⑦
夢小説設定
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「みしま…かずや、さん?」
「そう、その男の所へ行くんだ、記憶が戻るかもしれない」
リビングのソファに並んで座り、仁はそこで別れを切り出した。
「でもあたし…記憶戻らなくてもいいから、仁といたいよ…」
可那子は仁を見上げ、服の腕のあたりをきゅっと握る。
もちろん、仁も可那子を手放したくなどない。
しかし可那子の髪を優しくなでながら、仁はさとすように言う。
「もしかしたら、大切な人や大切なことを忘れてしまっているかもしれないだろう?」
「大切な…人…?」
「そう、だから記憶を取り戻した時もしまだ俺を『想って』くれていたなら…その時は戻って来てくれ、俺の所に」
「うん…分かった」
不安げな様子の可那子を、たまらず仁は抱き寄せた。
「仁…」
やはり行くなと、俺のそばにずっといてくれという言葉は喉元まで出かかっていた。
しかしそれを呑み込み代わりの言葉を絞り出す。
「大丈夫だ。性格にはだいぶ難ありだが…悪いようには絶対にされない」
「…うん」
こうして胸中様々な想いを抱えたまま、仁は可那子を一八のもとへ送り出す。
本当の理由は自分だけが知っていればいい。
記憶を失っているとは言え、ずっと想い続けた可那子と心を通わせ、この腕に抱くことができた。
脆く儚いものだと分かってはいたがそれでも、その事実だけが仁を支えていた。
別れの時、仁は可那子の唇に一つ優しくキスをした。
これが永遠の別れのキスにならないようにと…切なく哀しい、祈りを込めて。
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