雨と虚
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隊長はしばらく、何も言わずただ私を抱きしめてくれていた。
私が落ち着くのを待っていてくれたみたいで、
「すみませんでした…」
と、私が身じろぎした後ようやく、隊長は抱きしめる腕をわずかに緩め
「話せ。何があった?」
静かに問いかけてきた。
「……」
答えあぐねる私を急かす風もなく、隊長は言葉を続けた。
「
私は隊長のその淡々とした言葉に驚きと…自惚れだと知りつつも嬉しさを感じた。
隊長は、私を見てくれていた。
当然それが、数多いる隊士の中の一人へ向けられただけのものだとしても。
勝手に期待して自らそれを否定し、内心苦笑いが浮かびそうになる私に隊長はもう一度問いかけてくる。
「兄をそこまで駆り立てる何が、雨の日にあった?虚と…先ほどの鬼道も関係しているのだろう?」
鬼道…その言葉に、体が一瞬びくりと震えた。
話してしまえば楽になれるだろうか。
もしかしたら六番隊には…朽木隊長の傍にはもう、いられなくなってしまうかもしれないけれど…。
「聞いて、いただけますか…」
私は意を決し、目の前の隊長を見上げた。
「…私が、死神になる前の話です…」
私はなるべく冷静に…と気を付けながら、誰にも話したことのない、だけど忘れたくても忘れられないあの日のことを、全て話した。
土砂降りの雨の夜、目の前で両親を虚に殺されたこと
鬼道は、私の為にわずかに霊力のあった父が独学で修得し、それを私に教えてくれたものだということ
その鬼道で、私が虚を倒したこと
だけど、自分が鬼道を使えることなど、今まで忘れていたこと
無意識に撃った先ほどの鬼道で、全てを思い出したこと…
思い出すと悔しくて、涙をこらえることはできなかった。
「…だから私は、雨の日が嫌いで…虚が、憎いんです…!」
嗚咽でうまく喋れない私の話を、しかし隊長は何も言わずに聞いてくれていた。
「私怨…です。許されません。でも、私は…っ!」
抑えきれなくなった想いを叫んだ私は、思わず隊長の死覇装を掴んだ。
と同時に隊長は私を再び抱きしめて
「…もういい、すまなかった」
と、どこか苦しげに言った後、
「今まで一人で抱えて来たのか…つらい思いをしてきたのだな」
ゆっくりと言葉を続けた。
労わるような声だった。
嬉しかった。
だけどつらくもあった。
弱い自分の心が、隊長のその優しさにすがりついてしまいそうになるから。
「優しくしないで下さい…!期待して…、しまいますから…っ」
だから、私を抱きしめる腕から逃げ出したかったのに。
隊長はその腕を緩めてはくれなかった。
しかし、
「…お願いです…、隊長…っ」
「すればよい。誰にでもこんなことをする程、私は節操のない男ではない」
「…え…?」
懇願する私の耳に届いたのは、思わず聞き返してしまうような言葉だった。
「朽木、隊長…」
私は信じられない思いで隊長を見上げた。
隊長はそんな私を真っ直ぐに見つめ、言葉を紡ぐ。
「これからは、私が傍にいる。そなたが、私から離れない限り…」
そこでふと何かに気付いたように言葉を切り、
「いや、私が離さぬ。だから、もう二度と…ひとりで泣かぬと誓え」
いつの間にかまたあふれ出した私の涙を拭ってくれながら、そう言って強く抱きしめてくれたのだった。
私の中の全てにしみわたるように伝わる、隊長の心。
「はい、お約束します…」
私もそれに応えるように、頬に触れたままの隊長の手に手を添え…誓いを立てた。
土砂降りだった雨は、いつの間にか上がっていた――。
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