好きなのに、好きだから
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「仁…」
自分を呼ぶ声に顔を上げると、そこにはバスローブに身を包み所在なげに立つ可那子の姿があった。
向かい合って立つと、シャンプーの香りが仁の鼻腔をくすぐる。
強く抱きしめたいという衝動を抑え、仁はそっとその頬に触れた。
しかし可那子はその瞬間、びくりと身をすくめる。
「可那子、さん…」
仁は、可那子の体が震えていることに気付く。
「こわい、ですか?」
そう訊かれ、俯いた可那子は必死に首を振った。
しかし仁が可那子を抱きしめようとするとその体は更に萎縮し、仁の胸に手を当てた可那子は
「どうして…仁じゃなきゃ、イヤなのに…」
消え入りそうな声で呟いた後、
「、こわい…」
ひとことそう言って、ぽろぽろと涙をこぼした。
「じゃあ、今日はやめましょう」
さらりと言いながら仁は、両手で可那子の涙を拭う。
「でも…っ」
「何も言わなくて大丈夫ですから。ね?」
そして可那子をそっと抱き寄せる。
「…、ごめん…」
「謝らないでください、無理はさせたくないし…してほしくないですから」
仁は優しくそう言ってから、申し訳なさそうに続けた。
「俺の方こそ、気付いてあげられなくてすみません。女性にとってはとても大切なことなのに」
「そんな…っ」
可那子が顔を上げるのと同時に、仁は腕を緩める。
「大丈夫です、今日はもう寝てください。って、あなたをこわがらせた俺がいちゃ眠れませんよね、俺外しますから」
「え?仁…っ」
そう言い残すと仁は、可那子には何も言わせないままベッドルームを出てドアを閉めた。
ここがスイートでよかったと思いながら仁は、リビングルームのソファに体を沈め大きく息を吐き出した。
二人がいるのは、三島財閥所有の高級ホテルだった。
驚く可那子に仁は、これは俺の最初で最後のわがままです、と笑ったのだった。