組を束ねる大きな組織の6代目会長、堂島大吾――…。
大吾がネットの検索になどひっかからない普通の人間であったなら、捜し出し会いに行こうと思っていた。
しかしこの状態では、自分が名乗り出たらスキャンダルにもなりかねない。
可那子はためらい、悩んだ。
しかし結局、兄にひとめ会いたいという気持ちには勝てなかった。
近くにいれば姿を見れるかもという安易な考えで、可那子は決意を固めた。
しばらく留守にしますと大家に告げ、勤め先には一身上の都合でと辞表を出し、田舎を飛び出す決意を。
かくして可那子はまだ見ぬ兄の暮らしているだろう街、神室町へとやって来たのだった。
***
神室町にやって来た可那子は、まずアパートを探すことにした。
不動産屋の店頭に貼られている格安物件のうち、住にこだわらない可那子は神室町のピンク通り側から少し外れた所にあるアパートを借りようと決める。
そして店内で店主と話していると、ひとりの男が店を訪ねて来た。
店内を眺めながら可那子の契約が終わるのを待っていた男だったが、会話の内容から可那子が契約しようとしているアパートがピンク通り近くだと気付き思わず声をかけた。
「ピンク通りの辺りは治安が悪い。あなたのような女性が一人で暮らすには危ない場所だ。お節介かもしれないけれど、よした方がいい」
そう言った後、戸部と名乗った男は突然声をかけられ戸惑う可那子にひとつ提案を投げかける。
「実は私は、バンタムというバーを経営しているんだ。最近忙しくなってきたので新しく従業員を雇おうと思っていたところでね。もし仕事もこれから探そうと思っているならだが、どうかな、衣食住完備のうちで働かないか?」
衣食住完備ということで、知り合いでもあるこの不動産屋にも広告を置いてもらおうとやって来た所だったらしく、これはもう必要ないかなとちらしを破る振りをしながら戸部は可那子の返事を待つ。
客を取られる形になった不動産屋だったが、しかし可那子が選ぼうとしていた物件は確かに少し心配でもあった。
そのため、戸部なら信用できるから大丈夫だと後押しをし、それもあって可那子はバンタムで住み込みで働くことになったのだった。
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