雨と虚
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その後、私は死神になった。
いつもお腹を空かせていた私に、生前父さんが教えてくれた。
「可那子、お前には霊力がある。死神になりなさい。そうすれば、もっと楽な暮らしができるようになるんだ」
私は父さん母さんと離れるなんて考えられなかったから、死神になんてなる気はなかった。
だけどそのふたりももういない。
ふたりがいないのなら、ここに…三人で暮らしたこの家にいる意味もない。
私に本当に死神としての素質があるのなら、力を付けて私と同じような人を作らない為に生きてみるのも悪くないと思った。
四年後――。
護廷十三隊六番隊第三席…それが私の肩書きになっていた。
「――…」
ある雨の夜、現在尸魂界を離れている阿散井副隊長の分の残務をこなしながら、私は小さくため息を吐いた。
仕事が嫌なんじゃない。
雨が嫌いなだけ。
特にこんな土砂降りの夜は、どうしてもあの日のことを思い出してしまうから。
「…ダメだ。今日はもう帰ろう」
それでも当初に比べれば、精神的にも強くなってはいた。
が、今日の雨はいつもと何かが違っていた。
残った仕事を明日にまわそうと決めて片付けを始めた時、執務室の扉が開いた。
入って来たのは、朽木隊長だった。
「隊長…何かあったんですか?」
いつもと違う空気を感じた私は、隊長に問いかけた。
「現世で虚が大量に出現しているらしい。動ける死神から順に現世へ出向く。…行けるな?」
厳しい表情で隊長が言う。
「!…はいっ」
突然の命令で驚いたけれど、不謹慎ながらも私は安堵していた。
この土砂降りの尸魂界から逃げ出せると思ったから。
…なのに。
穿界門を抜けた現世もまた大雨で…私はもう一つ小さなため息を吐き出した。
ただ唯一の救いは、朽木隊長が一緒だということ。
六番隊に入隊した時からずっと大好きで、決して手の届かない人だと分かってはいたけれど、それでも諦められなかった…私にとってただ一人の、男の人。
その隊長と並び、集中して霊圧を探る。
「――来るぞ」
「はい…!」
直後、虚が姿を現した。
とんでもない数だった。
「散れ――『千本桜』」
朽木隊長が斬魄刀を構え、凛とした声で解号を唱える。
「踊り、切り裂け…」
私も自身の斬魄刀の柄を握り、叫んだ。
「――『
朽木隊長の千本桜も、私の鈴風も、多角攻撃を得意とする。
おびただしい数の虚も、残りわずかになっていた。
「――可那子、後ろだ」
注意を促され、振り返る。
「――…!」
そこにいた虚を見た瞬間、体が強張った。
「あ…、ああ…!」
似ていた。
あの日の虚と、似すぎていた。
虚が、振り上げた腕を…巨大な爪の付いた手を、凄まじい速さで振り下ろす。
母さんを庇うように父さんが、そしてその後、母さんも…目の前で殺された。
私は…、私は…!
「あああああ――っ!!」
虚に向けられた手のひらからほとばしる
けれどそいつは素早い動きでそれを避ける。
闇雲に撃っても当たる筈がない。
「…っ、父さんと…母さんを…!」
私は完全に混乱していた。
目の前の虚は、あの日のあいつではありえないのに。
あいつは、私が殺したんだから。
だけど、もう止められなかった。
「返せぇ…っ!!」
私は鈴風を構え、飛び出した。
「可那子…っ、不用意に行くな…!」
隊長の声が聞こえた気がした。
けれどやっぱり私は、もう自分を止められなかった。
振り下ろした刀の切っ先は、虚の腕をかすめた。
返す刀でもう一撃…と体勢を立て直すより早く、虚のもう片方の腕が凄まじい速さで私に迫っていた。
「…っ!」
やられた――…と思った刹那。
聞こえてきたのは、虚の断末魔の叫び。
目の前には、六の文字。
朽木隊長の…背中。
「隊、長…」
隊長がゆっくりとした動きで、刀を鞘に納めるのが分かった。
それを見つめる私の視界の隅に、赤い何かが映った気がした。
そちらに意識を向ける。
その正体を知り、私は指先が冷たくなるのを感じた。
朽木隊長の左手の先から、ぱたぱたと滴る赤いしずく。
びしょ濡れになり体に張り付いた死覇装の袖からも、雨と共にそれは落下していく。
「隊長…っ!!」