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「仁!!」
ヘリは可那子を降ろした後飛び去って行った。
ヘリを見送るように空を見上げる仁に向かって可那子は走る。
「やはり来たか」
ニーナと同じことを言う。
少し困ったように笑って。
「仁、どうしてあんなこと…!!」
――三島財閥、世界に宣戦布告――
街で配られていた号外の見出しが可那子の頭に鮮明に蘇る。
「世界を手に入れるなんて馬鹿なこと…!!」
仁の胸もとにすがりつくようにしながら可那子は叫ぶ。
「呪われた三島の血をこの手で終わらせるため」
幾度となく仁の口から聞かされていた言葉。
「だからって、なんで世界を相手に…」
「力が必要だからだ。三島の力は生半可じゃない」
仁の言いたいことは分かるつもりだった。
しかし頭が理解しても心がそれを――仁が孤独に戦うことを――どうしても納得できなかった。
「…じゃああたしが止める」
「可那子?」
「仁が誰かを傷つける前に――誰かに傷つけられる前に、あたしが!」
俯いてしまいそうだった顔を力強く上げた可那子は、仁の体を突き飛ばすと同時に数歩後ろへ下がった。
そして見せた構えは、三島流喧嘩空手のそれ。
「可那子、何を…」
「問答無用!!」
戸惑う仁に向かって駆け、拳を繰り出す。
「よせ、お前とは…」
次々繰り出される拳を避け後ずさりながら仁が言うが、
「うるさい!手加減しないで、よ…っ!」
可那子はそう言いながら同時に蹴りを放つ。
「…っ!」
いつも通りに何気なくその蹴りを受け止めた腕に、痺れが走った。
今でこそ格闘スタイルを分かち三島の家を出た二人だったが、以前は三島平八のもとで共に格闘の手ほどきを受けていた。
可那子が三島家で暮らすようになったのは13歳の時。
家に押し入った強盗に両親を殺され、自分も大怪我を負わされた。
気を失ったことで死んだと思われ命は助かったが、意識を取り戻した可那子は自分の非力を責めた。
大切なものを護れる力を手に入れるため…紆余曲折を経て三島平八のもとへやってきたのだった。
それと時を同じくしてやって来たのが、15歳の仁だった。
お互い切磋琢磨しながら力をつけてきた、その可那子が今本気で仁に相対している。
おそらく今まで、本気でぶつかり合ったことはなかったかもしれない。
こんな日が来るとは思っていなかったから。
その可那子の本気を、仁は汲み取った。
一旦間合いを取る。
が、可那子はそれをさせない。
自分のけりの間合いを保ち、回し蹴り。
避ける仁。
予想済みの行動に、放った足が着地した瞬間次の足が顎を狙う。
それを更に避けた仁の肩に、振り上げた直後瞬時に振り下ろされた踵が突き刺さる。
そのまま振り抜かれバランスを崩した仁のボディめがけ、可那子は更に拳を繰り出す。
拳と拳の激しい応酬。
リーチの差の分仁に分があると思われるそれに、しかし可那子は平八も認めた持ち前のスピードでカバーし引けを取らなかった。
とは言え――…決着はあっけないものだった。
やはり仁は強く、その仁に本気を出させることは今の可那子にはできなかった。
「――…っ!!」
気付けば、仁の手刀が可那子の喉もとに突き付けられていた。
可那子は両腕から力を抜き、目を逸らす。
仁もすっと手を引いた。
「強くなったな」
「気休めなんていらない!」
可那子は叫び、
「悔しい…今のあたしじゃ全然敵わない…!」
こらえきれなかった涙を乱暴に拭う。
その時だった。
「本当は…それでいいんだ」
呟いた仁が、突然可那子を抱きしめた。
「な…っ!仁!?」
「できればお前には闘いなど知らずに生きて欲しかった…お前が望んでここにいる以上、叶わない願いだけどな」
戸惑う可那子をよそに、仁は独り言のように呟く。
「そうよ!勝手なこと言わないで!!あたしには力だけが…」
「好きなんだ」
「!?」
叫び、仁の腕から逃げ出そうとしていた可那子の動きが予想もしていなかった言葉によって停止させられる。
「ずっと…出逢った時からお前が好きだった。今もその気持ちは全く変わっていない」
耳に届く、狂おしげな仁の声。
「こんな時にそんなこと言うなんて…ずるいよ…」
あまりにも唐突な告白に何も言えなくなってしまった可那子が呟くと、
「俺を赦すな」
仁は更にその腕に力を込めた。
「恨んで、憎んで…いつか必ず俺を殺しに来い」
「仁…、うっ!」
直後、顔を上げようとした可那子のみぞおちに鈍く重い衝撃が与えられた。
「ど、して…じん…」
日々鍛えてるとは言え不意を突かれ完全に無防備な体に打ち込まれたそれは、可那子の意識を奪うのに十分な力だった。
薄れゆく意識の中で可那子は、あの時のニーナの笑みの…本当の意味に気付いていた。
ああ、ニーナは知ってたんだ…仁の気持ちを。
そして分かってたんだね、あたしがどういう行動をとるかも、こうなる、ことも――…。
そう、そしてニーナには分かっていた。
逢えばつらい別れになるということが。
それがどちらにとってよりつらいのか、想像に難くないことも…。
ずるりと崩れ落ちる体を支えながら、仁は取り出した携帯でヘリを呼び戻す。
近付いてくる轟音を聞きながら仁は可那子を抱き上げ、その唇にそっとキスをした。
そして顔を上げた時――その顔は可那子の幼なじみの仁ではなく、三島財閥頭首、風間仁のそれとなっていた。
そして仁はその日を境に、可那子の前から姿を消したのだった。
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