④
夢小説設定
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「幸永さん」
「可那子様…どうかされましたか?」
一八様が無事に戻られ俺たちの生活も以前と同じように忙しくなってきた頃、俺は可那子様に呼び止められた。
「これは?」
可那子様はリボンのかけられた小さな箱を俺に差し出して、何故かしどろもどろになりながら申し訳なさそうに言う。
「お借りしたハンカチ、あの、一八さんが、いえあの、なくしてしまって、…ごめんなさい…。代わりに、なんて失礼なんですけどお詫びにこれを…」
俺はその言葉でようやく、すっかり忘れていたその存在を思い出した。
「そんな!返さなくて良かったんですよ!?」
「そういうわけにはいきません!それに、これは皆さんに、ですけどいつもお世話になってますから」
焦る俺にきっぱりと言い返した後、可那子様はにこりと笑う。
「では、遠慮なくいただきます。ありがとうございます」
これ以上拒む理由もなく、俺は素直にそれを受け取った。
「私の方こそ、本当にありがとうございました」
そう言って柔らかく笑う可那子様の瞳には、哀しみの色はもう滲んでいなかった。
「ん?…一八様が?」
可那子様が帰って行った後、俺はあることに気付き思わず独りごちる。
「…はは」
直後、乾いた笑いがこぼれた。
あの一八様が、世話係の一人でしかない俺に…やきもち、か。
叶うはずのない恋だったんだ。
分かっていたこと、だけどな。
でも、これだけは…。
俺は手の中の小さな箱を見つめた。
どうかこれだけは、赦してください…。
そう願いながら俺は、それをポケットにそっと忍ばせた――。
(13,12,10)
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